古代竜狩り 58
ローズの声を聞いて、ジュラードは急いで彼女へ駆け寄る。マヤも「ローズ、大丈夫?」とひどく心配した様子で声をかけながら、そちらへと飛んだ。
「う……ん……?」
意識を取り戻したローズが目を開け、傍に駆け寄ったジュラードたちに眼差しを向ける。
目覚めたばかりのジュラード同様にまだ意識がはっきりしていないらしく、どこかぼんやりとした真紅の瞳がジュラードたちの姿を捉えた。
「……?」
「おい、大丈夫か? その……起きられる、か?」
ジュラードがそう声をかけて手を差し伸べると、ローズは「あ、あぁ」と頼りなく返事を返す。だがそう受け答えをした事で少し意識がはっきりしてきたのか、ジュラードを見返す眼差しはまっ すぐ彼を見ていた。
ローズはゆっくりと上体を起こし、ジュラードの手を取って「ありがとう」と返す。だがやはりジュラード同様に体が少し痺れているらしく、立とうとしてすぐにその場にへたり込んだ。
「くっ……なんか、足が……立てない……」
「あらら……ローズ無理しない方がいいわよ」
マヤが傍に寄り、そうローズへ声をかける。ついでに彼女はジュラードへ説明したのと同様に、ローズにも何があったのかの説明をした。
「……と、いうわけなのよ」
「あぁ……そうか、マヤありがとう……お前がいなかったらみんな危なかったんだな」
マヤからの説明を聞き、ローズは彼女へそう礼を告げる。マヤは嬉しそうに微笑みながら「いいのいいの、気にしないで」とローズに返した。
「アタシだってローズの役に立てたら嬉しいしさぁー。うふふ、ホント助けられてよかったわ!」
「ん、そうか……すまないな」
「……」
自分が礼を言った時とローズが言った時の、あのマヤの態度の差は一体……と、二人のやり取りを見てジュラードは考える。だが無駄な思考だと直ぐに気づいて、彼は『気にしたら負けだ』と自分を納得させた。
「うーん……しかしまだなんか体がおかしいな……ジュラードは大丈夫か?」
マヤから説明を受けている間に多少虫の毒から回復したらしいローズだが、まだ少し体に違和感があるらしく、彼女は自分の腕を回しながらそうジュラードへと問う。
「あぁ……まぁ、動けないことも無いが……違和感はあるな」
ローズの問いに、ジュラードはそう答える。目が覚めた直後よりはだいぶ体の痺れはマシになったが、しかしやはりまだ違和感のようなものはジュラードの体にも多少残っていた。
「そうか。ウネとフェイリスはまだ目覚めないし……とりあえずジュラードの体の痺れくらいは、私が治せれば治すよ」
未だに意識を失っているウネとフェイリスに視線を向けてから、ローズはそう言ってジュラードに治癒術を施す。
呪文詠唱の後、ジュラードの顔の辺りに掲げられたローズの手の平から淡い光が生まれ、その光が体を包み込んだ後に吸い込まれると、ジュラードは体の痺れが消えるのを感じた。
「あ、なんか治ったかもしれない… …」
「あぁ、ホントか? それはよかった」
ジュラードが手を握ったり開いたりしながら調子を確かめつつそう答えると、ローズは心底嬉しそうに微笑む。その間近の笑顔に、ジュラードは不意打ちで赤面した。
(な、なんでこいつは他人の事でいちいちこんな嬉しそうに笑うんだよ……っ)
坑道内は暗いのでこれくらいの顔色の変化は余程よーく見られなければ気づかれないだろうが、それでも気づかれたらなにか凄い気まずいので、ジュラードは思わず顔を逸らす。そんなジュラードの様子を見て、ローズは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんだ、ジュラード」
「べ、別に……っ! それよりお前はどうなんだ……そそ、その……大丈夫なのか?」
ジュラードの動揺した態度を不思議に思いつつ、ローズは「万全とはいかないけど」と答える。
「まぁ、私はウネが起きたら彼女にどうにかしてもらうよ」
「うー……ごめんねローズ、アタシがもっと治癒系の術使えればよかったんだけどぉ」
マヤがちょっと悲しそうな顔でそう言うと、ローズは「いや、仕方ないさ」とマヤを慰めるように微笑んだ。
「魔法には属性の相性があるからな……その代わりマヤは攻撃が得意なんだし、そっちで頼りにしてる」
そうローズがマヤへ言葉を向けた直後、何度目かの地震のような揺れが坑道内を揺らした。
「!?」
「うわっ!」
「きゅいいいいぃーっ!」
今までよりも強い揺れを感じ、さらに彼らの耳にドラゴンと思われる生物の咆哮が届く。近くにドラゴンがいるらしいと、ジュラードたちは即座にそれを察した。
「きゅい、きゅぷっ……!」
「うさこ、静かにしてろ」
怯えて叫ぶうさこの口を手で塞ぎ、ジュラードはローズに目で『どうする?』ということを伝える。ローズは少し迷うように沈黙してから、小声でジュラードにこう返事をした。
「……そうも近いみたいだ。ちょっと行ってみよう」
「ウネとフェイリスはどうするんだ」
ローズの提案に、すかさずジュラードはそう言葉を返す。未だにウネとフェイリスは気を失っているのだ。
するとローズはマヤへ向き直り、彼女へとこう言った。
「マヤ、私たちが行ってる間、彼女たちのことをお願いしていいだろうか」
「え?!」
マヤはローズの頼みに少し苦い顔をしながら、「確かに誰か彼女たちのこと見てなきゃだけど……」と言葉を返す。
「でもローズ、アタシがいなくて大丈夫? 照明とか無いわよ?」
「わかってる。それはこっちでどうにかするよ。照明具使えばいいし……それより、何かあったらマヤ、お前に彼女たちを守ってもらいたい。その為だったら私の魔力、いくらでも使ってかまわないから」
ローズのその言葉にマヤは小さく溜息を吐き、「いくらでもって、倒れちゃうほどは使うの遠慮するけど」と呟く。そして彼女は「わかった」と頷いた。
「悪い……その、私は大丈夫だから」
「いいわよ。ま、確かにあなたの考えだ一番正しいと思うわ。アタシかあなたか、どっちかがジュラードかフェイリスたちに付いてないと危険だもんね」
ローズの考えを理解しながらも、マヤは「でも、やっぱローズと離れるのは寂しいわ」と小さく呟いた。




