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神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
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古代竜狩り 56

 ウネがそう不吉なことを言った直後、地響きのような音とともに僅かに坑道内が揺れる。休む間もなくまた何か起きそうなその事態に、ジュラードは思わず「今度はなんだ!」と叫んだ。

 

「なにかこちらに近づいているようです」

 

 ジュラードの叫びに答えるように、フェイリスが進行方向を見ながらそう言う。ジュラードも彼女の見やる方向へ、反射的に眼差しを向けた。

 前方には狭くは無い通路が一本続いている。普通に戦う事は十分出来るスペースに見えるが、しかし一本道で逃げ場は無い。

 

「マヤ、ジュラード、フェイリス、ウネが何かがたくさん近づいてきてるって!」

 

 さらにローズの警戒する声が背後から聞え、ジュラードは目を丸くして「たくさん?!」と声を上げた。

 狭くは無い通路だが、何かが”たくさん”迫ってきているとなると、この場所で果たして戦えるのか不明だ。だがジュラードがそう考えている間にも、ウネが予告する”何か”がこちらへ迫ってくる気配を感じる。気のせいじゃなく、地響きも大きくなっているのだ。

 

「どうすんだマヤ、戦うの、か……? それとも……」

 

 戦う以外の選択肢は『逃げる』だが、逃げるとなると元来た道を戻るしかない。この階層は途中で何箇所か分岐する場所があったので、その別の道を行けば逃げる事は出来そうではあるが……。

 

「うーん……どうしましょうかねー」

 

「ちょ、そんな悠長に悩んでる暇は無いと思うぞ……!」

 

 ジュラードが焦るとおり、何かが迫る気配が確実に近づいている。もうジュラードにもわかるくらいに、多数の気配と殺気がこちらに近づいているのだ。

 ジュラードは助けを求めるように、ローズへ視線を向けた。同時にローズが口を開く。

 

「とりあえずギリギリまで待って、何が来てるのか確認しよう! 相手できそうかどうかを確認したい!」

 

「……あ、あぁ」

 

 それで大丈夫なのかと不安になるジュラードだったが、しかしローズの指示に返事をする。そうして無意識に息を潜めながら、ジュラードは迫り来る”何か”を待った。

 やがて周囲を照らすマヤが「そろそろね」と呟き、ジュラードは剣を握り締めて身構える。直後にマヤが確保する視界の範囲に、殺気立った様子の多数の半竜の姿が映った。


「!?」


 ギラギラとした好戦的な眼の竜族の姿に気圧され、ジュラードは思わず剣を握り締めたまま硬直する。そんな彼の頭の上で、うさこが「きゅいいぃー!」と恐怖の悲鳴を上げた。

 そしてマヤも珍しく驚いた表情となり、前方から押し寄せる敵を警戒しながらローズにこう問いかける。

 

「ねぇローズ、あれはどうなの? ちょーっと相手してらんない数に思うけど……」

 

「……あぁ、私もそう思った」

 

 半竜は一匹一匹は手に負えない相手ではないし、数匹ならば数が多くてもどうにか対処は可能だ。しかし今目の前に押し寄せる数は、数匹とかいうレベルではない。

 何十匹もの半竜が、何故か殺気立ちながらこちらへと攻めてきているのだ。これは馬鹿正直に相手にしていたら、明らかにこちらが数に押されて不利になってしまう。

 

「に、逃げよう」

 

 ローズのその一言でジュラードの体は硬直が解けて、彼はハッとしたように動き出す。そして彼は「とりあえずこっちへ!」と叫ぶローズの後を追う為に、迫り来る半竜たちへ背を向けた。

 

「で、ローズ、どこ逃げるのー」

 

「わからん! でも逃げるっ!」

 

 後方にいたローズとウネを先頭にして、一行はマヤの問いに返事をしたローズの言葉どおり、どこへ逃げるかわからないままとりあえず走った。

 しかし逃げる直前、なぜかフェイリスが今の今まで荷物として持っていたあの物騒な榴弾砲を構え持つ。そして彼女は皆が逃げる中、一人殺気立ちながら襲い掛かってくる半竜と向き合った。

 

「!? フェイリス?!」

 

 フェイリスの行動に気づいたローズが、背を向けて走りながらも彼女へ声をかける。すると直後にフェイリスは榴弾砲をぶっ放し、坑道内に衝撃と共に爆音が響いた。

 フェイリスのぶっ放した榴弾は迫ってきていた半竜たちの最前線に着弾して、その衝撃と爆風が坑道内を激しく揺らす。

 

「ひっ!」

 

「うわっ!」

 

 ジュラード、ローズがそれぞれに驚いた声を発し、マヤも「ちょ、何してんのフェイリス!」と動揺した様子でフェイリスへ叫ぶ。するとフェイリスはにこやかな笑顔で後ろを振り返り、「時間稼ぎをしておいた方がいいかと思いまして」と涼しげな笑顔で答えた。

 そしてフェイリスはその後おまけとばかりにもう一発弾を撃ち込み、衝撃の後に濛々と爆煙が立ち込める中で、半竜たちの悲鳴と興奮の声が周囲に響く。

 

「お、鬼……いや悪魔だ」

 

 フェイリスの容赦無い姿を見て、ジュラードが青ざめた表情で思わず呟く。しかし彼女のお陰で、物凄い勢いでこちらへ向かってきていた無数の半竜たちが、混乱してその動きを鈍くさせた事は確かな事実だった。

 というか、今ので内部が壊れなかったことが奇跡じゃないかとジュラードは思う。いや、フェイリスのことだからちゃんとそこの配慮は行ったのかもしれないが。

 

「ジュラード、とにかく今のうちだ! フェイリスも早く!」

 

 ローズがそう声をかけ、ジュラードは「あ、あぁ」と頷いて再び走り出す。フェイリスも素早く武器を肩に担ぎ、ローズたちの背中を追うように駆け出した。

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 迫り来る恐ろしい気配が消え去ったことを確認し、ローズは肩で息をしながら足を止める。彼女は額の汗を拭いながら、大きく息を吐き背後を振り返った。

 後ろには同じように疲れて足を止めたジュラードや、彼に運ばれながらも震えているうさこ、呼吸を整えながら背後を気にするウネがいる。そしてあの物騒な武器を下ろして立ち止まるフェイリスの姿も見えた。

 

「どうやら逃げ切れたみたいね……」

 

 自分の肩に乗ってそう声をかけてきたマヤに、ローズはまだ整わない呼吸の合間に「あぁ」と返事を返した。

 

「きゅい、きゅいいぃ~!」

 

 まだ恐怖に怯えてぶるぶる震えるうさこを地面に下ろしながら、ジュラードは本当にもうあの悪夢の集団は追いかけて来ないかを、振り返って確認する。だが無我夢中で坑道内を走り回った結果、どうやらロ-ズたちの言うとおり逃げ切れたようだった。


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