古代竜狩り 7
そして襲い掛かってきたウォーバードに向けて、遠距離攻撃が可能なウネがまず矢を一本放つ。続けて連続の銃声。フェイリスも銃を放ち、ジュラードたちを獲物として降りてきたウォーバードの内、先行してきた二匹がそれぞれウネとフェイリスの正確無比な攻撃を受けて、耳を劈く鳴き声と共に闇色の羽を派手に散らして地に落ちた。
残るウォーバードは1、2、3……6匹。音を消して近付いて集団で襲い掛かってくるのが特徴の魔鳥なので、先制で二匹落としてもまだ数が多い。そしてウォーバードは、ウネたちの次の射撃攻撃を警戒してか飛行の軌道を直線から変則的なものへ変え、猛スピードでジュラードたちに迫った。
「きゅいぃ~!」
ウォーバードが迫り、ジュラードの頭の上に乗っかっていたうさこが、悲鳴をあげながら素早く地面に下りて、安全な場所へと避難する。そしてジュラードはうさこが居なくなり、身軽になったと同時に一匹の魔鳥に狙われた。
鳥、と言えば小鳥の愛らしいのを一般的に想像するが、そんな愛らしいものとは正反対の凶暴な巨体が、凶悪な嘴を槍のように突きつけて落下してくる。そのままジュラードを突き殺そうと、ウォーバードは風を切り直線に落ちる。
「っ……」
鷹の目のような鋭い真紅の眼光を見てしまい僅かに怯んだジュラードだが、それでも何とか強襲に体を反応させる。大剣の刃で胸や首などの急所をガードし、ウォーバードはガードされた部分を避けて嘴を突き刺した。
鋭い痛みが腕に走り、周囲に漆黒の羽根が舞う。
「くっ……!」
体の反応が追いつかない速さで攻撃をしてくるウォーバードに、ジュラードは咄嗟には相手に急所を外させることしか出来なかったのだ。ジュラードを攻撃したウォーバードは再び天高く舞い、ジュラードの左腕は敗れた服の下から抉られたような傷と鮮血が生々しく覗いていた。
冒険者用に強化繊維で作られた長外套を易々と貫通する魔鳥の鋭い嘴は、完全に刃と同じ凶器だ。そしてそのスピードは、普通の動体視力と反射神経では反応することもままならない。
簡単に肉を抉る凶器と超速度を武器とするウォーバードは、例えれば空を飛ぶ暗殺集団だった。
『クアアアァアァァアァッ!』
甲高く一鳴きし、空を一周旋回したウォーバードが、再びジュラードをターゲットに急降下を始める。背後でうさこがジュラードを心配するように鳴いたが、それも耳に入らない焦りの中で、ジュラードは左腕の痛みを無視して剣を握り直した。
だがやはり、深く肉を抉られた痛みで集中できない。剣先がぶれ、猛スピードで迫り来るウォーバードの、その速さに反応できない。死が間近で、自分を招く気配がした。
連続した発砲音と共に、目の前で漆黒の羽根が花弁のように舞い上がる。
「!?」
ジュラードを突き殺そうとしていたウォーバードが、その直前で急停止する。いや、違う。鮮血を散らすように羽根を撒き散らし、その場に落ちたのだ。
なぜ、と考える暇は無いし、必要も無かった。少なくともそれをジュラードは、ローズたちと旅する間に学習した。それは一人だった頃は気づけなかったことだ。
今の自分には多く仲間がいる。だから『何故』と疑問に思う必要は無い。きっとその疑問の答えは、自分を助けてくれる仲間だろうから。
「フンッ!」
地に落ちてもがくウォーバードに、駆けたジュラードは止めの一閃を打ち下ろす。左腕を庇いながらも体重をかけて大剣を振り下ろし、襲撃者の息の根を止める。
黒い刃に胴を貫かれたウォーバードは、濁った絶命の叫びを短く発して動かなくなった。
「はぁ……」
一先ず一匹をし止め、そのことに安堵の息を吐く。同時に強烈な痛みを自覚し、ジュラードは剣をウォーバードに突き刺したまま僅かに膝を折る。
そんな彼に別のウォーバードが狙いを定めて急降下してくる。だがジュラードはそれにまだ気づかない。ジュラードがその危機に気づいたのは、それを知らせるうさこの鳴き声が耳に入ってからだった。
「きゅいいぃ!」
「!?」
迫り来る魔物の殺意も同時に感じ、ジュラードは顔を上げる。だが反応は間に合わない。超速で獲物を狩る魔鳥に対処するには、あらかじめその行動を予測するくらいの余裕が無ければ反応すらままならないのだ。
風を切って残酷な凶器の嘴が、ジュラードを貫こうとする瞬間、それより刹那速く黒い影がジュラードの前に出てウォーバードを蹴り飛ばした。
『ギュアアァッ!』
目視も危ういスピードで迫っていたウォーバードを、ギリギリのタイミングでかつ正確に狙 い蹴り飛ばしてジュラードを救ったのは、先ほども彼を援護射撃で助けたフェイリスだった。
彼女は敵がジュラードに迫りすぎていた為に、彼に流れ弾が当る危険性を考慮して、今回は銃ではなく自らの体を張って彼を助けたようだった。
そしてそのまま彼女は、地に転がったウォーバードに追撃をかける。彼女は自動装填式の拳銃二丁の照準をウォーバードに合わせ、至近距離から引き金を連続して引いた。
ジュラードの位置からは無表情に銃を撃ちまくるフェイリスの横顔が見えて、その恐ろしい姿にジュラードは助けられた感謝よりもちょっとした恐怖を彼女に感じてしまう。
一見して美人で色気ある女性でしかない彼女は、確かに怖いくらいに強く頼もしい存在だった。
やがてウォーバードが動かなくなると、フェイリスは銃を下ろして小さく息を吐く。そうして彼女は視線をジュラードに移した。
「……ジュラードさん、大丈夫ですか?」
真剣に自分を心配する眼差しを自分に向けて問うフェイリスに、しかしジュラードは先ほどの彼女の姿が怖くて曖昧にしか返事が出来ない。
「あ、え、あぁ……」
せっかく自分を助けてくれた恩人だというのに、ジュラードは彼女のせいで軽く女性恐怖症になりそうだった。
そんなことを知ってか知らずか、フェイリスは小さく微笑んでから周囲を見渡す。そして「他も皆様が片付けてくださいましたね」と言い、彼は怯えるジュラードに近づいた。
「腕を怪我なされたようですね。見せていただけますか?」
「え、あ、いや……大丈夫だ、こういうのはローズが何とかしてくれるし……」
完全にフェイリスを恐ろしい人と脳が認識してしまった為に、ジュラードは助けてくれたフェイリスに感謝はしつつも、逃げるように後退って彼女から離れる。そして彼は戦闘を終えたローズの元に走った。




