古代竜狩り 38
唐突なローズの訴えに、ジュラードは不思議そうな眼差しを向けてそう言葉を返す。だがローズは何かを言いたそうに一瞬口を開いただけで、その後は諦めたように悔しそうな表情で無言で首を横に振った。
「それよりローズ、ジュラードたちってば実は今、さっき不意打ちで食らった毒で思うように動けないらしいのよ。あなた、治してあげて~」
「え、そうなのか? なんか私が気ぜ……知らない間に色々あったんだな……わかったよ」
マヤに声をかけられ、ローズは改めてジュラードたちを見て「そういうことなら任せてくれ」と微笑む。そうして彼女は早速、得意な治癒魔法で皆を治療し始めた。
「……ふぅ。えっと、これでみんな大丈夫なのかな」
順番に皆を治療し終えて、ローズは周囲を見渡しながらそう問う。最後の一人だったウネが彼女がそれに小さく頷いたあと、「ありがとう」と礼を言うとローズは嬉しそうに微笑んで「あぁ」と返した。
だがローズのその笑顔も、直後に憂鬱そうな表情へと変わってしまう。
「しかし……今聞いた話じゃここはなんかその……変な虫が多いみたいだな」
治療の間にジュラードたちから事情を聞いていたローズは、彼らの話を聞いて思った事をそう口にする。
「まだ下にもぐってそう進んだわけじゃないから、これが多いかどうかは判断できないけど……まぁでも安易にうさこを信じて進んだのはまずかったかもねー」
ローズの憂鬱そうな言葉を聞き、マヤが少し笑いながらそう言葉を返すと、それを聞いたうさこがジュラードの頭の上で「きゅいいぃ!」と怯えたように鳴いた。
「きゅ、きゅううぅっ! きゅううぅぅ!」
ぶるぶる震えながら首を左右に振るうさこを見て、ローズが苦笑しながら「誰もうさこを責めたりはしないって」と声をかける。
「えぇ、うさこちゃんは悪くないですよ。むしろローズさんの可愛い弱て……一面を知れましたので私的には……うふふっ」
にっこり微笑んでなにか恐いことを言うフェイリスをやや警戒しつつ、ローズは「そろそろ先へ進むか?」と立ち上がりながら皆に聞いた。
「そうだな……いい加減先に進まないと……」
ジュラードは頷き、そしてやっと自由に動けるようになった体でしっかりと立ち上がる。そうして一行は再び地下を進み始めた。
坑道の地下道は不気味な虫や暗くじめじめとした場所を好む小動物などが蔓延っているが、余程毛虫等が苦手なローズ以外は段々とそのような状況になれたのか、あるいは初めからそんなこと気にしていないのかもしれないが、とにかくいちいち驚くこともなく順調に先へと進んでいた。
ジュラードでされも精神が図太い女性たちの平然とした様子に影響されてか、時々普通サイズでは無いよく育った虫を踏んでも、少しいやな顔をしてしまう程度にまで馴れてしまっていた。
しかし唯一ローズだけは苦手な昆虫系が視界に入るたびに小さく悲鳴を上げ、体力より先に精神を早いスピードですり減らして目を覚まして早々にぐったりしていたが。
「うぅ……またあの虫が……うわ、あっちにも……」
「ローズさん、そっちにも芋虫いますよ? 踏まないように気をつけてくださいね」
「ひゃあぁ! ……はっ、す、すまん。あぁ、気をつけ……はぁ……」
ビクビクと主に芋虫に怯えながら先へ進むローズは、いちいち驚くたびに精神的に消耗するらしく、今もまた驚いたあとに物凄く疲れた溜息を吐く。そんなローズの様子を見て、マヤは少し気の毒そうに笑いながらこう言った。
「いっそここはずっとお姉さまが交代してた方が、ローズも気が楽だったかもね」
「いや、それはさすがに……それに、み、見た目が苦手なだけだから、見なければそんな恐くは……」
なんだか物凄いヘタレな扱いを受けているようで不本意なローズは、「そもそも普通の虫だったらそこまで恐がらないし……」と小さく呟く。それを聞いてか、珍しくウネが少し笑いながらこう彼女に声をかけた。
「そんなに恐い見た目なのね、芋虫というのは」
「あぁ、ウネは一度も見たこと無いのか……」
「そうね。生まれつきだから、この目は」
ウネはそう答えると、「でも触れば大体のものの形は想像出来るけど」と言う。それを聞き、ローズは何を想像したのか泣きそうな顔になった。
「い、芋虫は触っちゃいけないと思う。あと毛虫もやめたほうがいい、本当にっ」
「……もう昔に散々触って確かめちゃったのだけど」
「ひいいぃぃぃ……」
恐ろしい光景を想像して小さく悲鳴を上げるローズの傍で、ジュラードもさすがに嫌な顔で「そういう虫はあまり触らないほうがいいと思うぞ」ともっともな事を言った。
「被れたりする事もあるってユエ先生が言ってたし……」
「そう……じゃあ気をつける」
神妙な顔つきでウネは頷き、その後にローズが「なぁ、もう虫の話は止めないか?」と切実に訴える。
「そんなことより、もっと敵とかの心配をするべきだと思うんだ……」
ローズのその最もな訴えに、マヤも「まぁ、それもそうよね」と頷いた。
「実際さっき魔物出たし、ここはやっぱそういうのも住み着いちゃってるってことで気をつけて進まなきゃいけないわよねー」
「あぁ、そうだよな。それになんか珍しい竜族? の魔物が出たんだろう?」
ローズがそう問うように口を開くと、ウネが「えぇ」と返事を返した。
「半竜はエレでも珍しい魔物……あれをヒントにエンセプトが考え出されたと聞くけど、そういう話を聞くくらいで見かけたことはあまりなかったわ。そんなのがこんなところにいるなんて、少し驚いている」
「というか、あれも竜の一種なんだろう? ということは、やっぱりここはドラゴンの巣窟……ということなのか?」
ウネの言葉に続けてジュラードがそう言うと、彼の頭の上でうさこがまた今更に「きゅううぅっ」と鳴いて怯える。だが怯えるうさこには悪いが、もしそうなら俄然ヴォ・ルシェに遭遇できる可能性は高くなる。勿論 自分もうさこ並に恐いとは感じているのだが、それ以上にリリンの為にという気持ちが今は勝っていた。




