古代竜狩り 15
マヤが何かに気づいた表情を向けてきたので、ジュラードはあからさまに動揺する。鈍いローズと違い、マヤは勘が鋭いので恐い。さらにマヤもローズ大好き状態で、彼女に男が近づこうものなら魔法を使って相手を本気で殺しにいくのでなお恐い。実際一度本気で殺されかけたので、とにかく恐い。
マヤに先ほど自分が見た夢がバレたら確実に殺される……と、内心生きた心地がしないほどに焦るジュラードに、マヤは疑わしげな視線を向けてこう言った。
「ジュラード、あんたまさか夢魔に襲われた時……」
「な、なな、なんだよ……っ」
マヤはローズの傍から離れ、ジュラードの目の前に移動して彼をじっと見つめる。その恐怖とプレッシャーの中でジュラードが彼女の言葉を待つと、マヤはずばりこう言った。
「リリンちゃんの夢見てたんでしょう!」
「え……?」
マヤの指摘にジュラードは目を丸くして、『あ、そっち?』といった感じに内心でホッとする。だが安心する周囲とは逆に、仲間たちは一斉にジュラードにドン引きした視線を送った。
「え、ジュラード……さすがに兄妹でそういうのはどうかと思うぞ……リリンちゃんのこと可愛いのはよくわかるけど、そういう意味ではやっぱりなぁ……」
「そうですね……同性愛者の私が言うのもなんですけど、でも近親相姦は私でも引きます……」
「何か犯罪の匂いがする……」
「夢魔の夢とはいえ、妹を相手にとはおぞましい……ローズ、それが本当ならこやつと旅するのはやはりやめたほうが良いかもしれんぞ」
ローズたちの冷たい視線を受けて、ジュラードは安心している場合じゃないと気づく。うさこまで「きゅうぅー……」と非難する眼差しを向けてくるので、ジュラードは慌てて「そんなわけないだろ!」と否定した。
「え、違うの? じゃあなんで取り乱してたのよ」
「そ、それは……とにかくリリンじゃない! リリンは大事な妹だからな! それでいいだろ、もうっ!」
墓穴を掘る前に何とかこの話題を終わらせようと、ジュラードはそう強い口調でマヤに言う。マヤは疑わしげな眼差しを変えなかったが、しかし幸いな事に真実を追究されることは無かった。
「まぁいいわ、ジュラードがシスコンを患っていることは皆承知の事実だし。ドン引きしても今更な気もしてきたわ」
「だ、だから違うのに……それよりもういい加減寝よう。ま、まだ明日だってドラゴン探すんだし!」
ジュラードのその一言に、ローズは「それもそうだな」と頷く。
「また何かあるかもしれないけど、一番は休む事が大事だからな」
「そーね。んじゃアタシも戻るわ~」
マヤも理解し、彼女とハルファスは再びローズの中に姿を消した。そしてウネが小さく手を上げて、「次は私が見張りの番」とジュラードに言う。
「あ、あぁ……そうだな」
「厄介な魔物がいることはわかったから、気をつける。だからあなたたちは安心して体を休めて」
ウネのその言葉に少し複雑な気持ちになりながらジュラードは頷き、そんな彼にローズがまた声をかける。
「ジュラードはとくに疲れただろうから、この後はしっかり休んだ方がいいぞ」
「わわ、わかってる! お前に言われなくても!」
「? そ、そうか……」
顔を背けて返事をし、自分から逃げるように離れていったジュラードの後姿を、ローズは不思議そうな眼差しで見送った。
翌朝、結局ジュラードはあまり眠れないままにメリア・モリにて古代竜探しの二日目を迎える。
彼は昨晩の出来事に軽く頭を悩ませつつも、しかし『リリンを助ける』という大事な目的の為に、欠伸の出る自分に気合を入れなおした。
「……よしっ」
するとそんなジュラードに、ローズが笑顔で声をかけてくる。
「あ、朝から気合入ってるな、ジュラード」
「うわっ!」
色々と考えてしまって寝不足になった原因に突然後ろから声をかけられ、ジュラードは必要以上に驚く。そんな彼の反応を見て、ローズも驚いた顔で「すまん」と言った。
「んっと……なにか驚かせてしまったみたいで……」
「い、いや……べ、別にそんなに驚いてない……」
ジュラードは慌ててそう取り繕って返事をしたが、どうに昨晩の一件からローズと普通に接する事が出来ない。そしてそんなジュラードの態度を、さすがに鈍いローズも疑問に感じていた。
「……なぁジュラード、お前なにか変じゃないか?」
「そ、そんなことないっ。俺はとても普通だ」
不思議そうな眼差しで自分を見つめるローズに、ジュラードは大袈裟に首を横に振って返事をする。その返事の仕方がもう普通じゃないのだが、生憎今のジュラードにはそれに気づく余裕はなかった。
ローズは訝しげな眼差しでジュラードを見つめ、何か納得いかなそうな顔をしながらも「それならいいんだが」と言う。
「でも何か心配事とかあるなら、気軽に相談してくれよな」
ローズがそう言って微笑むが、なんだかその笑顔をまともに見れる気がしない。ジュラードは僅かに目を逸らし、「わ、わかった」と曖昧に頷いた。
そうジュラードとローズが話していると、傍で話を聞いていたらしいマヤが飛んできてローズの頭の上に止まる。
「ローズってば頼られると嬉しいタイプなのよねー」
「ん? あ、あぁ……」
マヤに話しかけられ、ローズはやや照れた様子で笑った。そんなローズの様子を見て、マヤも笑う。
「まぁローズ自身はちょっぴり頼りない時もあるんだけど」
「なっ、ひ、ひどい……」
「でもそんなとこが可愛いのよねー、ローズって」
「うえぇっ……ああぁ、そ、そうか……?」
マヤの言葉にどう反応したらいいのか困りつつ、だけどまんざらでもない様子でローズは彼女の言葉に首を傾げた。
そんな二人のやりとりを見て、ジュラードは小さく溜息を吐く。そんな彼の姿を見て、ローズはやはり不安げな視線を向けた。だがローズがそれを問う前に、ジュラードは背を向けて彼女から離れていく。
ローズは無言でどこかに行くジュラードの姿を目で追いながら、マヤにこう声をかける。
「……ジュラード、やっぱりなんかおかしくないか?」
「んー、まぁそうねぇ……」
マヤもジュラードの様子がおかしいことは気づいていたので、ローズの言葉に頷く。そのマヤの返事に、ローズは「やっぱり……」と、心配した眼差しのまま言った。
「溜息なんて吐いて……やっぱりリリンちゃんのこと、心配だからだろうか……」
「あぁ、かもねぇ」
まさか自分のことでため息吐かれているとは微塵も思っていないローズは、ジュラードの背中を見ながら「頑張らないとな、ジュラードやリリンちゃんたちの為に」と呟いた。




