古代竜狩り 32
「へぇー……マヤ、そんな便利なこと出来たんだな」
「ふふん、凄いでしょ。……って、言っとくけどこれあなたの魔力で光ってるだけだからアタシは別に対して凄い事してるわけじゃないわよ? むしろあなたが自覚無しに頑張ってる状態よね」
「え、そうだったのか!?」
驚くローズはマヤに「全然気づかなかった」と独り言のように告げると、マヤは「気づかないくらい省エネで光ってるからねー」と答える。そうして彼女はこう続けた。
「今はローズも自覚しないほど少量の魔力しか使ってないからこの程度の光だけど、本気出せばこういうこともできちゃうわよ?」
そう言うや否や、マヤは前方に小さな手を翳しながら小さく何か呪文を唱える。すると前方に無数の小さな光の玉が坑道の通路に沿うように浮かび上がり、進む先を結構な距離まで明るく照らし出した。
「おぉ、すごいな……」
一気に視界が確保されて、思わずジュラードはそんな驚きの声を上げる。だが彼の前ではローズが急に膝をつき、「ちょ、まってマヤそれやばい……」と何か苦しげに呟いた。そして驚いたジュラードが「大丈夫か?」と声をかけ、マヤも直ぐに派手に照らした光を消す。
「ごめんねローズ! やっぱあれはやりすぎだったかしら!」
マヤも『やりすぎ』な自覚があったらしく、彼女は何か急に顔色悪くなったローズに「ホントごめーん!」と謝る。ローズは深く息を吐き、笑って「いや、もう大丈夫」と彼女に返した。
「でも今のでわかった……確かに私の力だ、あれ! 一気にこう、消費されるのわかったぞ!」
「そうそう、わかったわよね。アタシもわかったわ、やっぱ急に魔力使いすぎちゃうとローズが倒れちゃうってこと。急にってのはいけないわね」
マヤは「気をつけないとね」と自分に言うようにそう呟き、再び皆の先頭の位置へと戻る。ローズはそんな彼女を見ながら、「あぁ、手加減してくれ」と苦笑しながら声をかけた。
「しかし便利ですね。やはり長く放置されていた場所ですから、暗いままですと足場も悪く危険ですので」
「そうだな……」
フェイリスの感心した声に頷き、ジュラードはふと不安に思ったのかこう呟く。
「……まさかここ、ドラゴン以外の魔物はいないよな?」
独り言のようにそう問うたジュラードに、一番後ろを静かに歩いていたウネがこう口を開いて答える。
「今のところは気配は無いから安心して」
「……そうか」
何より安心出来るウネの言葉にジュラードはホッと胸を撫で下ろす。だが直後にウネはこうも呟いた。
「でもヴォ・ルシェの気配を探るのを最優先にしてるから、それ以外のものは見落としがあるかもしれないけど……」
「……」
やはり一応自分たちも敵を警戒していた方がいいということを理解し、ジュラードは緊張を高めながら先を進むローズたちの背中を見つめた。
しばらく坑道を道なりに沿って下りながら進んでいくと、今までのように曖昧に下へ行くような道では無く、明確に下へと続いている階段を見つける。
ちなみにそこまでの道のりにはやはり魔物の気配は無く、ジュラードは入った直後よりは僅かに緊張を緩めていた。
「……ここから下へ行けるようね。階段があるわ」
自分の発する光で目の前の階段を照らしながら、マヤはその先を覗き込むように観察する。傍でローズも同じように幅が広めの階段を覗き込み、「確かに行けそうだな」と言った。
「特に崩れている様子も無いから下りれそうだ。ただそっちにはまだ奥へ行く道があるけど……どうする? どっちに進もう?」
ローズがそう続けたとおり、階段とは別にまだ奥へと続く道もあるのだ。
奥への道も階段も、そのどちらもひんやりと肌を刺激する冷たい空気が流れている。どちらも同じくらいに不気味で、その点ではどっちに進んでも同じように思えた。
ジュラードはそのどちらの通路もじっくり眺め、難しい表情でこう口を開く。
「……どっちを行けばいいのか、正直俺にはよくわからない」
そう素直な意見をジュラードが口にすると、ローズも眉根を寄せた表情で「確かに迷うな」と腕を組み言った。
「そうねー……じゃあここは多数決……」
迷う二人の意見を聞いてマヤがそう言いかけると、ジュラードの頭の上でボーっと震えていたうさこが急に飛び降りて階段の方へと向かう。
「きゅいいぃ~」
「あ、おいうさこ……っ」
ジュラードが止めようとしたが、うさこはその制止の手をすり抜けて階段を一歩二歩と跳ねるように下りる。そしてすぐに立ち止まり、ジュラードたちの方を振り返って「きゅうぅ?」と鳴いた。
そのまるで『こっち行かないの?』と問うようなうさこの行動を見て、マヤは小さく溜息を吐きながら「階段にする?」と改めて皆に問う。
「なんかうさこ的には階段がオススメみたいだけど……」
「んー……じゃあそっちに行こうか。うさこを信じて」
マヤの問いにローズがそうにこやかな笑顔で答える。そうして特に他の者たちの反対意見も出ず、一行はうさこの選択を信じて下へと降りていく事を決めた。
そして一行は安易にうさこを信じた事を、やがて後悔することになる。
ジュラードたちは足場の悪い人工物の階段を、足を滑らせないように慎重に下る。
「足元に気をつけて下りてね、みんな。とくにローズは要注意よ」
階段を先導して照らすマヤのその言葉に、ローズは複雑な表情をしながら「なんで私だけ要注意なんだ」と呟いた。
「あらー、だってローズだもん。このドジっ娘!」
「なんだよどじっこって……大体、私だって注意してる、っ……うわあぁっ!」
「ちょ、ローズ嘘でしょ!? 言った傍からー、もー!」
「ローズさん!」
「だ、大丈夫か!?」
「きゅいいぃ!」
「……大丈夫?」
お約束のように言ってる傍からローズは足を滑らせて階段を落ちる。皆はそのローズの様子に心配したように各々叫んだが、不幸中の幸いで階段はもうほとんど下りきっていたらしく、ローズは重大な怪我を負うほどにはダメージは負わずにすんだらしい。
「いたた……」
「ローズ、大丈夫!?」
マヤにそう声をかけられ、尻餅を着いた状態で階段下にいるローズは「な、なんとか」と返事をする。そして彼女はマヤに「ボーっとしてるからよぉー」と言われ、こう言葉を返した。
「ボーっとなんてしてないぞ! ただ何か足元にあったらしくて、それ踏んでずるっと滑って……」
「……何かってなんだ?」
ジュラードが問うと、ローズは「何かふにゃっと柔らかいものが……」と答える。それを聞き、マヤはこう推理した。




