古代竜狩り 14
「そぉいえばローズって、夢魔に眠らされてる間にどんな夢見てたのぉ~?」
「へ……?」
マヤに問われて、ローズはしばらく考える。
自分があの時どんな夢を見ていたのか……たしか自分は、あの時……
「……っ!?」
問われて意識して思い出そうとしたら思い出せたらしく、ローズは急に顔を赤くさせてわかりやすく動揺する。
そんなローズの様子を見て、マヤは意地悪く目を細めて追及した。
「あらー、やっぱりな~んかやらしい夢見てたのね~」
「あわ、あ、ち、ちが……み、見てたわけじゃない! 見させられてたんだろうっ!」
「でも見てたのね。で、どんなの?」
「いやだ、言えるわけ無い……って言うかマヤとかハルファスとか、まさか私の夢が見えてるとか……そ、そんなわけないよな……っ……いやだ、無いって言ってくれ……!」
今度はガクガク蒼白な顔色で震えだしたローズを見て、マヤはにやりと笑う。その彼女の笑顔を見た途端発狂して気を失いそうになったローズを見て、ハルファスが「マヤ、あまりローズを苛めるな」と言うと、マヤは「ごめんなさい、つい」と言ってローズにこう言った。
「見えるわけ無いでしょう。アタシたちの存在に関して、ローズのプライバシーは最優先されるんだからー……大変残念な事に」
「マヤ、小声で本音を言うでない」
「ごめんなさいお姉さま、つい……まぁとにかく大丈夫よん」
マヤは小さく溜息を吐きながら、「前にもそう説明したでしょ」と、怯えるローズに言う。だがマヤのいじめが相当恐かったのか、ローズは半信半疑に頷いた。
「でもやっぱり気になるわねー。ローズ、夢だからって浮気してないでしょうねー?」
「してない! だって夢ってマヤっ……あ……っ!」
何かを言いかけ、ローズはまた顔を赤くして固まる。そのローズの面白い様子に、マヤは「ローズ、大丈夫?」と声をかけた。
「なに、マヤって……あ、もしかしてローズってばアタシのやらしー夢見てたのー?」
「はわっ、あっ、な、なに言って……っ!」
またわかりやすく動揺するローズを見て、マヤはニヤニヤと笑う。そんなマヤをハルファスは「だからあまりローズを苛めるな、マヤよ」と咎めた。
「わかってますってお姉さまー。でもローズって反応が可愛いからつい……ふふっ、でもよかったわー」
何か嬉しそうに笑うマヤの様子に、もう泣き出す寸前で震えているローズの隣でジュラードが「何がいいんだ?」と問う。それにマヤはこう答えた。
「確か夢魔ってやーらしー夢を相手に見せるとき、大体はまぁ理想の異性像を見せて夢の中でアレコレするのよね。でもぉ、相手に想い人がいる場合は高確率でその存在が夢に現れるのよー」
マヤはそう説明した後、「つまりローズはアタシが一番だったってことでしょ」と勝ち誇ったように言う。そのマヤのひどいセクハラに、ローズはついに膝を抱えて蹲って震えた。多分これは泣いているな、と、そんなローズの様子を眺めてジュラードは思う。
「マヤ恐いマヤ恐いマヤ恐い……っ」
「おいマヤ、おぬしがあまりにも苛めるからローズが壊れ始めたではないか」
ぶつぶつと涙声で恐怖を呟き始めたローズを見て、ハルファスが心配した表情でそうマヤに言う。するとマヤは平然とこう答えた。
「大丈夫ですわお姉さま、これはローズの精神面の修行の一環とかそんなアレですからー。ローズもそのうち心が鍛えられて慣れますって!」
マヤはハルファスの言葉に鬼のような返答をした後で、「あ、でもローズに嫌われたらヤだからやっぱ謝ろうっと」と言ってローズの頭を撫でる。そうして「ごめんねローズ」と、ローズの心にトラウマを生んじゃいそうなほど苛めすぎたことを謝罪するマヤを見ながら、ジュラードはマヤの説明した先ほどの話の意味をふと考えた。
「だけどマヤ様の仰る事が本当でしたら、私の場合はやっぱりローズさんが……ふふっ、夢とはいえあんな大胆なローズさん、素敵でした。現実ではローズさんはマヤ様のものなので、たとえ危険な夢でも……幸せでしたわ」
やけに艶っぽいフェイリスの呟きを聞き、そろそろ女性恐怖症になりそうなローズがまた大袈裟に震える。そしてマヤの言葉の意味を考えていたジュラードの耳にもその言葉は入り、その言葉も相俟って”その意味”に気づいた彼は驚いたように目を見開いた。
「なっ、ちょっ、待て……っ! じゃあ俺は……っ」
「? どうしたのジュラード、急に一人で叫んじゃって。脳みそ沸いた?」
突然大声を出したジュラードに皆の視線が集まり、マヤが代表して彼にやや辛辣な突っ込みを入れる。それにジュラードははっとした様子で、慌てて「な、何でもないっ」と返した。
だがそう返事した内心でジュラードはかなり混乱していた。何故ならマヤの説明が真実なら、自分が夢魔の夢で見た人物はローズだ。
(そ、そんな……っ、だけど俺、ローズをそんなふうに意識したことないし……っ)
いや、異性として全く意識していなかったと言えばそんなわけは無いが、だけど今の自分はリリンが何より大事でそれが最優先だ。そういう色恋感情に気持ちを割く余裕は一切無いはずで、だからそれを特別意識したことも無かった。
しかしその一方で、無意識に 自分は彼女に惹かれていたのだろうか……とも考えてしまう。確かにローズは少し抜けているところはあるが、年上ということもあって自分をリードしてくれるし優しいし強いし美人ではあるし、何よりリリンを助けたい自分を一生懸命に手伝ってくれようとしてくれている。
そう考えると、自分が彼女に惹かれるのは何もおかしなことでは無い気もする。
(いやいや、でもそもそもローズはなんかよくわかんないけどマヤが好き? らしいし……!)
色々頭の中で考えていると、自然と頬が熱くなる。さらに急に黙り込んだジュラードを気にしてか、顔を上げたローズが「ジュラード、大丈夫か?」と心配そうに声をかけてきて、彼は驚きと恥ずかしさで思わず叫んだ。
「っ……ぎゃああああぁっ!」
「うわっ、びっくりした! ホントに大丈夫かジュラード!」
ジュラードの叫びでついにうさこも目を覚ます。うさこは眠そうに目を擦りながら、『何事?』といった様子でジュラードを見上げた。
「きゅうぅ~……?」
「あぁ、ジュラードが急に大声出すからうさこも起きちゃったぞ……で、どうしたんだ? 何か心配事か?」
「な、なんでもない! だから気にするな!」
よりによってローズに追及されて、ジュラードは顔を赤くしたままそう言葉を返す。そんなジュラードの様子を見て、マヤが何か気づいたように「もしかして……」と口を開いた。
「えっ!?」




