君を助けたいから 78
そしてユーリの案内でジューザスたちが洞窟の奥へ進むと、そのあまり深くは無い洞窟の再奥で、彼らは一際美しく儚い色に輝く花を見つける。淡い青に発光する光は幻を見ているかのような儚さで、しかし美しく凛と咲く花がそこにはあった。
そしてそれは一本や二本では無く、ゲツレンカの園の一部を侵食するように多くが束になって咲いている。ユーリはそれを指差し、ミュラに確認するようにこう聞いた。
「なぁオッサン、これグラスドールじゃねぇか?」
そう問うユーリがミュラに視線を向けると、ミュラは珍しく動揺したような表情を見せて、彼が指差す花を見つめていた。
そしてユーリは返事をしないミュラに、重ねてこう問いかける。
「おいおっさん、聞いてるか? これ、どうなんだ?」
「え、あ、あぁ……いや、悪い。確かにグラスドールに似てるな……いや、まさか本当にあるとは思わず驚いちまった……」
ミュラははっとした様子でそうユーリに返事を返すと、「とりあえず詳しく調べさせてくれ」とユーリに答える。
「調べるって?」
「家に持ち帰って調べさせてくれってことだよ。今はパッと見た感じでしか判断出来ねぇから、グラスドールの可能性があるとしか答えらんねぇ」
そう冷静な意見を答えるミュラだが、しかし内心では冷静ではいられない様子で、彼はもしかしたら見つかったかもしれない幻の花を見つめて驚きの表情を浮かべる。そうして屈んで花を見つめたまま、彼はぽつりとこう呟いた。
「でも可能性はあるっつか、高いな……すげぇ、早速家に持って帰って調べよう」
彼のその言葉にユーリとジューザスは顔を見合わせる。そして二人はそれぞれにこう返事した。
「そうだな。早くグラスドール見つけて帰んねぇと、ジュラードに怒られちまうからな。調べてくれ、おっさん」
「あぁ、頼むよミュラ。判定に関しては君が頼りだ」
二人のその言葉に答える代わりに、ミュラは二人に「それじゃこれ採取するの手伝え」と言う。そうして彼らはグラスドールと思わしき植物の採取を始めた。
イレーヌ山で入手した花をミュラの家に持ち帰った一行は、その後花を知り合いの研究室に持って行って詳しく調べると言うミュラと共に、研究 室のある町へと向かった。
そして研究室で花が調査されて四日ほど経ち、町の宿に宿泊しているユーリたちの元にミュラから結果の報告が来る。彼らが研究室で調べた結果、ユーリたちがイレーヌ山で見つけた植物は……
「おぉ、マジで!? あれやっぱグラスドールだったん!?」
「あぁ、そういう結論が出た」
宿でミュラの報告を聞き、ユーリは嬉しそうに「やったじゃん」と言う。隣でジューザスも笑顔で、「これで私たちの最低限しなきゃいけない仕事はクリア出来たね」と言った。
「あぁ、これでジュラードに怒られずに済むよな」
「ユーリさんったら……ジュラードは怒らないと思いますよ」
ユーリの冗談なのか本気なのかよくわからない言葉に、アゲハがそう苦笑しながら言葉を返す。そして彼女の後ろで、すっかり体力も回復して元気になっていたアーリィが「本当によかった」と呟いた。
「それじゃ、後は花を持って帰るだけだね、とりあえずは」
「おぉ。一応あの場所は今後の研究や繁殖保護の為に立ち入り規制されるが、事情も説明しといたし持って帰った分の花はお前らのもんだ」
ジューザスの言葉にミュラはそう返事をして、彼は「お前らも頑張れな」と言う。
「正直見つかるとは思ってなかったけど、しかしお前らに付き合ってよかったよ、こっちも」
「そりゃ俺らも同じだぜ。見つけなきゃヤバイんだけど、ぶっちゃけあるとは思ってなかった部分もあるからなー」
ユーリがそうミュラに言葉を返すと、ミュラは笑って「運がよかったのかもな」と言った。
「運か……それもあるだろうね。でもそれよりもっと、見つけなきゃいけないって気持ちの方が強かったから、その願いの想いが届いたのかもね」
ジューザスがそう呟くように言うと、アーリィが不思議そうな顔で「届いたって、誰に?」と聞く。ジューザスは微笑んで、「マナを司るこの世界の神様に、かな」と答えた。
「……それってウィッチ?」
「だってグラスドールはマナで生まれて、マナで育つ花だからね」
首を傾げるアーリィにそうジューザスは笑って答え、そして彼はミュラに向き直る。
「ミュラ、協力してくれてありがとう。私たちはこの後早速戻って、薬を作る準備を続けるよ」
ジューザスがそう言って彼に握手を求めると、ミュラはその大きくがっしりとした手でその手を握り返して「おぉ」と返事をした。
「俺もグラスドールの発見でちょっと忙しくなるかもな。ま、互いに頑張ろうぜ」
そう言って太い唇を笑みに歪めたミュラは、ジューザスと手を離しながら「あ、そうだ」とユーリを見る。ユーリは不思議そうな顔で彼を見返した。
「なんだよおっさん、俺とも握手したいとか?」
「いや、そうじゃなくて……お前は約束を忘れんなよ」
ミュラの妙な一言に、ユーリは本気で不思議そうな顔をしながら「約束ってなんだ?」と聞く。そして自分で聞いた直後、彼はこの男と無責任な約束をしていたことを即座に思い出した。
「あ、もしかしてアレ? 嫁?」
「おぉ、それだよ」
ミュラが神妙に頷くと、途端にユーリの表情が気まずそうに変わる。だが彼はその気まずい表情を一瞬で消し、『どうする気なんだろう』と心配するジューザスを横目にこうミュラに返した。
「任せろ。あー……そのうちお前のところにあいつ派遣するから!」
「そうか。じゃあチェリーパイ焼いて待ってるか」
ミュラのその乙女な発言にユーリは「あぁ、待ってろ」と言う。その適当極まりない彼の態度に、ジューザスは『間違いなく約束守らないな』と思った。
「さ、ジューザス! 店戻る準備しようぜ! って言うかしてくれ!」
「ちょ、また面倒なことを私に押し付ける気かい?」
笑顔で向き直ったユーリの要求にジューザスは苦い顔をし、ユーリはそれに「冗談だよ、俺らも準備するって」と言った。
「わっ、やっと戻れるんですね! でも、他の皆さんは大丈夫なんでしょうかね」
アゲハが喜びと不安を半々にしてそう言うと、アーリィが「多分、大丈夫だよ」と言う。
「ジュラードたちも、あとエルミラたちもきっとそれぞれに上手くやってると思う」
「ですよね! うん、私も信じてますよ!」
彼女たちのその言葉を後ろで聞きながら、ユーリやジューザスもそれを信じてアル・アジフへと戻ろうと思った。
【君を助けたいから・了】




