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神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
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古代竜狩り 34

「ここは天井がとても高くなっているようだな。それで音が響くのだろう」

 

「確かに上は真っ暗ですね。マヤ様の光でも天井が見えませんので、それだけ高くなっているのでしょうね」

 

 フェイリスもハルファスの言葉に頷き、マヤは「なるほどねー」と呟いた。そうして彼女は再び一本道を先へと進み始める。

 だがその後直ぐに、今度はハルファスが足を止めた。

 

「? どうした?」

 

 唐突に足を止めたハルファスに、ジュラードがそう疑問の声を投げかける。すると彼女は何かを探るような鋭い眼差しで、真っ暗闇に隠された天井を見上げた。

 

「……」

 

「? ……うえ?」

 

 ハルファスが見つめる視線の先を追うように、ジュラードも自分の頭上を見上げる。途端に頭に乗っているうさこが落ちそうになって「きゅいぃー!」と抗議の声を上げたが、ジュラードはそれを無視して闇を見つめた。

 

「……? 別に何も見えないぞ?」

 

 ジュラードがそう呟くと、マヤも停止して後ろを振り返りながら「どうしたの?」と声をかける。

 

「お姉さま、何か気になることがあるみたいですね」

 

 ハルファスの様子にマヤがそう言うと、ハルファスはやはり上を見つめたまま「あぁ」と短く返事をする。そして彼女はマヤへこう続けた。

 

「上に何か気配があるぞ。マヤ、すまんがちょっと上を照らしてくれんか?」

 

「はぁ~い」

 

 ハルファスの要求にマヤはそう返事をして、自身の纏う光をやや強くする。そうして彼女は背中の羽根を羽ばたかせながら、ふわふわと闇に包まれた頭上高くへ向けて飛んだ。

 

「マヤ、気をつけろよ。今のところ殺気などは感じられんが、何があるかわからん」

 

「わかってますってお姉さまー」

 

 ハルファスの注意の声にそう返事をしながら、マヤは彼女が気にする天井へと徐々に近づく。

 やがてマヤの発する明かりが闇に包まれた天井を薄っすらと照らしたとき、そこに見えたものに驚いたマヤは思わず動きを止めた。

 

「!? こ、れは……」

 

 ぼんやりとした薄明かりの中に浮かび上がった光景に、それを下で目撃していたジュラードたちも驚いたように目を見開く。

 

「蝶……?」

 

 フェイリスが頭上を見上げながら、そう静かに 呟く。

 ジュラードたちの視線の先にあったものは、見上げた天井を多い尽くす巨大で大量の蝶たち。濃い紫と赤という毒々しい色彩で彩られたそれらは、闇にじっと息を潜めるかのように静かにそこにへばりついてジュラードたちを見下ろしていた。

 

「……」

 

 普段は綺麗と思う虫である蝶も、人の頭ほどの大きさで大量に存在すると、ただただ気持ち悪さだけを感じるとジュラードは思う。

 ついでに蝶たちを見て、彼はふと嫌な事実に気づいてしまう。

 

「もしかしてさっきからハルファスたちがブチブチと踏んでた芋虫って……こいつらの……」

 

 そうジュラードが苦い顔で呟きかけたとき、今まで静かに天井に張り付いていた巨大蝶が僅かにだが一斉に羽を小刻みに揺ら し始めた。

 暗闇に静かに、だが確かに聞えて響く不気味な羽音。小さなその音は、しかし幾重にも重なることで徐々にその存在感を増していった。

 

「なん、だ……?」

 

 天井に引っ付いたまま羽を鳴らす蝶に、ジュラードがそう困惑の声を漏らす。それは他の者たちも同様のようで、同じように天井を見上げたまま眉を潜めた表情で皆立ち止まっていた。

 そして最初にその異変に気づいたのはマヤだった。

 

「!? なにか……落ちてくるわ」

 

 そう呟く彼女の下で、ハルファスが「なんだ?」と問う。だが答えを聞くよりも先に、マヤの言う『何か』が頭上から落ちてくる方が早かった。

 それはふわりと緩やかに落下する、細やかな金色の輝きに見えた。突如発生した霧のように、黄金色の輝きが上から落ちて周囲に充満する。どうやら蝶が羽を揺らして、それを落としているらしい。そしてその不可解な行動意味をいち早く察したのはハルファスだった。

 

「いかん、これは……っ」

 

 自分たちの周囲に充満しつつあるその金色の細かな粒子に気づいたハルファスは、自分の口元を腕で覆いながら「息をするな、お前たち!」と注意を飛ばす。だがその警告は、時既に遅しだった。

 

「……っ」

 

 ハルファスの警告を聞いた直後、咄嗟に『何故』と疑問を口にしようとしたジュラードだったが、その疑問を口にするより先に自身の体の異変によって、彼はその場に膝をつく。急に体に力が入らなくなったのだ。

 ジュラードは完全に倒れこみそうになる体を何とか剣で支え、片膝をつきながら苦しげな表情で周囲を見渡した。すると自分だけじゃなく、フェイリスもウネも自分と同様にその場に座り込んでいるのが見えた。

 そして注意をしたハルファスも何かの影響を少なからず受けたようで、ジュラードたちのように膝をつくほどの状態にはなっていないが、彼女も苦しげな表情で剣を支えに立っている状態となっている。

 

「お姉さま! それに皆……まさかコレって……」

 

「きゅ、きゅうぅ……」

 

 おそらくジュラードたちの体の自由を奪ったものの原因は、蝶が撒き散らす金色の光のような鱗粉だろう。霧のように細かなそれを吸い込んだことで自由を奪われ、ハルファスはそれを予測して『息をするな』と注意をしたが遅かったようだった。

 結局体の自由を奪う恐るべき鱗粉の影響を完全に受けなかったのは、マヤとうさこのみであった。

 だがうさこはともかく、マヤが影響を受けなかったのは不幸中の幸いだろう。ローズの”魔法”として現実に存在する彼女なので、肉体は通常とは違う。ゆえに毒の鱗粉の影響を受けずに済んだようだ。

 

「マヤ、とりあえずあの蝶を……」

 

「えーえ、わかってますわお姉さま! うふふっ、ここはマヤちゃんにお任せあれっ!」



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