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神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
328/494

古代竜狩り 19




 アーリィがアゲハたちを連れて足を止めたのは、近代的な造りをした大きな建物の前。

 

「としょかんー!」

 

 見上げた馴染みの建物を前に、ミレイがそう声をあげる。ミレイが言うように、アーリィがいくつかある候補の中から選んで足を運んだのは図書館だった。

 

「おねえちゃん、ほんをかりにきたの? みれいもね、ほんよみたいの! いまはみれい、まほうつかいひゅーりーしりーずにむちゅうなの! おねえちゃんはひゅーりーしってる?」

 

「ううん、知らない……あとごめんミレイ、本を借りに来たわけじゃないよ……」

 

「えー……みれい、ほんよみたい……ひゅーりーのほん、おねえちゃんといっしょによみたいのに……」

 

 アーリィの返事に途端にがっかりするミレイを見て、アーリィは苦笑しながら「じゃあ用事済んだら本借りよう」と言う。それを聞き、再びミレイは元気になって「やったー!」と言った。

 

「じゃあおねえちゃん、はやくようじすませよう? みれいもぜんそくりょくでおてつだいするよ! ……あれ、ぜんりょくかな? とにかくみれい、いっぱいてつだうの!」

 

「う、うん……電話借りるだけだからそんなに手伝う事無いかもだけど、でもありがと。わかった、早く済ませよう」

 

 張り切るミレイに背中を押される形で、アーリィは図書館内へと進む。アゲハとミレイもその背中に続いて、建物内へと入っていった。

 

 

 

 公共図書館は基本的に誰にでも出入り出来て、さらにアーリィやユーリのようなアル・アジフに住民登録している人間ならば貸し出し用の本を自由に借りることが出来る。

 しかし住民でない人間でも身分証の提示で簡単に作成できる期限付きの利用登録カードを発行してもらえば本を借りる事が出来るので、とにかくたくさんの人が開館時間中は利用している場所だ。

 一歩建物内に足を踏み入れるとまず利用案内の設置されている大きなエントランスホールが広がり、今日もそこを歩く図書館利用者の姿が多く見られた。

 

「としょかんではしずかに……としょかんではしずかに……」

 

 アーリィと手を繋いで中に入ったミレイは、囁く声音で自分に言い聞かせるようにそんなことを呟く。それを聞いたアーリィは「うん、そうそう。偉いねミレイ」と、こちらも小さくミレイに声をかけた。そして彼女は視線を正面に移す。

 

「えっと……まずあの受付で電話貸してもらえるか聞こう」

 

「はい、そうですね」

 

 アーリィの言葉に隣でアゲハも頷き、三人は図書館利用者への案内等を行う受付へと足を向ける。アーリィたちが近づくと、受付に座っていた女性が柔らかく微笑んで「ようこそいらっしゃいました」と声をかけた。

 

「こちらは総合案内でございます。ご用件ございましたら承ります」

 

「あ……えと、電話? っていうものを貸してもらいたくて来たんですけど……」

 

 アーリィがそうしどろもどろに用件を伝えると、案内の女性はやはり微笑んだまま「電話でございますね」と頷く。

 

「電話のご利用は有料のサービスとなりますがよろしいでしょうか?」

 

「ゆうりょう……いくらですか?」

 

 『高いと困るなぁ』と思いながらアーリィが不安そうにそう聞くと、女性は案内の書類を一枚取り出してこう説明した。

 

「国内への通話ですと、一分50ジュレとなります。現在は国外へも一部の近隣国の限定した場所にのみ利用できますが、この場合は少々利用料金が高くなります」

 

「そうなんだ……」

 

 説明を聞き、アーリィは「じゃあ電話借りてみよう」とアゲハに言う。それにアゲハは「ですね」と笑顔で頷いた。


「エルミラさんたちがいるところ、同じ国の中ですから利用料もそこまで高く無いみたいですからね」

 

「うん」

 

 そうしてアーリィたちは、エルミラと連絡を取る為に電話を利用することを決めた。

 

 

 

 電話を借りる旨を伝え、アーリィたちは受付に居た女性の案内に従って電話の設置してある部屋へと向かう。

 階段を上って二階に上がり、その先の廊下の直ぐ右の部屋に電話がありますと聞き、アーリィたちは教えられた部屋の前にたどり着くと、恐る恐る戸をノックした。

 

「はい、どうぞー」

 

「ひゃっ……あ、失礼します……」

 

 ノックした直後に部屋の中から聞えた男性の声に、アーリィは一瞬驚きながらもそっとドアを開ける。室内に居たのは、三十代半ばという風貌の眼鏡の職員らしき男性だった。

 

「あの、電話借りに……」

 

 店の経営での接客で馴れてきたとはいえ、しかしまだまだ初対面の人に対してやや緊張した態度をとってしまうアーリィは、少し上ずった声でそう男性に用件を告げる。すると男性は優しく笑い、「あぁ、どうぞ」とアーリィに返事を返した。

 柔和な笑みを向けてくる男性は穏やかで優しそうな雰囲気で、少し緊張が解れたアーリィは安心した様子で「はい」と返事をした。

 そしてアーリィたちが室内に入り、男性が立ち上がって彼女たちを迎える。

 

「どうぞ、使ってください。えぇと……」

 

「あの、こんにちは!」

 

 男性がアーリィたちに声をかけると、アーリィの後ろに隠れながらも顔だけを出したミレイがそう男性に挨拶をする。すると男性はミレイの少し普通と違った容姿に少々驚きつつ、「こんにちは」と優しくミレイに返事を返した。

 しかしアーリィ同様初対面の人にはやや警戒心があり人見知りするミレイは、挨拶を返されたら返されたで何か恥ずかしいらしく、「ひゃわっ」と短く発しながら顔を引っ込めてアーリィの後ろに完全に隠れてしまう。そんなミレイの様子に少し笑いながら、男性はアーリィたちに部屋の一角を指差して案内した。

 

「電話はあちらです。あ、使い方わかりますか?」

 

 男性の問いにアーリィたちはそろって首を横に振る。その反応にまた男性は笑いながら、「よろしければ僕が連絡したい番号に電話かけますよ」と言った。

 

「番号教えてもらえば、そこに電話かけますんで。そうすれば皆さんはお話すればいいだけになりますよ」

 

「あ、じゃあそれで……あの、お願いします」

 

 男性の提案にアーリィは頷き、エルミラから預かっていた電話番号の書かれているメモを彼に手渡す。男性は番号を確認し、受話器を手に取った。

 

「おぉ、あれがなにかすごいとうわさのでんわ……」

 

 アーリィの後ろに隠れながらも、ミレイは電話が気になる様子で再び顔だけ覗かせる。アーリィやアゲハも興味深そうに、何か電話を前に操作をしている男性を見つめた。

 

「えっと……簡単に説明すると、いま僕が手に持ってるもので相手の声を聞いたり相手に声を伝えたり出来るんです。こんな形で持って、ここで声を聞いてこの耳を当ててる部分で相手の声を聞いて……」

 

 男はそう受話器の説明をしながら、アーリィから預かった番号へ電話を繋げる。

 そして男性が何かを操作後しばらくして、男性はアーリィに受話器を差し出す。その突然の行動にアーリィは「え?」と困惑した表情を返したが、男性が「これで話しが出来ますよ」と声をかけると、恐る恐る受話器を手に取った。


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