古代竜狩り 48
「え、そのドラゴンがそうなのか!?」
マヤたちの会話を聞いていたジュラードは、驚いた顔で思わず二人にそう声をかけた。もしマヤたちの言うとおりならば、もしかして今自分は目標を一人で達成したということだろうか。
だがマヤはジュラードのそんな思惑を察してか、「残念だけど、さすがにこれはギガドラゴンじゃないわよ」と彼に言葉を返した。
「この大きさも十分でかいけど、でも古代竜はこんなもんじゃないわよね」
「えぇ、そうですね。これはギガドラゴンよりは少々小さいですね。しかしジュラードさんがこれをお一人で倒された事は驚きですよ」
ちょっとがっかりしているジュラードをフォローするように、フェイリスが微笑みながらそうジュラードへ声をかける。するとマヤも「それは確かにそうよね」と頷いた。
「っていうか、ホントにあんた倒したの~? な~んか怪しいわねぇ……」
「うっ……」
マヤがややふざけた様子で追求すると、はっきりと『そうだ』とは言えないジュラードは、気まずそうな表情で口ごもる。
そうして彼が正直に先ほどあった出来事を話そうか迷っていると、ローズが微笑んでマヤへと「ジュラードが一人で頑張ったんだよ」と言った。
「彼だって弱くないし……ううん、私なんかよりもよっぽど強かったのかも。だって実際こんな大きなドラゴン、一人で倒しちゃうんだし」
「だからそれが怪しいのよねぇ…ホントに一人で倒したのかしら」
「一人だろう……だって私たちも助けにいけなかったんだし。まさかうさこが戦ったわけないだろうし……私はジュラードを信じるよ」
「えぇー」
疑うマヤの態度もなんかアレで気になるが、しかしそれ以上にやたら自分を持ち上げるローズの態度にジュラードは顔が赤くなる。褒められる事に対して素直に喜べない性分なので、どう反応していいのかわからないのだ。
ジュラードは照れる表情を隠すように俯きながら、結局迷っていた事実を彼女らに語った。
「……正直に言うと、たぶん俺一人の力じゃない……」
「? どういうことだ?」
ジュラードの不可解な発言に、案の定ローズは疑問を口にする。マヤやフェイリスたちも、不思議そうな眼差しでジュラードを見た。
そしてどう説明したらしいのかわからないまま、ジュラードはとりあえず話してみようとまた口を開く。
「えぇと……なんか俺もよくわからないんだが、ヤバくなった時になんか光が……こう、出て……その光が俺を助けてくれて……?」
自分でもわけがわからないまま説明していると、周囲の反応が何か可哀想なものを見ているかのようなものへ変わっていく。特にマヤなんかは『こいつ頭打ったんじゃね? 大丈夫?』な視線を向けてきて、ジュラードはちょっと泣きたくなった。
だがマヤがそういう視線を向けてきたくなる気持ちもわかる。ジュラードだっていきなりローズが『謎の光が突然現れて自分を助けてくれた!』とか言い出したら、まず間違いなく病院へ行く事をオススメする自信がある。
「えぇと……だからその……」
皆の……というか、主にマヤの視線の痛さに耐えながらジュラードは説明する言葉を必死で考える。そして彼は重要な単語を思い出して、「あ、そうだ!」と言った。
「? なによ……突然ワケわかんないこと言ったり叫んだり……あんたやっぱドラゴンと戦ってる最中に頭打ったんじゃない?」
「ち、ちが……それより光は本当なんだよ! 俺だって頭おかしいこと言ってるって自覚あるから聞いてくれ。その光がなんか、お前の名前を言ってて……」
「はぁ? アタシの名前?」
ますます胡散臭いものを見るような眼差しになったマヤに、ジュラードは必死で訴えるようにこう続ける。
「だから俺もよくわからないけど、なんか頭の中に声が……? は、入ってきて……」
「……」
「だ、だからそんなふうに俺を可哀想な人みたいに見るなって! それで、その声がなんかお前の名前を言ってたような……」
「なによそれ……わけわかんないわねぇ」
マヤの率直な意見にジュラードもうな垂れながら、「だから俺もわからないんだって」と呟いた。
「ただ、なんかとにかく不思議なアレだったから、同じ不思議なアレのお前が助けてくれたか……お前が関係するなんかが助けてくれたのかと思っただけで……」
「んー……」
ジュラードの話を真面目に聞いてみて、マヤは首を傾げながら「別にアタシに心当たりは無いけどね」と答える。それを聞き、ジュラードは「そうか……」と静かに呟いた。
そんな二人の会話を聞いて、ローズが何気なくこう口を開く。
「もしかしてジュラードを助けたのって、ウィッチかもな」
「え?」
ローズの言葉に、ジュラードは一瞬不思議そうな表情で目を丸くする。そして何かどこかで聞いたような名前だと、彼は考えた。
一方でマヤは「え?」と声をあげ、驚いた様子でローズを見返す。
「ウィッチ……? えー……どうかしら? ジュラードを助けたんでしょ……? う~ん……」
「違うかなぁ……なんかそんな気がしたんだけど……」
マヤとローズのそんな会話を聞き、ジュラードは二人と出会った頃くらいに、二人からその名前を聞いた事を思い出した。
確か、その名はこの世界の”神”であると……
「彼なら助けてくれる気がしないか?」
「どうかしら……? まぁ、そうだったらジュラードってよっぽど運がいいわね。あいつに気に入られたってことでしょ?」
「あぁ、確かにそうだな」
マヤの言葉に笑って頷き、ローズはジュラードに「よかったな、ジュラード」と言う。それにジュラードは戸惑った表情を返した。
「え、いや……本当にその……ウィッチとかいう人かどうかわからないし、よかったなって言われてもな……」




