君を助けたいから 62
山道へと入り、ユーリたちとりあえず道なりに先へ進む。
まだ比較的緩やかで進みやすい場所なので足取りは順調では合ったが、しかしこの山には凶暴な魔物も多いとの話なので、彼らはそれに警戒しながら目的の場所目指して足を進めた。
十分ほど歩き、すでに少し息が上がっている様子のアーリィが、ふと独り言のようにこんな事を呟く。
「やっぱりこの山も……なんかマナ、歪んでる……」
「おぉ、やっぱわかるんか?」
アーリィの呟きを聞き、ユーリが彼女にそう声をかける。するとアーリィは「うん」と頷いた。
「はっきりとはわかんないけど……ここ、マナ濃いよ。だけどそのマナは……普通じゃない感じ」
「ジュラードが居たって言う孤児院周辺が確か異常なマナが満ちていたんだよね? ここのマナもそんな感じだということかな?」
ジューザスがそうユーリに続いてアーリィに話しかけると、アーリィは少し考えるように沈黙してから「かもしれない」と答えた。
「似てるから、多分同じだと思う……ただ、やっぱりはっきりとはわからない……なんか馴染み無いものだからかな……上手く感じることが出来ない」
「う~ん……まぁとにかく、やっぱり気をつけて進んだほうがいいと言うことかな」
アーリィの言葉を聞き、ジューザスがそう結論の言葉を出す。
異常なマナが満ちている場所は総じて新たな魔物が出没しているので、やはりこの場所もその危険性が高いということだろう。
「気を付けて、か……確かに俺も気をつけるけども、そんときになったら俺はあんたらに頼るからな」
ミュラが頭を掻きながらそう言い、それに対してユーリが「わかってるよ」と返す。
「まったく筋肉の無駄遣いなおっさんだぜ。ぜってー熊とタイマン張れそうなのに戦えないとか……」
そんな事をぼやきながらユーリが先頭を進み、他の者たちも彼に続いて山道を上へと登っていった。
しかしユーリたちの心配を余所に、イレーヌ山を登り始めて一時間が経過しても、彼らが魔物と出くわす気配は無かった。
その為彼らは気づけば警戒する事を忘れ、まだそこまで険しい道では無いということもあり、ややのんびりとした気持ちで山を登っていった。
「わぁ、ねぇねぇアーリィさん見てください! これ、綺麗な花ですよ!」
「……ホントだ」
「紫がかった青って綺麗ですね~。なんていう花でしょう? あ、ミュラさんに聞けばいいんだ」
「おぉ、それはアスタリクだな。あんま見かけねぇ珍しい花だ。確かに綺麗だが、根に毒があるんだよな。食わなきゃ問題無いけど、一応気をつけた方がいいぞ」
「え、そうなんですか! むむっ、綺麗なものにはなんとかってヤツですね……怖い怖い。あ、こっちにも何か綺麗な花が咲いてます!」
「……アゲハは元気だな、ホント」
道端に咲く綺麗な花や珍しい植物を見つけては何か声を上げてそっちに駆け寄るアゲハの姿を見て、ユーリがそうぼつりと呟く。
アゲハも決して体力があるわけではないが、彼女はそれ以上に元気とやる気が有り余っているので、足場の悪い山道を登っているわりに疲れた様子を見せていなかった。
逆にアーリィはアゲハに声をかけられて返事はするものの、元々虚ろな目がもっと虚ろで、もうすでにバテ気味である。それを見て、ユーリは一旦足を止めた。
「あー……ちょっとここで休憩でもすっか?」
丁度一休み出来そうな平らな場所を直ぐ傍に見つけたので、そうユーリは皆に声をかける。するとそれぞれにこう返事が返ってきた。
「そうだね、一旦休んでもいいんじゃないかな」
「えっと、私はどっちでもいいですよ!」
「あぁ、俺もだ」
「……休みたい」
「んじゃ休憩だな」
主にアーリィの切実な一言で、皆はここら辺で一旦休憩を取る事にした。
傍の岩場近くに荷物を置き、それぞれに腰を下ろしたりしながらユーリたちはつかの間の休息を取る。
「なぁおっさん、花が咲いてる場所まであとどれくらいだと思う?」
岩場に腰掛けながらそうミュラに聞いたユーリに、ミュラは「そうだな」と言って、考えてからこう返事を返した。
「俺もここへは直接来た事はねぇからな……だが知り合いの話だと、普通のペースなら半日でたどり着けるって聞いたけどな」
「なるほどな……俺らはわりとゆっくり進んでるから、それ以上かかるよな」
ミュラの言葉を聞き、ユーリは「つーことは、順調に行っても今日中に町に戻るのは無理っぽいな」と呟く。そして嫌そうな顔をした。
「あぁ……また夜の山ん中で気味悪ぃ野宿か……」
「大丈夫だよユーリ、お化けなんて出ないさ。前だって出なかっただろう?」
何かを心配して不安げな顔をするユーリに、ジューザスがそう声をかける。するとユーリは怒った表情となり、「だからお化けとか言うな!」とジューザスに言った。
「だ、大体俺はそんなもん心配してねぇんだから」
「……本当かな、それ」
強がるユーリにジューザスは疑わしげな視線を向け、そんな彼にユーリは「ホントだっつの」と睨みながら返す。そしてミュラがそんな二人をどこか呆れた様子で見ていると、彼らから少し離れた場所でアゲハの元気な声が響いてきた。
「アーリィさーん、見てくださいよ! あそこに何か可愛い動物がいますよ!」
ユーリたちが休んでいるところから少し離れた林で、また何か見つけたらしいアゲハが、そんな声を上げながら背の高い木の上を指差す。
彼女に呼ばれたアーリィは、水の入った水筒を持ったまま立ち上がって、彼女の傍に寄った。
「何がいるの?」
アーリィはそう問いながらアゲハの隣に立ち、アゲハは「ほら、あそこですよ!」と木の枝をアーリィに見るように指す。そしてアーリィが彼女の示す方へ視線を向けると、そこには蒼いくりくりとした目に茶色の毛がふさふさ生えた小さな生き物がいた。
「おぉ……なにあれ……可愛い系」
疲れていたアーリィの目が、何か可愛いものを見つけて輝く。
アーリィはもう一度アゲハに「あの可愛いのは何?」と聞いた。
「う~ん……そうですね……リス、でしょうか? でも実物見たこと無いし、違うかも……」
「ふぅん……捕まえられる?」
「え? ど、どうでしょうね……すばしっこそうですし、私は捕まえられるかは……網とかあればいけるかな?」
「飼える的なやつ?」
「え~っと……私はわからないですけど、もしかしたらまぁ……どこかには飼ってる人もいるのかも……?」
何か小動物に興味津々のアーリィの質問に、アゲハは一生懸命考えながらそう答えを返していく。やがてアーリィは「なるほど」と呟き、そしてこうアゲハに言った。
「もっと近くであの可愛いの、見たい……」
「あぁ、そうですね! もう少し近くで見たら、一体何の動物なのかもっと詳しくわかるかもですね!」