古代竜狩り 39
「まぁそうね……もうそれは疑いようの無い事実でしょうね」
ジュラードの問いにマヤがそう答え、彼女は進む先を自身の光で照らし続けながら「気をつけないとね」と呟くように言う。
「もしかしたらもう既にドラゴンのテリトリーに侵入してるかもしれないし」
「でもテリトリーに入っているかもと言っても、半竜とヴォ・ルシェは別の種類の竜だからそれぞれに持つテリトリーは別のはず……そこを共有するドラゴンも多くいるけど、少なくとも半竜は通常のドラゴンとは基本的に争いも協力もしない関係だから、テリトリーを別にもっているはず」
ウネがそう説明すると、マヤは「なるほどね」と頷く。そして自分の後ろを歩く皆に向けて、「とにかく先へ行ってみましょう」と告げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
アーリィたちの元を発ちエルミラたちのいる研究所へと向かっていたアゲハは、鉄道を乗り継いでルルイエの都市に着いていた。
工場の多い工業都市であるルルイエは、無骨な印象の巨大な工場建物がいくつも連なる様相の街並みが圧巻で、同様の街並みが広がる巨大なティレニアの帝都とまではいかなくとも、そこと同じような鋼の都市という印象を訪れるものに与える場所だった。
工場のあちこちでは謎の蒸気が吹き上げていたり、金属音が響いたり、あるいは油の混じった独特の臭いが充満していたりと、まさに工業中心の場所という主張がそこかしこに存在する。
「はー……しっかしなんか近代的な都市だなー……空気悪いし工場ばっかだから、あんまり観光には向かないっぽい感じだけど」
周囲をきょろきょろを見渡し、そう独り言を言いながらアゲハは人込みの中を早足に進む。
アゲハは先ほど見た街の中の案内図を思いだしながら、エルミラたちのいる研究所を真っ直ぐに目指していた。
やがて大通りを横切り、アゲハの視界の先に探していた建物の看板が見える。途端にアゲハは「見つけた!」と嬉しそうな声を上げて、建物へと小走りに近づいていった。
「こんにちはですー!」
『ローゼント環境研究所』という看板が掲げられた白塗りの建物の扉を開けて、アゲハはそう元気に中へと挨拶をする。すると中から直ぐに研究所の職員ではなく、エルミラが出てきて 「やっほー」とアゲハに手を振った。
「あ、エルミラさん! こんにちはです!」
「やっぱアゲハだったね。その元気な声でわかったよん」
「はわっ……そ、そうですか?」
エルミラの笑いながらの指摘にアゲハは恥ずかしそうに顔を赤くし、しかし直ぐにいつもの明るい笑顔に戻って「皆さんのご様子を見に、派遣されてきました!」とエルミラに言った。
「というか、私自ら行くって言った感じですけどね」
「うん、なんとなくわかってた。アゲハってじっとしてらんないタイプだし」
「えー! やっぱそうですかね……落ち着き無いってよく言われるもんなぁ……」
アゲハの独り言のような呟きにエルミラは笑い、そして彼は彼女に「あ、奥入りなよ」と声をかける。
「奥、レイリスとかもいるし休んでなよ。ここまで来るので疲れたでしょ?」
「えへへ、そんなに疲れては無いですけど、でもお邪魔しますね!」
エルミラの誘いに、室内の研究職員へも含めてそうアゲハは大きな声で返事をする。そうして彼女はエルミラの後に続き、研究所の奥へと向かった。
エルミラの後に続いて研究所のある一室へと入ると、中ではフェリードが何か端末前で作業をしており、その近くのテーブルではイリスとラプラがフェリードの邪魔をしないように静かにお茶を飲みながら何か資料のようなものを眺めていた。
「あ、アゲハ」
「レイリスさん! それに皆さん、こんにちはですー!」
アゲハが元気に挨拶しながらそう中へ入ると、イリスは微苦笑しながら「お疲れさま」と立ち上がる。そして彼女の為にお茶を用意しに、入れ替わるように部屋を出て行った。
アゲハはエルミラに「座りなよ」と促されて、何か資料が散乱して積み重なっているテーブルの空いている席に腰を下ろす。エルミラもその隣に腰を下ろし、こう口を開いた。
「そういやついさっきね、ジューザスから速達の電報が届いてさぁ……」
エルミラの言う電報とは電話を利用した伝達手段で、通常の手紙より早く相手に連絡が届く仕組みとなっている。それに今現在限定されている他国間の通話の代わりに電報は利用でき、国や大陸を跨ぐ場合の伝達方としてはよく利用されているものだ。
「なんか近々こっちに寄るみたいだよ。用事は他にあるらしいけど、まぁこっちに来るからそのついでみたいな感じに書いてあったな」
「そうなんですか? ジューザスさんだけお花を届けにアサドの方へ戻っていったので、それじゃあ結局またこっちに戻るってことになるわけですね」
アサド大陸とボーダ大陸はそんなに離れておらず、近い港同士を繋ぐ高速船ならば三日とかからずに移動できるが、しかしそれでもこの短期間で大陸を行ったりきたりする嵌めになっているジューザスはすごいとアゲハは思う。……実際にはやたらとどこかへ出かける彼女自身が、普段から似たような状況なのだが。
「ジューザスさんも大変ですね……」
「そうだね、あの人はアゲハみたく若く無いし体力的に無理しすぎだよね! おじいちゃんなんだし!」
「えぇ!? わ、私はそんなことは言って無いですよー!」
力強く余計な心配をするエルミラに、アゲハが困った表情でそう返す。すると一人黙々と今も仕事をしていたらしいフェリードが、ちょっと迷惑そうな表情で「僕、これでも仕事中なんですよね……」と訴えるように呟いた。
「もう少し僕を気遣って静かにしてくれるとありがたいです……」
「あ、ごめんなさい! お仕事中とは知らずに!」
フェリードの訴えを聞いてアゲハが慌ててそう返事を返すが、エルミラは気にした様子もなく「ごめんねー」と軽く謝罪するのみだった。
そしてアゲハはフェリードに気をつかい、今度は小声で口を開く。
「ところで皆さんは今何をしてらっしゃるんですか?」
アゲハのその問いに、エルミラが真っ先に「オレは暇だったからミレイの新機能考えてた」と答えた。
「ほらみてよこれ、ミレイに付けたい十の機能って題して今七個目までやっと思いついたとこ。まず一つ目が召喚型ウェポンね。これはアーリィが協力してくれたらたぶんいけると思うんだけど……」
「そんなことよりエルミラさん、暇なら僕の仕事手伝ってくださいよー。エルミラさんに付き合って振り回された分、溜まっちゃった仕事今片付けてるんですからー」
「えー……めんどくさっ」




