君を助けたいから 60
「今日もずっと移動しっぱなしだったんだぜ? じいさんの癖に元気すぎだろ、無理すんなって」
「だ、だから私はじいさんじゃないよ! 止めてくれよ、私のこと老人扱いするの!」
何か年齢にコンプレックスを持っているらしいジューザスが、珍しく本気で怒ったようにユーリに訴える。しかし怒っても所詮ジューザスなので、ユーリは知らん顔でそれを無視した。
「うぅ……ユーリ、私は結構本気で止めてって言ってるんだよ……その、まだ私若いし……いや、若い……とはまぁはっきりは言えないかもだけど、気持ち的には若いというか……見た目だってそこまで老けてないはずだし……」
「それより行ってくるなら止めねぇけど、気をつけろよ」
何かまだぶつぶつ言うジューザスに、ユーリはそう声をかける。ジューザスは怒るのを止めて、「何がだい?」と不思議そうな顔をした。
「いや……トラブル起こさねぇよーにって意味だよ」
ジューザスがゲシュであることを気にするユーリは、そう彼に伝える。するとジューザスは笑って「あぁ、それは大丈夫」と答えた。
「私が何年この姿で生きてきたと思うんだい? そこはバレないよう、上手くやるさ」
「……ま、何でもいいけどな。俺は疲れてるからパス、行かねぇぞ」
ユーリもさほどジューザスを心配はしてないようで、彼の言葉にそう返事を返す。そして彼はこう言葉を続けた。
「でも情報って何をだ?」
「それは勿論山にツキヨバナが咲いているかとか、魔物は居るかとか……そういう話だよ」
「あぁ、なるほどね」
確かにそれは事前に情報収集しておいたほうがいいなと、ユーリはジューザスの返事を聞いて納得した。
そしてユーリが納得すると、「俺も行くぞ」とミュラが言う。
「おっさんもか?」
「あぁ、暇だしな。いいだろ?」
ミュラがそう問いながらジューザスに視線を向けると、ジューザスは笑って「勿論」と答えた。
早速夜の町に情報を集めに出たジューザスとミュラ、それと宿の廊下で会って「自分も行きます!」と行ってついてきたアゲハの三人は、人通りがまばらな通りの道を進みながら情報が聞けそうな場所を探して歩いていた。
「夜でも人が集まるところといえば酒場だけど……」
いつもどおり顔をフードで覆って隠したジューザスが、皆を先導するように歩きながらそう呟く。
「でもアゲハを連れてあまり治安の良く無さそうなところには行きたくないしね」
「え、大丈夫ですよジューザスさん! 私、大人ですから!」
「あぁ、うん……そうだけどね」
アゲハの返事にジューザスは苦笑しながら頷き、彼は「じゃあ酒場に行ってみようか」と言う。
「俺はかまわねぇぞ」
「私もです!」
それぞれの返事を聞き、ジューザスは「それじゃ行こう」と彼らに言葉を返した。
そうしてジューザスたちは夜でも賑やかな通りを見つけてそちらへ進み、やがて目的の酒場へとたどり着く。
小さな町ではあったが、列車の駅のある場所なのでジューザスたち同様の旅人も多く滞在し、そんな彼らで酒場は常に賑わっている様子だった。
「あぁ、やっぱりたくさん人がいるね」
酒場の戸をくぐり、大勢の人と喧騒が広がる店内を見渡してジューザスがそう呟く。酒場なので雰囲気は良いものではないが、しかし賑やかな場所は好きなようで、彼の隣でアゲハが目を輝かせていた。
「ジューザスさん、何を聞くんですか? 私、聞いてきますよ!」
そう言って張り切る視線を送ってくるアゲハにジューザスはまた苦笑し、彼は「そう焦る事は無いよ」と彼女に返す。
「せっかくだからまずは席に着いて何か飲もう。あぁ、私が奢るよ。ミュラ、あなたの分もね」
ジューザスのその言葉に、ミュラは「悪いな」と笑顔を返す。そうして彼らは空いていたカウンター席に腰を下ろした。
「じゃあ私は……とりあえず麦酒を頼むよ」
ジューザスは席に着き、この酒場の主人の男にそう注文を頼む。酒場の主人というよりはどこかの屋敷の老執事という雰囲気の男は、「かしこまりました」と柔らかな声で返事を返した。
「他の皆様は何を?」
男がミュラやアゲハに視線を向けて問い、アゲハは少し恥ずかしそうに「私、ジュースがいいんですけど」と言う。すると男はにっこり微笑み、「オレンジジュースとミルクがございますよ」と彼女に言った。
「あ、じゃあオレンジジュースください!」
「かしこまりました。ではそちらの方は何を?」
男が今度はミュラに視線を向けて問うと、ミュラは意外にも「じゃあ俺はミルクでいい」と答える。それを聞き、ジューザスが「えっ」と小さく声をあげた。
「かしこまりました。少々お待ちください」
しかし主人の男は姿格好に似合わない注文をしたミュラに一切動揺せず、注文の品を準備し始める。アゲハでさえ「ミュラさん、お酒飲まないんですか?」と驚いているのに、さすが長年酒場を切り盛りしているであろう男はこれくらいのことでは驚かないようだった。
「なんか意外です……いえ、私もそんなお酒って飲める方じゃないからアレなんですけど……」
「ん? あぁ、飲まねぇなぁ……どっちかってと甘いもんが好きだからなぁ 」
アゲハの問いにそう答えるミュラに、それを聞いたジューザスは「なるほどね」と納得した。
そうして直ぐにそれぞれの前に、注文した飲み物が差し出される。ジューザスは早速酒盃を煽り、一息ついた。
「あの、ところでちょっと聞いてもいいだろうか」
「なんでしょう?」
一息つき、ジューザスは主人の男に声をかける。男が返事をすると、ジューザスは彼にこう聞いた。
「この町の近くにイレーヌ山という山があるけども、そこは今現在魔物が出たりするんだろうか?」
「あぁ、イレーヌ山でございますね。そうですね、ここ最近はあの山も魔物が多く出るようになったと聞きますよ」
男はそう答え、「特に最近は今まで見かけなかったような魔物が出るようになったという話もあります」と言葉を続ける。それを聞き、アゲハはジューザスに「それもやっぱりマナが関係した魔物ですかね」と小声で囁いた。
「そうだね、可能性は高いね。アーリィも、やっぱりこの地のマナは濃くて普通と少し違うと言っていたし」
「アーリィさんと言えば、アーリィさんはしばらく魔法使っちゃダメなんですよね。お休みしないとだから……ってことは、山に行って新しい魔物に遭遇したら、私たちだけでどうにか頑張らないと! ですねっ」
『頑張らないと』の部分に力を込めて言ったアゲハに、ジューザスも「そうだね」と返す。そして彼はミュラに話しかけた。
「ミュラは……どうする? どうやら山はまた危険そうだけど……安全のために、この町に残ってもらうという選択肢もあるけど」