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神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
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古代竜狩り 8




「ふぅ……なかなか怖い敵だったな」

 

 戦闘を終え、ローズが大剣を下ろして深く息を吐く。フェイリスの確認したとおり、彼女やウネが残りのウォーバードを片付けてくれたお陰で、一先ず一行は危険を脱したようだった。

 

「ローズ、大丈夫? 今回は結構怪我しちゃってる!」

 

「え? あぁ、まぁ素早い敵だったからな。私、どうしても早い敵は苦手だし」

 

 今の戦闘で体のあちこちに細かい傷を負ったローズをマヤが心配すると、ローズ本人は痛みを我慢しているのか苦笑を彼女に返す。そんなローズにマヤはやや不満げな表情を見せたが、しかし直ぐに安堵したようにこうも呟いた。

 

「あぁ、でも大きな怪我は無くてよかったわ。あの敵は結構厄介な魔物だったからね……」

 

 マヤがそう呟いた直後に、ローズの元にジュラードがやって来る。そしてローズは彼に気づくと、「うわ、ジュラード大丈夫か?!」と心配した表情を彼に見せた。

 

「ひどい怪我じゃないか! い、痛くないのか?」

 

「……痛くないように見えるか……?」

 

「い、痛そうに見える……あ、治すよ!」

 

 ローズがハッとした様子でそう言うと、ジュラードは素直に「頼む」と答える。そしてローズは直ぐに、ジュラードが負った腕の痛々しい傷を治癒術で塞ぐ作業に移った。

 

 

 ジュラードがローズに治療してもらっている頃、フェイリスは戦闘を終えて武器を仕舞うウネへと話しかけていた。

 

「ウネさん、お疲れ様でした」

 

「……フェイリス」

 

 武器を仕舞って両手が空いたので、ジュラードが心配でか地面をうろうろとしていたうさこを抱き上げながら、ウネは声をかけられた返事を返す。そうして彼女はフェイリスへと体ごと向き直った。

 

「お怪我はありませんか?」

 

「えぇ、私は平気。うさこも大丈夫みたい」

 

「きゅいぃー!」

 

 ウネの腕に抱かれて、先ほどまで震えていたはずのうさこが元気に返事をする。そんなうさこの様子を見て、フェイリスは「それはよかったです」と微笑んだ。

 

「しかし……さすがアトラメノク・ドゥエラですね。武器も不思議なものですけども、お強い」

 

 感心した様子でそう告げるフェイリスに、ウネは「それはあなたも」と返す。

 

「むしろただの人であるあなたの強さに私は感心するわ」

 

 ウネは言ってから反省したように「ごめんなさい、ヒューマンを過小評価しているわけではないのだけれど」と付け足す。

 

「どちらかといえば私は、人の持つ可能性と潜在能力には驚かされてばかりなのだけど……あなたも私の中で、その驚きの一人になった」

 

「ふふっ、ウネさんのような方にそのような評価をいただけて嬉しいです。ですが、私はまだまだです」

 

 微笑むフェイリスの言葉を一瞬謙遜だと思ったウネだったが、しかしそうでない感情をそこから僅かに読み取り、ウネはフェイリスに疑問の表情を向けた。

 

「まだまだ? そうは思わないけども……なぜそう思う?」

 

 するとウネの疑問に、フェイリスはこう答える。

 

「やはり女性ですので……いえ、性別を言い訳にはしたくありませんが、しかし個人以上に男女の個体差の壁は大きい。同じに努力しても、私では男性には純粋な力では敵いません。だからそれ以上に努力をしないと……」

 

 彼女は元軍人だったと聞く。

 軍は基本的に男性社会だ。勿論女性も多く所属してはいるが、純粋に戦闘を行う兵として所属する者は、男性に比べればごく僅かだろう。その中で兵として戦ってきた彼女の、それは苦労とコンプレックスからの言葉なのかもしれない。

 

「……力だけが強さでは無いはず。何より、あなたにはそれ以外の強さも感じた……」

 

「そう言っていただけると、少し気が楽になります」

 

 本当に嬉しそうに微笑むフェイリスのその表情は残念ながらウネが見る事は出来なかったが、しかし彼女の声にその思いを確かに感じ取り、ウネも僅かに笑みを彼女へ返した。

 

「……ところでウネさん、本当にお強くて……私、戦闘中だというのに見惚れそうになってしまいました」

 

「え? あ、えっと……」

 

 急に何か妖しく雰囲気を変えたフェイリスに必要以上に近づかれて、ウネは珍しく動揺したような反応を返す。

 フェイリスが何かアレなことは、ウネも本能的に察しているのだ。そして彼女の事を頼りにはしているが、同時に警戒している。だってウネ自身には、そんな趣味は無いのだし。

 

「うふふ、それにウネさんってばそんな大胆な格好で激しく動き回るんですもの……もう私……私……っ!」

 

「あ、あの……そうだ、私はローズの怪我を治しにいかないと……っ!」

 

 ジュラードがフェイリスから逃げたのと同じように、ウネも『ローズ』の名を使って彼女から逃げる。

 そうしてウネに逃げられて取り残されたフェイリスは、少し残念そうな表情で走り去るウネを見つめ、小さくこう呟いた。

 

「はぁ……皆さんローズさんが好きなのですね。……ふふっ、私も大好きですけれども」

 

 

 

「!?」

 

 急に物凄い悪寒がして、ローズは思わずジュラードを治癒していた手を止める。その彼女の様子に、ジュラードが顔を上げて「どうしたんだ?」と聞いた。

 

「もしかして、何かまた倒れそうなのか……?」

 

「え? あ、いや、大丈夫だ。そうじゃなくて、なんか今凄い嫌な予感と言うか、妙な気配を感じて……」

 

 言いながらローズがジュラードの治療を再開させようとすると、ウネが彼女の元へ避難……いや、やって来る。

 

「ローズ、ジュラードを治したらあなたを私が治すわ」

 

「え? あ、ありがとう。……っていうかウネ、なんか顔色悪くないか? お前も怪我したのか?」

 

「いえ、私は怪我はしていない。……いいの、この顔色は気にしないで」

 

「?」

 

 ウネの様子に首を傾げつつ、とりあえずローズはジュラードの傷を治し終える。

 軽い怪我ではなかったのでやや時間がかかったが、しかし治癒を最も得意とするローズに治してもらったので、彼の怪我は傷跡も無く綺麗に癒された。

 ローズが「よし、これで大丈夫かな」と言って治療の手を止め、彼女はそれを合図に立ち上がったジュラードに「大丈夫そうか?」と問う。

 

「……あぁ、特に違和感も無い」

 

 腕を軽く回してそう答えたジュラードに、ローズは「よかった」と微笑む。ジュラードも「ありがとう」と彼女に礼を返した。そして彼はうさこをウネから受け取る。

 

「それじゃ、ローズ。あなたは私が治すわ」

 

 うさこをジュラードに預けたウネがそうローズに声をかけると、マヤが心配そうな表情で「お願いね」と彼女に言った。

 

「ローズの綺麗な体に傷が残ったらと思うと……あぁ、そんなの耐えられないっ! キズモノなローズなんて!」

 

「……悪いけど、長く旅してる体だから結構傷だらけだぞ? キズモノじゃないけど、綺麗でもないし」


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