古代竜狩り 67
その頃ジュラードたちと交代するようにドラゴンの相手をしていたマヤたちは、古を生きる強敵にやや苦戦していた。
フェイリスが打ち込んだ砲弾がドラゴンの体の表面で炸裂し、追い討ちをかけるようにウネの放った魔力矢が雨のようにドラゴンへと降り注ぐ。
爆煙と閃光が入り交じる激しい戦場の中心で、しかしドラゴンは君臨する王者の如き余裕の姿で佇んでいた。全く攻撃が効いていないわけでは無さそうなのだが、ドラゴンの高い防御力にだいぶダメージが消されてしまっているらしい。どうやらとくにヴォ・ルシェは防御力に秀でているタイプにのドラゴンのようで、攻撃力は古代竜にしては普通なのが幸いだが、強力な守備の力に彼女たちはなかなか決め手となるようなダメージを 与えられずに苦しんでいた。
「あぁん、もう……イライラするわね! なーんであんな硬いのよぉー!」
そう文句を言いながら、マヤは弾を詰めなおすフェイリスの肩へと止まる。フェイリスも少々苦い顔をしながら、「やはり手ごわい相手ですね」とマヤに語りかけた。
「正直私もここまで難しい相手だとは思いませんでした」
「あら、あなたが弱音なんて珍しいわね」
驚いた表情で声をかけるマヤに、フェイリスは苦笑しながらこう返事を返す。
「いいえ、弱音といいますか……場所が場所ですので、どうしても強い威力の弾は使用できません。なのでどうしましょうと今考えているところです」
困ったように笑ってそう答えるフェイリスを横目で見ながら、マヤは考える。
「……え、つまり今までは威力控えめな砲弾使ってたの?」
ドラゴンがなかなか頑丈なのでアレなのだが、フェイリスが先ほどから遠慮なくぶっ放している砲弾は一軒家くらいなら簡単に吹き飛ばしてしまいそうな威力の代物である。
だが彼女は地下洞窟内ということを考慮し、一応は威力を控えた弾を使用しているというのだ。一体彼女が本気を出したら、どんな恐ろしい砲弾が使用されるというのだろうか……マヤはそれを考え、ちょっと苦笑いした。
「なんか、本気出されたらこの中ごと爆破されて生き埋めになりそうね……」
「そうですね……一番威力の高い弾ですとその危険性も十分にありますので、その辺は気をつけます」
「否定しないんだ……あぁ、じゃあホント気をつけてちょうだいね」
「はい! マヤ様、了解いたしました!」
にっこりと子どものように笑いながらも、その笑顔に妖艶さを含めるフェイリスは、マヤに返事をすると早速武器に凶悪な弾を詰める。そんな彼女を頼もしいような恐ろしいような複雑な気持ちでマヤが見ていると、不意に彼女は誰かに名前を呼ばれた。
「マヤー!」
自分を呼ぶ声の方向へマヤが視線を向けると、ローズに治療をしてもらったジュラードがやってくる姿が見えた。
マヤはウネ一人に今はまかせっきりとなっているドラゴンを気にしながらも、自分へと近づいてくるジュラードへ意識を向けた。そしてジュラードがマヤとフェイリスの前で足を止めると、マヤは彼に声をかける。
「なによ。あんたちゃんとローズに修理してもらったの? もう故障箇所はない?」
「だ、だから俺は機械じゃない……なんだよ故障って……」
マヤの真顔での問いに苦い顔をしつつ、ジュラードは彼女へ「俺はもう平気だ」と返す。
「けど、ローズが……あいつも怪我してるんだ。お前でもいいし、ウネでもいい、治してやってくれ」
そうジュラードが心配した様子でマヤに告げると、マヤは「あぁ、そうね! その通りね!」と頷いた。
「それじゃあウネに……と、思ったけど彼女忙しそうね。正直治療は苦手だけど、アタシがやろうかな」
自分たちから少し離れた場所で、怒涛の勢いでドラゴンへと魔力矢を放ちながら移動するウネの様子を確認し、マヤはそう独り言のように言う。そうして彼女はフェイリスの肩から飛び立ち、ローズの元へと飛んでいった。
マヤがいなくなると、フェイリスが何処か楽しげな微笑を口元に湛えながらジュラードへと声をかける。
「それでは改めて……私たちも戦いましょう、ジュラードさん。やはりギガドラゴンというのは、なかなか厄介な相手ですよ。……あぁ、久々に楽しくなってきました」
「え、あ、あぁ……」
凶悪な大きさの砲撃武器を担いだフェイリスにそう話しかけられ、ジュラードも緊張した面持ちで武器を構える。その後ろでいつの間にか自分たちの近くに来ていたらしいうさこが、彼を応援するように「きゅういいぃ!」と鳴くのが聞えた。
何故かうさこの声援が心強く感じ、ちょっと自分は思った以上に緊張しているか、あるいは疲れているのかもと思いながら、ジュラードは小さく苦笑を漏らす。そして彼はドラゴンの元へと走った。
『オオオオォオォオォォォォっ!』
文字通り大気を震わせる竜の咆哮が、閉鎖的な空間に轟く。まるでその圧倒的な”音”が攻撃のようで、ジュラードの体を痺れさせる。だが彼はそれに怯まず、ドラゴンの正面へ立った。
握り締める大剣の重みに、何故か安心する。自分は人よりはるかに身体能力に優れているはずのゲシュだが、少々力が強い事以外はこれといって特別に力があるわけではないと、そうジュラードは思う。だからだろうか、武器の重みの存在感に心強さを感じて安心 した。
「ぁあああぁぁああああっ!」
漆黒の刃を両手で握り締め、ドラゴンの正面から駆け出す。聳え立つ巌のようなドラゴンを前に真正面から駆け出すなど、以前の自分では考えられない行為だ。自分にそんな勇気があったことをジュラード自身知らなかったし、それは仲間に教えられたことだった。
素早く懐へと滑り込み、足元から攻める。ドラゴンはウネの放つ魔力矢に気を取られているので、今ジュラードは攻撃のチャンスだった。
甲高い音と共に、白い火花が一瞬薄暗い闇に光る。下から掬い上げるように剣を走らせたジュラードの攻撃は、しかしやはり強靭なドラゴンの鱗に弾かれる。だが彼は攻撃の手を緩めず、続けざまに剣撃を放った。
薙ぎ払う一閃、周囲の光を反 射させた黒の刃が青白い軌道を闇に描く。さらにもう一撃と、ジュラードは一点に集中して素早く連撃を放つ。するとほどなくして、ジュラードたちの攻撃を受け付けなかった強靭な鱗の鎧の一部がついに剥がれ落ちる。それを確認し、ジュラードは無意識に笑みを零した。
「!」




