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神化論 after  作者: ユズリ
古代竜狩り
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古代竜狩り 1

 自分が孤児院を離れて、この場所に移って一体何日が過ぎたのだろう。寂しさが募るばかりなので数を数えることは、もうだいぶ前に止めた。

 病院に移ってから幸いな事に、自分の体調が急速に悪化していくような兆候は無い。だがそれは大切な”家族”と離れてクラス日々の辛さの代償で、自分にはどちらも同じくらいに辛いものだった。

 しかし今もきっと、兄や彼に協力して自分を助けようとしてくれている。知らない土地を駆け巡り、情報を集めて自分の為にこの病気を治す方法を探してくれている。

 そんな彼らの行動を知っているから、自分が泣き言を言ってはいけないとリリンは、泣きそうになる自分の心に繰り返し『お兄ちゃんたちと一緒に、私も頑張ろう』という言葉を聞かせた。

 

 昼食後の時間、少し散歩に出ようとリリンが病院敷地内の中庭へ出てみると、そこのベンチで俯き座る幼い少年の姿を見つける。

 リリンが病院に来てたいぶ日が経ったが、その少年の姿を見たのは今日が初めてで、人恋しかった彼女は年が近そうなその少年に一目で興味を持った。

 元々人見知りの兄とは正反対に社交的で他人に声をかけることを躊躇わない彼女は、迷わず少年に近づいて彼に声をかける。

 

「こんにちは」

 

「……え?」

 

 ベンチに座って悲しそうな顔をしていた少年は、突然リリンに声をかけられてひどく驚いた表情で顔を上げた。

 少年は驚いた表情からリリンをやや警戒するような眼差しで見たが、しかしリリンは気にせずに彼にこう言葉を続ける。

 

「ねぇ、私リリンって言うの。そこ、隣に座ってもいい?」

 

「え……あ……」

 

 少年は迷うような素振りを見せつつも、「いいよ」と小さく呟いてベンチの右端に移動する。リリンは彼が空けてくれたベンチの左側に腰を下ろし、戸惑う表情で自分を見てくる少年にまた声をかけた。

 

「それで、君はなんていう名前なの? よかったら教えてほしいんだけど」

 

「えと、僕は……レインだよ」

 

 鳶色の髪の毛と瞳の少年は、そう小さな声で自分の名をリリンに名乗る。そしてリリンは目を合わせていた彼の、その瞳の中に異質なものを見つけて、今度は彼女が驚いたように目を丸くした。

 

「あ、ゲシュ!」

 

「!?」

 

 鳶色の瞳の中にある瞳孔の細さに気づき、リリンは思わず彼の正体を声に出してしまう。すると途端にレインは泣きそうな顔で、その瞳を隠すようにまた俯いてしまった。

 そのレインの様子を見て、リリンは慌ててこう告げる。

 

「ごめんね、いきなりゲシュなんて言って。でも大丈夫だよ、私ゲシュ嫌いじゃないから」

 

 リリンがそう彼を安心させるように微笑んで言うと、レインはまた驚いたように顔を上げて目を丸くする。

 そして彼はリリンを興味深そうに見つめながら、「どうして?」と彼女に聞いた。そしてリリンは笑顔のまま答える。

 

「だって私もゲシュだからね! ゲシュなのにゲシュ嫌いって、それって変でしょう?」

 

「え?」

 

 レインの顔がさらに驚きの感情を宿し、リリンはそんな彼を見ながら「だから大丈夫だよ」と言った。

 

「ほ、本当にゲシュなの……?」

 

「本当だよ。私にはお兄ちゃんがいるけど、お兄ちゃんもそうなんだよ」

 

 リリンの言葉を聞き、レインの表情が少し変わる。彼は少しだけ力を抜いた表情となって、「そうなんだ」とリリンに返した。

 

「レイン君はここで何してたの?」

 

 リリンがそう問うと、レインはまた小さく俯く。そして彼はこうか細く答えた。

 

「お父さんのこと、待ってるの」

 

「お父さん?」

 

 リリンが不思議そうに聞き返すと、レインはこくりと小さく頷く。

 

「お母さんの病気のことで、今お医者さんとお母さんとお話してるから……」

 

「お母さん、病気なんだね……」

 

 リリンが少しだけ遠慮した声で「お母さん、早くよくなるといいね」というと、レインは何故かひどく落ち込んだ表情となる。そして彼は「良くならないよ」とリリンに言った。

 

「え?」

 

「……僕、知ってるんだ。お母さんの病気は治らない……お父さんたちは『大丈夫』って言うけど、治らないんだ……」

 

 今にも泣きそうな声でそう答えたレインに、リリンの目が迷いに揺れながらも問いを向ける。

 

「お母さん、どんな病気なの?」

 

 するとレインはこうリリンに返事をした。

 

「禍憑きっていうの……そうお父さんたち、言ってた」

 

「!?」

 

 レインのその言葉に、リリンは一瞬どう反応していいのかわからずに沈黙する。その彼女の複雑な心境を知らないままに、レインは俯いた様子で言葉を続けた。

 

「その病気になるとね、治らないんだって……お医者さんが言ってるの、僕こっそり聞いちゃった……」

 

「……」

 

 呟くレインの目から、ついに小さく涙が零れる。少年はそれを手で拭いながら、「お母さん、死んじゃうのかな」と呟いた。

 

「……ううん、そんなことないよ」

 

「え?」

 

 どう言葉を返せばいいのか迷っていたリリンの口が、しかしやがて自然とそう否定を言う。彼女は驚いたように顔を上げたレインに、もう一度「そんなことない」と言った。

 一度口を開いてしまえば、続く言葉を紡ぐのは容易だった。

 

「禍憑きはね、今は治らない病気かもだよ。でもね、私のお兄ちゃんがその病気を治す方法を今探しに行ってるの」

 

「……そう、なの?」

 

 茫然とした様子で首を傾げて返事をするレインに、リリンは力強い眼差しで「うん」と頷く。

 

「だから大丈夫、お兄ちゃんは必ず病気を治す方法を見つけてくれるよ」

 

「でも……だけど、そんなのやっぱり信じられないよ……」

 

 再び眼差しを俯けたレインに、リリンは少し怒ったような声で「私はお兄ちゃんを信じるもの」と言った。

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