君を助けたいから 65
そしてアゲハはアーリィが座る岩に、彼女の隣に腰掛ける。
「はぁ……それにしてもユーリさんたち心配しちゃってますよね。怒られたらやだなぁ……」
「ごめんね……」
何となく呟いたアゲハの言葉に、アーリィがまたシュンとした様子で謝る。それを聞き、アゲハは慌てて顔を上げて「あわわ、違います!」と言った。
「だからアーリィさんは悪くないですって!」
「でも怒られるかも……」
「お、怒られたら仕方ないです……うん、二人で怒られましょう!」
アゲハはアーリィに微笑んで、「それなら怖くないですし!」と言う。それを聞き、アーリィもその笑顔につられたように笑顔を返した。
「うん……アゲハと怒られるなら怖くない」
「えへへ、ですよね~。一人じゃ怖いけど、二人なら平気な気がしますよね」
「うん……でもそうじゃなくて……怖くないのは、アゲハと一緒だから……う~んと……そうだ、私はアゲハのこと好きなのかも!」
「へ? ……えぇ!」
急に『好き』と言われ、アゲハはひどく驚いた顔でアーリィを見る。そして「どうしたの?」と首を傾げるアーリィに、アゲハは少し赤面しながらこう返した。
「だ、だめですよアーリィさん! アーリィさんにはユーリさんがいるし、そもそも私は女ですし!」
「? 女性を好きになるのはいけないことなの?」
「い、いけなくないですけど……あわわ、どうしよう……」
困り果てるアゲハを眺め、ア ーリィはやはり首を傾げる。そんなアーリィにアゲハは『あわあわ』しながらこう説明した。
「でもやっぱり浮気はダメですよぉ~」
「浮気? それは確かにいけないと思うけど」
「ですよね! だからダメですよ、私を好きってのは。だってアーリィさんはユーリさんが好きなんですよね?」
「それはそうだけど……あの、ユーリを好きなのとアゲハを好きなのは違う意味な気がする……」
考える様子でそう呟いたアーリィに、アゲハはハッとした顔で「あ、そういうことか!」と言う。
「なんだ、びっくりしちゃいましたよ~」
「……よくわからないけど、驚かせたなら謝る。ごめんね」
謝ったアーリィに、アゲハはひどく照れた様子を見せながら「いえ、謝るのは私のほうですよ」と返した。
「すっごい勘違いしちゃって恥ずかしいです! えへへ、でも普通に考えたらそうですよね!」
「普通……?」
「あ、いえいえ、なんでもないです! それよりも……あの、嬉しいですよ!」
「何が?」
笑顔で照れるアゲハの様子に、アーリィは不思議そうにそう問いを返す。
アゲハは照れた笑みをそのままに、アーリィにこう言葉を返した。
「好きって言ってもらえたことですよ! あ、勿論私もアーリィさんのことは大好きですよ!」
アゲハはにこにこと笑顔のまま、「だから尚更嬉しいです」とアーリィに言った。
「好きな人に『好き』って言ってもらえるのは嬉しいですよね」
「……おぉ、確かに」
何か学んだ風に頷いたアーリィは、顔を上げてこう続けた。
「ユーリに言う好きとは違う気がするけど……でも、アゲハも好き。アゲハに好きって言ってもらえるのも、ユーリと同じくらい嬉しい……」
また一つ人の心に気づいたアーリィは、「この感情は正しいのかな?」とアゲハに聞いた。そしてアゲハは「正しいと思いますよ」と笑顔のまま頷く。
「そう……よかった」
アゲハの返事を聞き、アーリィもまた笑顔を彼女へ返した。
そうして二人がどこかほのぼのした雰囲気で休んでいると、その休息を邪魔するように不審な気配が近づいてくる。
「!」
それにいち早く気づいたのはアゲハで、彼女は険しい表情で周囲を見渡しながらアーリィにこう言った。
「獣の匂い……魔獣が近くにいるみたいです」
「……魔物……」
アーリィも警戒するように周囲に視線をめぐらせ、アゲハは短刀を鞘から抜いて立ち上がる。そうして彼女はアーリィに「アーリィさんは下がっててください」と声をかけた。
「どうやら囲まれてるみたいです……今度こそ逃げるのは無理みたいなので」
「だったら尚更……私も戦うよ……」
今の自分がまともな戦力になるとは、アーリィ自身思ってはいない。しかしそれでもアゲハ一人に任せることは出来ず、不安を隠す声でそう返したアーリィに、アゲハはほんの僅か顔を彼女に向けて「いいえ、大丈夫です」と答えた。
そうして再び前を向き、アゲハは自分に言い聞かせるように呟く。
「うん、大丈夫。アーリィさんは私が守る!」
そうして自分を勇気付け、アゲハはどこか不敵な笑みを顔に浮かべる。直後に小型の狼のような風貌の魔獣たちが数匹、身を隠していた木々から飛び出して、アゲハたちに一斉に襲い掛かってきた。
『ガアアァアァァっ!』
殺気だった雄叫びを上げ、魔獣は四肢で地を蹴りアゲハたちに急接近する。それに対してアゲハは、まず懐に隠し持っていた白い布の巻かれた小さな玉状のものを投げつけた。
至近距離で炸裂する破裂音と小さな爆風に、思わずアーリィは目をつぶって耳を塞ぐ。