古代竜狩り 17
不思議そうに首を傾げるウネに、ジュラードは「昨日、ウネはどんな夢見てたんだ?」と聞く。そして聞いた直後に彼はハッとし、慌てて「すまん!」と言った。
よくよく考えれば今の質問は物凄い失礼と言うか、女性に男が聞くべき話題の問いではないだろう。
「あああ、あぁのな、変な意味はなかったんだ……俺がそれでちょっと悩んでたから……っ」
ジュラードがしどろもどろにそう取り繕うと、ウネはどこか驚いた顔をして「そうなの?」と言った。そして彼女は意外なことに、こう続ける。
「実は私もあの時、夢魔に見せられていた夢で腑に落ちないことがあって……昨日の夜は少しだけ悩んだ」
「え……?」
ウネの真剣な表情に、一体彼女はどう悩んだのだろうと、ジュラードはついつい気になってしまう。
だがはたして聞いていい話なのだろうか?
「……」
ジュラードが内心で悩み沈黙していると、ウネの方からこう口を開いてジュラードに話を続けた。
「実はあの時、私……ゼラチンうさぎと戯れる夢を見ていたのだけど……」
「……え?」
何かほのぼのとした内容の話を深刻な顔をして喋りだすので、ジュラードは即座にはウネが何を言っているのか理解できなかった。
「いえ、勿論私は目が見えないから、夢に出てきたのはいつもうさこを触って頭で想像しているゼラチンうさぎよ。だからうさこかどうかはわからないけど……」
ウネは真剣そのものの表情で、「でも、やっぱりあれはうさこの夢を見ていたということになるの……?」と呟く。それに対して、ジュラードはどうコメントしたらいいのかわからずに硬直した。
「どうしよう……私、確かに今までそんなに同族の異性に心惹かれた記憶は無いけれど、だからってゼラチンうさぎってどうなのかと……なんだか自分で自分のことが不安になってしまった。ラプラの頭のおかしさを心配している場合じゃない気がする……」
「……」
どうやらウネは、ジュラードとはまた大きく違った意味で夢魔の夢に悩まされているらしい。
確かに夢魔にゼラチンうさぎを選択されて見せられたら、それはそれで自分も『自分大丈夫か?』と深く悩むなと、ウネの様子を見てジュラードは思った。
「……それでジュラード、あなたは夢のことでどう悩んでいたの? もしかして、あなたも私と同じでゼラチンうさぎに欲情?」
「きゅいぃ~」
「いや、それは違う。ってかうさこ、何勝手に返事してるんだよ。俺はその……い、言えないけどやっぱりちょっと問題がある夢を見てて……それで……」
ジュラードがしどろもどろにそうウネに返事をしていると、フェイリスと話をしていたローズが「おーい!」と彼らに声をかけてくる。どうやら本日のルートが決まったらしい。
「ジュラード、ウネ、すまんがちょっとこっちに来てくれ!」
「……ローズが呼んでる。行きましょう」
ローズの呼びかけに、ウネが彼女の方を向いてそうジュラードに言う。ジュラードは小さく溜息を吐いた後、「あぁ」とそれに返事をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃ユーリたちは報告も兼ねて学会に戻るというジューザスと別れて、一足先にアゼスティ国に戻っていた。
そして彼らは店のあるアル・アジフへと向かい、再び店を任せていたレイチェルたちと再会する。
「ただいま……」
そう言いながら最初にアーリィが店の戸を開けて中に入ると、何か女性の客に話し掛けられて話をしていたミレイが彼女の方へ視線を移す。そして「あっ、おねえちゃん!」と目を輝かせて叫んだ。
そのままミレイは客をほっぽり出してアーリィに駆け寄ろうとして、しかし後一歩のところでそれを思いとどまる。彼女はアーリィに抱きつきたい衝動を抑えて、一先ず客の女性に向き直って、「そのしょうひんはいましなぎれちゅうなの、ごめんなさい」と言った。
「でもいまおねえちゃんかえってきたから、すぐしょうひんおみせにならぶとおもうの」
「お姉ちゃん?」
女性がミレイの言葉に首を傾げると、ミレイは胸を張って「そうなの!」と元気よく頷く。そして店の入り口で立っているアーリィを指差した。
「あそこにいるのがみれいのおねえちゃん! つよくてやさしくてかっこよくてかわいいの! それじゃあごゆっくりだよ!」
そうアーリィを紹介して、ついに我慢できなくなったのか、ミレイはアーリィの元に駆け寄って思い切り抱きつく。その衝撃でアーリィの体は後方へよろけて、後ろにいたユーリが「おぉ、あぶねぇな」とアーリィを支えた。
「おねえちゃんおかえりー!」
「うぐっ……た、ただいま……げほっ、げほっ」
アーリィは超合金の妹に全力でタックルされた衝撃で咳き込みながら、毎度毎度再会の度に自分はダメージを受けている気がすると考える。正直ミレイの全力タックルは、それだけで有効な攻撃手段になりうるパワーなので物凄いダメージが大きいのだ。それにただでさえ打たれ弱い彼女には、ミレイの愛は生死に関わるくらいに重くて痛い。
でもミレイがそれだけ自分のことを慕ってくれているのは嬉しいので、アーリィは咳き込みながらもミレイの頭を撫でて笑った。
「あ、みんなお帰りなさいー」
レイチェルもユーリやアーリィたちが帰ってきたのに気づき、カウンターからそう声をかける。
どうやら今回も留守の間とくにトラブルはなかったのだと、そのレイチェルの様子から理解したユーリたちは一先ず安堵した。
「おぉ、レイチェル、またまた留守の間のことサンキューな」
「ううん、いいんですよ。それよりその、ユーリさんたちの用事は終わったんですか?」
レイチェルがそうユーリに問うと、ユーリは笑って「まぁな」と答える。その後ろでアゲハが「ばっちりだよ!」と指でブイサインを作りながらレイチェルに報告した。
「え、ばっちりってことは……」
「ふふふっ、そうなの。なんと見つけてきちゃったんだよね……グラスドール!」
アゲハは妙にテンション高く、レイチェルにそう報告する。レイチェルはアゲハの報告を聞いて、驚いたように目を丸くした。
「すごい! 本当に?!」
「本当だよ! ですよね、ユーリさん!」
「あぁ、ホントだぜー」
ユーリもそう返事をし、レイチェルは「凄いですね」と改めて驚いた様子で言った。




