古代竜狩り 21
何かエルミラを詳しく知っていそうな様子の男性に、アーリィがそう問いを向ける。すると男はこう返事を返した。
「えっと、僕昔にある研究所に居たんですけど、クローシュさんも昔そこで働いてて所属も同じだったので……」
「あ、そういえばエルミラさん昔は大きな研究所に居たって言ってましたね」
アゲハがそう思い出したように声を上げ、男も「えぇ」と頷いた。
「クローシュさんってその時凄く若かったのに、僕なんかよりよっぽど優秀で凄い人でしたよ。僕よりほんの少し先に来たって話なのに、優秀だから直ぐに役職も上になっちゃって」
男がそう笑いながら答えると、ミレイが不信感たっぷりな表情で「しんじられない」と呟く。
「あのあほ赤毛がゆうしゅうですごいなんて……みれい、そんなのしんじないもん」
アーリィの後ろに隠れて顔だけ出しながらそんなひどいことを言うミレイに、男は「でも、この電話だってクローシュさんの研究が大きく関わってるんですよ」と告げた。
「えぇ、そうなんですかっ!?」
驚くアゲハに、男性に笑って「えぇ」と頷く。
「これ自体は旧時代のものの復元で以前から存在してましたけど、これに改良を加えたり広域に対応できるような通信設備の設計とか開発とかエルミラさんが研究所に居た頃に色々やってくれたお陰で、この数年でやっと一般にも利用できるくらいに普及してきたんです。勿論クローシュさん一人の成果ってわけじゃないですけど、でも現状の成果はあの人の影響が大きいって話です。ついでにあの人のご両親が電話を含めた旧時代の通信機器の復元をしているので、親子でこの機械に深く関わっているんですよね」
何か知らないところで知り合いが凄いことをしていたという話を聞き、アーリィたちは一様に驚く。とくに普段のやかましく迷惑を掛けてはレイチェルに厳しく怒られているエルミラの姿を知っていると、どうにもあの男がそんな凄い人物とは思えないのだ。……エルミラには失礼な話だが。
「はわー……やっぱエルミラさんってなんか凄いんですね」
「……確かにマヤやウィッチを除けば私やミレイの体のこと一番理解してるのはあいつだし、マヤがあの状態だから今は体のことで何かあればあいつに相談してるけど、ちゃんとすぐ対応してくれるし……ウィッチからの説明と資料だけでここまで私たちを把握してるあいつは凄いのかも」
「ふぅん……でもみれいは赤毛よりおにいちゃんのほうがずっとすごいとおもうけどねっ。おにいちゃんのほうがみれいにいっぱいほんよんでくれるし!」
それぞれに自由な感想を言うアーリィたちを見て、男性は思わず苦笑を漏らす。そして彼は「あの人、元気でしょうか?」とアーリィたちに聞いた。
「うん、元気です。むしろ煩いくらい元気」
「そうそう、赤毛はげんきすぎてうるさいのっ。いつもおにいちゃんにおこられてるよ、おとななのにおちつきないって! だめなおとな、なの!」
「あはは、元気ならよかったです。そっか……ちょっとだけ昔の知り合いの話で、なんだかあの人が良くない事に巻き込ませそうってことを聞いたので少し不安だったけど……僕、クローシュさんには本当に色々お世話になったし、勉強もさせてもらいましたから」
独り言のようにそう呟くバッシュに、その噂が嘘では無い事を知っているアーリィたちは少し複雑な表情となる。
しかし彼にそれを説明してもいらぬ心配をかけるだけなので、アーリィたちはその話については口には出さなかった。
「もしあの人に会いましたら……あぁ、僕バッシュって言いますけど、よろしくお伝えください。あと、以前はお世話になりました、と」
バッシュの笑顔の伝言に、アーリィは「わかりました」と頷く。ついでにミレイも「みれいたち、ちゃんと赤毛におつたえするよ!」と、元気に返事を返した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
予期せぬトラブルに見舞われた一夜から明けて、ヴォ・ルシェ探しを再開させたジュラードたちは、本日はその日の最終目的地が休憩所となるフェイリス案のルートを行くことになった。
フェイリスの案のルートは多少魔物が出やすいという地帯を通過するので危険度はやや高いものだが、そもそも古代竜を探さなくてはいけない彼らなので、魔物に遭遇しない事には話が始まらない。その為には魔物が多く出没するエリアを通る選択は、リスクはあれど目的達成の為には有効と言えるものだった。
そんなわけでやや危険なルートを進むことを決めたジュラードたちは、太陽が真上を通る頃の現在ですでに連続して数回の魔物との遭遇に合い、まだ日中の折り返しという時間にも関わらず、一部の者を除いては早くも疲労の色をやや濃くさせていた。
そんな時に丁度休憩によさそうな日陰の岩場を見つけ、少し疲れを感じている一人だったローズが皆にこう声をかける。
「はぁ……さすがに連戦はきついな。ここらへんは魔物の気配は無いし、休むのに丁度よさそうだから休憩していかないか?」
そのローズの言葉に、ローズ同様に連戦にやや体力を消耗しているジュラードが頷く。
そしてウネは「私はどちらでもかまわない」と答え、フェイリスはさほど疲れている様子は無いが「そうですね」とローズに返事を返した。
そうして四人と妖精一人とうさこ一匹は、ひと時安全な場所で休息を取 る事にする。
「きゅうぅーきゅうぅー」
「水? ……今出してやるから少し待て」
誰かの頭の上に乗っているだけなのに何故か疲れいるらしく、耳(?)が横に垂れているうさこが水をねだる。ジュラードはその要求に応えてうさこに水分補給をしながら、少し気まずい感情を胸に抱えながらローズに話しかけた。
「なぁ……」
「ん? どうした?」
ジュラードが声をかけると、ローズはいつもどおり微笑を湛えた表情で彼の方を向く。その顔を見るのがやはり気まずく、ジュラードは少し視線を下に逸らしながらこう言葉を続けた。
「ドラゴン以外の魔物は多いが……やっぱりドラゴンにはまだ遭遇しないよな……?」
「あ、あぁ……」
「竜が多いエリア……らしいのに……」
「う、うん……そうだな……」
ジュラードの言わんとすることを察して、ローズも苦い顔で彼の問いに頷く。そしてジュラードは無意識に小さく溜息を吐くと、マヤがじとっと彼を睨みながらこう声をかけた。
「まーたネガティブになってるー」
「……な、なってないっ」
ジュラードは慌てて否定するが、明らかに今のマヤの指摘は正しい。だが不安になってしまうのはやや仕方ないと、ジュラードの様子を見たマヤは思った。
基本的に楽観的で前向きな考えのローズも、ほんの少し不安そうな表情でジュラードを見つめる。
「情報を疑ってるわけじゃないが……でも確かに見かけないな」
ローズはそう小さく言い、その彼女の言葉に続いてウネがこう口を開いた。




