君を助けたいから 68
「そうですか?」
さすがにそれはアーリィが大きすぎるので無理な解釈だと、ユーリは首を横に振った。
しかしアゲハの言葉で、ユーリはふと考える。
「……」
「? どうしたんだい、ユーリ」
再びアーリィたちの様子を眺めたユーリだが、今度は先ほどまでの殺意的な感情は無く、何かを考えるような眼差しで二人を見ているユーリに、ジューザスは不思議そうに声をかけた。
するとユーリは「あぁ」と曖昧な返事を返し、こう続ける。
「そういやアーリィは親っていないんだなって思って……」
「……あぁ、そうだね」
アーリィの出生を知る彼らなので、ユーリの一言で言わんとすることは直ぐに共通の理解が出来る。
「マヤが親代わりみたいなもんだったんかな」
「まぁ、そうかもしれないけど……でもやっぱりそれは違うのかもね。マヤはあくまで彼女を傍にいてくれる存在として作ったのだから」
ジューザスの言葉を聞き、ユーリは何となく寂しい気持ちになりながら「そうか」と返した。
自分も決して両親で恵まれた存在では無いが、しかしまったくそれがいないというアーリィの境遇を改めて考えてしまうと、色々思うことがある。
例えば彼女は今まで親子という存在を、どのような目で見てどう思っていたのだろうか、とか。
「……彼女は大人の形で生まれた存在だからね。だけど子どものように成長する。ウィッチとマヤの作ったコアは設計者も限度がわからないほどに進化する設計らしいから、大人だけど中身はいつまでも成長するという意味では子どもなのかもね」
ジューザスはそう言って笑い、「時々彼女がとても幼く感じるときがあるけど、そういう理由なのかな」と呟く。
「あ、悪い意味ではないけどね」
「……んにゃ、それは俺も思うときがあるけどさ。確かにそう考えると、まだ子どもなんかなーって」
そう考えると、出会った当初のアーリィは随分と無理をして大人なふりをしていたのかもしれないと気づく。いや、大人であると振る舞い、一人で何でも出来るのだと示す事で他者を遠ざけようとしていたのだろうか。
きっとそういう無理がストレスとなってコアに蓄積され、自我の崩壊の要因の一つになっていたのだと思うと悲しい気持ちを感じた。
「なんにせよ、アーリィは親を知らないんだよな……俺もそんなに両親の思い出があるわけでもねぇし、どーしようかねー」
「え、何がだい?」
独り言のように呟いたユーリの言葉が気になり、ジューザスはそう問いを向ける。するとユーリはジューザスを見て、こう言った。
「ん、ほら……子どもとか」
「……え!?」
ジューザスが急に大声を出すので、アーリィたちが何事かと一瞬視線を向けるが、二人は直ぐに木の実取りに意識を戻した。
そしてジューザスが驚いたのと同じくらい、アゲハも目を丸くして「赤ちゃん出来たんですか?」と小声でユーリに聞く。
「いや、出来ないけど」
「だ、だよね……たしか、アンゲリクスは……そうなんだよね」
一応アンゲリクスの生態についてそれなりに詳しいジューザスなので、ユーリの返事に納得した表情でそう言葉を返した。
そしてユーリは続ける。
「あぁ、今のアーリィの肉体じゃ絶対無理らしいな。そもそもそういうのを想定してねぇらしいし。妊娠出来る体を新たに作ればまぁ不可能では無いかもってマヤは言ってたけど、あー……正常な子どもを妊娠出来る保障は無いとも言ってたからな……それに体を作り直すなんて、なんかそーいうの俺はヤだし」
ユーリはそう言ってから、「だから子どもってのは、養子とかそういう話だよ」と二人に告げた。
「あぁ、なるほど。って事は養子もらう気なのかい?」
ジューザスがそう問うと、ユーリは「ちょっと真面目に考えてる」と呟く。
「いやぁ、やっぱ二人で子ども育てたいじゃん」
ちょっと照れながらそう答えたユーリに、ジューザスは笑みを返した。
「そうだね、可愛いよ子どもって」
「うるせーハゲ、親バカ自慢すんな」
「は、ハゲってなに! 私まったくハゲてないよ! むしろふさふさ! よく見て!」
ジューザスの訴えはやはり無視して、ユーリは「だから養子が一番いいかなぁって考えてたんだ」と言った。
「町に教会があって、そこで暮らしてる子どもたちとアーリィもなんか仲良くなってるらしいし」
「あぁ、教会か……孤児院と同じように親のいない子どもを保護しているんだよね」
「そーそー。で、アーリィと店休みの時はよく行ってるんだよ。なんかアーリィ、ミレイがああなってから小さい子の面倒見るのが好きになったみたいで。だから子どもいたら喜ぶっつか、アーリィももっと成長できるんかなって……」
そして子どもたちと触れ合うのが楽しそうなアーリィを見ていて、ユーリは自然とそういうことを意識して考えるようになっていた。
「ま、でもなんにせよ、そういう話も全部コレが終わってからだな」
ユーリはそう言って、もう一度アーリィに視線を向ける。
今はこの”禍憑き”を治す薬の入手に集中しなくてはならない。楽しそうなアーリィの笑顔を見つめながら、ユーリはそう静かに思った。
「終わったら……アーリィにそれを話してみるのかい?」
「……そのつもりだな」
「そうか。……いいんじゃないかい? 私は賛成するよ。むしろその選択肢を考えたことが凄いと思う……真面目にそういうことを考えられるということは、君も十分に親になる資格があると思うよ。何も心配要らないさ」
ジューザスのその言葉に、ユーリは少し驚いたような顔で彼に視線を向け、そして直ぐに目を逸らす。そうして彼はどこか照れた様子で「そりゃどーも」と言った。