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神化論 after  作者: ユズリ
君を助けたいから
297/494

君を助けたいから 66

『ギャオオォンッ!』

 

 アゲハの投げた謎の玉は、地面や魔獣に当って小さく爆発する。そうして何匹かを怯ませたり、あるいは負傷させて動けなくしてから、アゲハは残った魔獣に意識を集中させた。

 まず腕を狙って噛み付いてきた魔獣を必要最低限の身のこなしで避け、空を噛んだ魔獣の喉へ短刀を突き立てる。そのまま刃を下から上へと走らせ、血飛沫をまともに浴びながら一匹を仕留めた。

 そのまま冷静に次に倒すべき敵を見極め、彼女は魔獣の赤黒い血に濡れた短刀を、怯んだ姿勢から攻撃に再び転じた魔獣へ向けた。

 

「やあっ!」

 

 小さくそう声をあげ、飛び掛りながら噛み付いてきた魔獣の口に、切れ味鋭い短刀の刃を突き立てる。月光の如く輝く白銀の刃が美しい”イザヨイツキ”が、魔獣の命を浴びてさらに朱に染まった。

 そうして二匹仕留めると、アゲハは腰に吊ったベルトの鞘からもう一本の短刀を引き抜く。それは魔獣の血を浴びて赤黒く刀身を染めた”イザヨイツキ”とは別の、すでに妖しい赤に刀身を染めている妖刀”ヤシャ”。

 二本の武器を構え持った彼女は、最初に爆発を浴びせて弱った魔獣たちを一気に殲滅しにかかった。

 

「はああぁ……っ」

 

 素早い身のこなしが特徴の彼女は、魔獣に攻撃する暇を与えずに二本の短刀を振るい、華麗に舞うように魔獣を次々屍へと変える。その戦い方は同じリーチの短い武器で素早く急所を狙って敵を仕留めるユーリとよく似ており、彼女の様子を見ていたアーリィは、無意識に彼女に信頼するユーリの面影を重ねて彼女なら大丈夫だと判断した。

 そうして安心してしまったのがいけなかったのだろう。優勢なアゲハの戦う様子に安堵した隙を突き、アーリィを狙い魔獣が唸り声をあげて迫った。

 

『ギャシャアアアァアァッ!』

 

「あ……っ」

 

 その恐ろしい獣の雄叫びにアーリィが気づいた時、アゲハの脇を抜けて来た魔獣は、すでに彼女の直ぐ傍まで迫っていた。

 

「! アーリィさんっ!」

 

 アゲハもアーリィの危機に気づくが、しかし彼女も別の魔獣に囲まれていて、今すぐには助けにはいけない。

 そしてアゲハの目の前で、立ち尽くすアーリィに魔獣が食らいかかろうとした時だった。

 

『ギャアアアアァアァッ!』

 

「!?」

 

 アーリィに襲い掛かろうとした魔獣の顔に、銀色の刃が深く突き刺さる。どこからか投げられたそれは投擲用の短剣で、驚きに目を見開いたアーリィにはそれに見覚えがあった。

 

「アレって……」

 

 短剣を受けて地に転がった魔獣を見ながらアーリィがそう呟くと、短剣が飛んできた方向から「アーリィ!」と彼女を呼ぶ声が聞えた。

 そして声のした方を振り返り、アーリィは驚いたようにまた目を丸くする。

 

「ユーリ!」

 

「よかった……ギリギリ間に合ったな」

 

 短剣に見覚えがあったとおり、それを投げてアーリィを救ったのはユーリだったらしく、彼はホッと安堵した様子でアーリィの元へと駆けて来た。

 そしてその後ろにはジューザスとミュラもいて、彼らははぐれたアーリィたちを捜してここまで来たらしい。

 

「ユーリ、あの……」

 

 アーリィが何かを彼に言いかけると、ユーリは「話は後だ!」と言って、短剣を手にしたままアゲハが相手している残りの魔獣へ向けて駆けていく。

 そうしてユーリたちの合流もあり、魔獣に襲われたアゲハとアーリィは、無事魔獣を全て返り討ちにして事なきを得たのだった。

 

 

 

 魔獣を倒し終えて喜ばしい戦闘終了後だったが、アゲハとアーリィの表情は何故か浮かばれないものだった。

 二人はひどく反省した様子で、何か言いたそうなユーリを見る。一方ユーリは短剣を仕舞い、うな垂れる二人の様子を無言で見詰めた。

 やがてアーリィが恐る恐るといった様子で口を開く 。

 

「あの、ユーリごめんなさい……こうなったのは私がいけない……」

 

 アーリィがそう言うと、すかさずアゲハが「ダメですよ、アーリィさんだけのせいじゃないんですから!」と言った。

 

「二人で怒られようって言ったじゃないですか! 抜け駆けはダメです!」

 

「でも……やっぱ私の方が悪いし……」

 

「それじゃあ私の方も悪いですって!」

 

「ううん、怒られるなら私の方が怒られるべきだよ……」

 

「いや、別に俺は怒る気はねぇけどな」

 

 妙な揉め方をしている二人にユーリはそう声をかけ、彼は小さく溜息を吐く。

 アーリィは彼の言葉に「そうなの?」と、不安げな様子のまま返事をした。

 

「あぁ、二人とも反省してるみてぇだしな。それよりマジで気をつけろよ? 今回はたまたま見つけられたからいいものの……」

 

 ユーリは呆れた表情から少し真剣な眼差しになり、「取り返しのつかない怪我でもしたらって、すっげー不安だったんだからな」と二人に言った。

 そして二人はそれを聞き、またしょんぼりと揃ってうな垂れる。

 

「ごめんなさい……」

 

「すみません本当に! うっかり小さい動物を追いかけて、その……以後気をつけます!」

 

 本当に二人が反省しているのはよくわかっていたので、ユーリは肩を落とす二人に表情を緩めて「そんなに落ち込まなくてもいいって」と声をかけた。

 

「今回はアゲハが派手に火薬とか使って暴れたから二人を見つけやすかったし……それよかアーリィ、怪我大丈夫か?」

 

 ユーリはそう言って心配した表情でアーリィを見やる。彼女が足を怪我していることは先ほどアゲハに聞いたので、彼は「歩けねぇくらいの怪我か?」と聞いた。

 

「ううん……アゲハが手当てしてくれたから、歩けない事は無い」

 

 アーリィがそう答えると、ユーリは「無理すんなよ」と、心配した表情は変えなかった。

 

「足治るまで負ぶってやるか?」

 

「い、いいよ! そんなのユーリ、大変だし……」



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