古代竜狩り 47
一体自分に宿った力が何なのかはわからないが、しかし両手で持つ剣すら今は棒切れのように軽い。ジュラードは勢いのままドラゴンの懐へ、再び飛び込んだ。
「ぅあああああぁあぁぁっ!」
どこを攻撃したらいいのかなんて結局わからないまま、ジュラードは身を低くしているドラゴンの胴へと、白い光を纏いながら黒く輝く巨大な刃を振り下ろす。光を纏った剣は、神秘的な色の残像を残しながら、銀の鱗に守られたドラゴンの肉体へとめり込んだ。
剣にまとう光そのものが刃となって巨大な刀身をさらに大きく強くし、金属のように強靭だった鱗がまるで紙のようにあっさりと破壊される。その鱗に守られていた肉をも光を纏った剣は簡単に断ち切り、ドラゴンは苦痛の咆哮を 上げた。
ドラゴンの鮮血で顔や体を朱に染めながら、ジュラードは剣を抜いて一旦下がる。直後に苦痛にもがくようにドラゴンが大きく体をよじって旋回し、傍の壁の表面を長い尾で抉り取るように破砕した。
『ゴオオォオォォォ……ッ!』
回避が一歩でも遅れれば死を招く恐ろしい攻撃だったが、しかし今の攻撃でドラゴン自体もさらにダメージを負ったらしい。深手を負った体で派手に動いた為に、ジュラードが与えた傷からさらに血が噴出して周囲をその色に染めた。
そうして再び身を低くし沈んだドラゴンに、ジュラードが再度不思議な光を纏った剣を構え持ち走る。そして彼はドラゴンを十数メートル手前にして、地を強く蹴って飛んだ。
「これで……っ!」
無我夢中だった。気持ちが高揚しているからなのか、体が燃えるように熱い。もしかしたらこの気持ちの高ぶりさえも、謎の光のせいなのかもしれない。
この一撃で決める、という自信と確信があった。振り上げた大剣を、白い残像を軌跡に残して全力で振り下ろす。瞬間、衝撃波のような白い光の波動が剣から放たれ、無防備に横たわるドラゴンへと襲い掛かった。
巨大な破砕音。そして、目がくらむ閃光。ドラゴンの最後の叫び声。
様々なものが光の無い空間で入り混じって、やがて全てが再び静かな闇へ戻る。同時にジュラードと剣から、あの不思議な光は大気中に溶けるかのように消失した。
そうしてジュラードは、両断されて肉塊へと変わったドラゴンの傍に着地する。そんな彼の元に、すぐにうさこが「きゅうぅ~」と怯えたような声を上げながら駆け寄った。
「きゅいぃ~きゅいぃ~!」
「……」
自身が放った斬撃のあまりの衝撃にジュラードは驚きながら、沈黙したドラゴンへと改めて視線を向ける。
今の衝撃は下手したら坑道内が崩れるんじゃ……と、少し気持ちが落ち着いて冷静になった今さらに彼はそんなことを思った。
「……しかし……終わったのか……」
そう言葉にしてつぶやいてみて、やっと本当に心が落ち着く。同時に色んな疑問と、今更に恐怖の感情がぶり返してきて、ジュラードはひどく疲れたようにその場にしゃがみ込んだ。
「きゅうぅ! きゅうぅぅ!」
崩れ落ちるようにその場に腰を下ろしたジュラードに、彼を心配するように鳴きながらうさこが頭の上によじ登る。そうしてしばらくジュラードが緊張からの疲労で休んでいると、待っていた人たちの声が彼の耳に届いた。
「……ーい……おーい、ジュラードーっ!」
「!?」
遠くの闇から聞えたローズの呼ぶ声に、ジュラードははっと顔を上げる。うさこも反応したように「きゅうぅー!」と鳴き、そのままうさこは声のした方へと照明を持って小走りに走り出した。
「あ、おいうさこ……」
先に行ってしまったうさこを呼び止めようとしたジュラードだったが、自分で思っているよりも相当体は疲れてしまっていたのか、うさこのように直ぐに立っては行動できなかった。
その為彼は座ったまま遠ざかるうさこの光を目で追い、その行く先にマヤの光を見つけて安堵の息を一人静かに漏らす。そうしてジュラードが見つめる先で、走り駆けつけたローズがうさこを抱き上げて保護した。
「きゅううぅ~! きゅ、きゅいいぃ~!」
「あぁ、うさこも恐かったんだな……よしよし」
鳴きながらローズに抱きつくうさこに、ローズはホッとした表情を浮かべながら頭を撫でた。そして直ぐに彼女は「で、ジュラードは?」とうさこに聞く。
「きゅいぃー、きゅ!」
「……あぁ、本当だ。あそこにいるな」
うさこ語を理解してジュラードの居場所を確認したローズは、彼もまた無事な事を確認して心から安心したように頬を緩めた。そして彼は自分と共にジュラードの元へ駆けつけたマヤたちへ、「彼のところへ行こう」と声をかけた。
「ジュラード! 大丈夫か!?」
ローズがそう声をかけながらジュラードの元へ走ると、ジュラードは緩慢な動作で顔を上げながら「あぁ」と力なく返事をする。そんな彼にマヤが「なにかあったみたいね」と問いを向けた。
「こっち向かう途中、何度も物凄い音が聞えたから焦ったわよ」
マヤのその言葉にジュラードが答えるより先に、ウネが「ドラゴン?」と聞くように呟く。ジュラードはそれにもう一度「あぁ」と頷いて返事をした。
「やっぱりジュラード、ドラゴンに襲われたのか!?」
ひどく驚くローズに、ジュラードは「でも倒したし」と答える。そしてうさこが倒されたドラゴンを指差して鳴き、フェイリスがそのドラゴンへと近づいていった。
「これ、ですね……ジュラードさんが倒したというドラゴンは」
フェイリスがそう言い、マヤが彼女の元へと近づく。そしてマヤの照明でドラゴンの大体の姿が映し出されると、それを見たローズが驚いたようにこう言った。
「え、こんなでかいのを一人で?!」
ローズはジュラードに再び視線を戻し、「怪我してるんじゃないのか?」と心配そうに問う。
「あんなの、私でも一人で倒せる自信ないぞ……すごいな……ジュラード、大丈夫なのか?」
「いや、怪我は……」
そういえば怪我は無い自分の体に気づき、ジュラードは戸惑いながら「無い」とローズに答える。体の疲労感がなくなったし、やはりあの妙な光が全て原因なのだろうか。
「……」
考えるジュラードにローズがまた驚いた顔で「本当に? 無理とかしてない……よな?」と問う。だがジュラードは「あぁ」と、首を縦に振った。
そしてそんな彼らの元に、マヤとフェイリスのこんな会話が届く。
「ねぇフェイリス……これ、ヴォ・ルシェじゃない?」
「はい、そのようですね。この角の形や鱗の色などから、間違いなくヴォ・ルシェかと」
まじまじとドラゴンを観察しながらそう答えたフェイリスに、マヤは腕を組みながら「やっぱりそうか」と呟くように言う。




