古代竜狩り 43
膝をついて沈黙するローズの後ろで、フェイリスも信じられないといった声でそう呟く。しかしそんな彼女の隣に立ったウネがなにかに気づいたように顔を上げて、絶望と悲しみに包まれるこの場の雰囲気の中でこう口を開いた。
「……ジュラードとうさこの声が聞える」
「え?」
ウネのその呟きに皆は一瞬目を丸くした後、慌ててほぼ塞がれた下層へと繋がる穴へと耳を澄ます。焦る気持ちの中でローズが息を殺して下層へと意識を集中させると、やがて彼女の耳にもその声が聞えた。
「……い……おーいっ」
「きゅううぅ~」
微かに聞えたその声は確かにジュラードとうさこのもので、ローズは反射的に岩盤で塞がれた下層へ向けて「ジュラードっ !」と強く叫んだ。
「ジュラードっ! うさこも! 大丈夫なのか!?」
ローズの必死の呼びかけに、やがてジュラードたちも声が聞えたのか微かに返事が返って来る。
「なんとか大丈夫だ! その、運良く穴に引っかかって上から瓦礫が落ちてこなかったり、うさこがクッションになったりして……」
「きゅううぅー! きゅううぅー!」
返事をするジュラードたちの声がかなり響いている事から察するに、やはりこの坑道にはまだ下の階が存在して、彼らはそこまで落とされたということだろう。
「正直死ぬかと思った……」
「きゅううぅ~……」
ローズたちには聞えないだろうが、未だにバクバクと煩い心臓を手で押さえながらそうジュラードは呟き、そして真っ暗闇で状況がほぼ把握できないことを上の階に残っているローズたちへ叫んで伝えた。
「こっちは光が無くて何も見えない状態だ! 多分下の層に落ちたんだろうけど……!」
ジュラードのその言葉を聞き、ローズは咄嗟に「今そっちに行くから!」と叫んだ。しかし直ぐ後にマヤの冷静な指摘を受けてしまう。
「ちょっとローズ、一体どうやってジュラードたちの所に行くつもりよ。まさかここからとかいうんじゃないでしょうね」
「え……他に行く方法ってあるか?」
ローズが困ったような表情でマヤを見返しそう言うと、マヤは「危なすぎるでしょ!」と強く返した。
「だ、だけどこんな岩くらい私の力で退かせると思うし……」
「退かせるかもしれないけど、危ないの! いいローズ、この場所はさっきの地震で崩れるほど脆い場所だったのよ? で、今は上から降ってきた岩盤で穴が埋まってる状態……この岩盤退かせばそりゃ下へ行けなくはないでしょうけど、どかしてる最中にまたここが崩れる危険性が高いわ。今この状態でも負荷がかかってるんだから」
そうなれば最悪ローズたちも崩落に巻き込まれ、今度こそ怪我をするかもしれない。いや、下手をすれば死ぬ可能性もある。はっきりいって今回落ちたジュラードたちが怪我も無かったのは、相当幸運だっただけなのだ。
「……だ、だけどジュラードたちをこのままにしておくわけにはいかないだろう」
マヤの言う事も最もだが、やはりジュラードをこのままにしておくことは出来ない。しかしそれはマヤも勿論同じ思いではあるのだ。
「わかってるわよ。でもここから行くのは危険。いいローズ、下にまだ道があるってことは、この先に下へ行く階段なりなんなりがあるはずよ。そこから助けに行くべきでしょうが」
「う……そ、そうだけど……でも……」
ローズは崩落して穴を塞いでいる積み重なった岩盤の、辛うじて下層が見える小さな隙間から下を覗き見ながらジュラードへとまた声をかける。
「ジュラード、私たちがそっちへ行くまでうさこと二人で大丈夫か!?」
「え……」
ローズの呼びかけに一瞬反射的に『無理』と答えそうになり、ジュラードは慌てて「多分!」と返す。『大丈夫』とはさす がに不安が大きすぎて返せなかった。
「とにかく直ぐ行くからそこを動くなよ! あ、明かりはあるか!?」
「え……ちょ、まて……」
ローズに問われ、少し冷静になったジュラードは、自分の荷物にそういえば燃料式ランプがあるということを思い出す。
僅かな瓦礫の隙間から漏れるマヤが照らす明かりを頼りに、ジュラードは自分の荷物の中から照明道具を取り出した。
「きゅうぅーきゅぅうぅ~」
「……あぁ、点いた。よかった……」
不安そうに鳴くうさこを頭に乗せながら、ジュラードはランプに明かりを付けてほっと胸を撫で下ろす。確かな明かりが手元にあるというだけでも、だいぶ安心感があった。
そしてやっと本当の意味で冷静さを取り戻したジュラードは、不安は胸にあれどローズたちに今度こそ「俺は大丈夫だ!」と言葉を返す。
「とりあえずお前たちが来るまで、ここで待ってればいいんだろ!?」
正直自分は強いローズたちに頼りすぎているとジュラードは思う。だからこんな時くらい、少しは男らしくして『大丈夫』と言えなくては。
「待つくらい、俺にも出来るからな!」
ジュラードのその返事を聞き、ローズは心配そうに「本当に大丈夫なのかな」と呟く。だがマヤは彼の返事を気に入ったようで、微笑んで「彼を信じましょう」とローズに言った。
「いい返事するじゃない、あいつも。ふつーは恐くて泣いてもおかしくないってアタシは思ったけど、でも案外度胸あるのね。ちょっと見直したわ、あいつのこと」




