君を助けたいから 47
ジューザスが自分のことでいっぱいいっぱいになった頃、前衛の防衛線をすり抜けた魔獣は、その後ろにいたアーリィたちを狙って襲い掛かる。
『グウゥルアァアァァァッ!』
『icEsEaIINstAlLatIOn.』
雄叫びと共に一直線にアーリィたちに向かって来た魔獣に、しかしアーリィは冷静に対処をする。
『自分の身とミュラを守る為ならば迷わず使え』と、そう命令された言葉どおりに、魔獣がジューザスの脇をすり抜けてきた時点でアーリィは迷い無く呪文詠唱を行っていた。
そして聞きなれない言葉を口にしたアーリィにミュラが注目した直後、アーリィたちの足元の広範囲に蒼い魔法陣が浮かび上がる。それにミュラが驚くと、さらに驚くべきことが彼の目の前で起こ った。
「なんだ……?」
足元に広がる魔法陣の輝きが消え、アーリィたちに襲い掛かってきた魔獣の足元が急速に凍りつく。身動きが取れなくなった魔獣は、戸惑うような唸り声をあげた。
『rOCkiCeMAsSShArpkiLlcoLD.』
魔獣の動きを止め、アーリィはさらに呪文を重ねる。
短く呟いた攻撃の意思は巨大な氷の刃と化し、魔獣の頭上に浮かび上がる。そして動きを封じられた魔獣目掛けて、その氷塊は鋭利な部分から落とされた。
「うわっ……」
氷塊に潰された魔獣を見て、思わずミュラは嫌そうな顔と共に声を発する。そうして彼は魔獣が倒されたことを確認し、アーリィに恐る恐る声をかけた。
「……今の、なんだ?」
そうミュラが問うと、 アーリィは真っ直ぐ前を向いたままでこう答える。
「今のことについての言い訳はユーリがするから、ユーリに聞いて」
「……あぁ、そういうことか」
先ほどのアーリィの不可解な呟きの意味をやっと理解し、ミュラは「了解」と素直にそう返事をした。
「はぁ……な、なんとか全部倒せましたね」
短刀を下ろし、疲れたような溜息と共にそうアゲハが言う。彼女は周囲を見渡し、「もう魔物、近くにはいないみたいです」と言った。
「そうみたいだね」
ジューザスも剣を下ろし、魔獣を全て始末し終えたことを確認しながらアゲハに言葉を返す。そしてユーリも短剣に付着した汚れを払い落としながら安全を確認し、彼はアーリィたちに近づ いた。
「アーリィ、大丈夫か? 怪我してねぇ?」
「うん、平気」
ユーリに声をかけられ、アーリィは頷く。そして「彼も大丈夫」と、アーリィはミュラを指差した。
「あぁ、おっさんも無事か」
「おかげさまでな」
ついでといったふうに聞いてきたユーリにミュラも軽く返事を返し、彼はそれより何より聞きたい事を早速ユーリに問う。
「で、言い訳とやらを是非聞きてぇんだが」
「は? 言い訳?」
ミュラの問いに怪訝な表情を返したユーリだったが、アーリィの困ったような表情と周囲の魔法使用の痕跡に気づいて「あぁ、言い訳ね」と言った。
「おぉ。なんだこの子、どういう手品だよあれは」
「あぁ、まさにその通りなんだ。手品なんだよ、すげぇだろ」
真顔で適当な言い訳を返すユーリに、ミュラは「真面目に答えろよ」とツッコむ。だがユーリは面倒くさそうな様子で「手品なんだって」と、適当な言い訳を繰り返した。
「手品なわけねぇだろ。……そういやどうもお嬢さん、誰かに似てる気がするな……」
「まぁいいじゃん、細かいことはどーでも。それより問題は魔物が出ねぇはずの場所に出たことだろ」
アーリィに『言い訳は任せろ!』的な事を言っておきながら、かなり適当な誤魔化し方で押し切ったユーリは、まだ納得いかなそうな顔をしているミュラに「どういうことだ?」と疑問を向けた。
「ここらは魔物、いねぇんだろ?」
問われたミュラは考える表情となり、「そのはずなんだがな」とユーリに答える。直後にジューザスたちも彼らの元に集まってきた。そうして彼らも会話に加わる。
「もしかしたら、ここも環境が変化しているのかもね」
「あー……やっぱそれが原因か?」
変わり始めている世界で、その変化は良い方向にも悪い方向にも進み始めている。それを再認識し、ユーリは「しょうがねぇか」と呟いた。
「まぁいいや。魔物はあったら倒せばいいし」
「でも、魔物が出るってことは花が無い可能性があるんじゃ……」
ユーリの発言の後にアゲハが心配そうな眼差しでそう言うと、ミュラは「それは確かにな」と彼女の発言に頷いた。
「花が咲いてる水辺が荒らされてるかもしれねぇから な」
「うげ……じゃあここまで来たの、無駄足かよ」
嫌そうな顔をするユーリに、ミュラは「行ってみるしかねぇな」と返事をする。
「どうなってるかは俺もわからねぇからな。無駄かどうか、今はまだなんとも言えねぇよ」
「……そうだね。とりあえずは行ってみよう」
ミュラの言葉にジューザスが硬い表情で頷く。
ここまで来たのだから行ってみようと、そう彼らはこれからの行動を決めて、今度は魔物を警戒しながら樹海をまた進み始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ジュラードやユーリたちがそれぞれに目的のものを求めて移動を続けている頃、エルミラたちもまた『マナ水』の製作の為に研究所を出て移動を続けていた。
マチルダの運転で自走車を走らせ、パンテラ湖へ向けて進むエルミラたちは今、丁度パンテラ湖まで半分ほどの距離を進んだ町に来ていた。
そして彼らは今日はもう直ぐ日が暮れるということで、一旦自走車を止めてて町で一晩体を休めることにする。
「おぉ、ここで中間地点か! う~ん、早いね! しかも魔物にも出くわさないし、移動は乗ってるだけでいいし、楽に来れてラッキー!」
自走車を降りながらエルミラがそう言い、彼の後に続いて車を降りたイリスが疲れた様子で彼にこう声をかける。
「よくそんな元気でいられるね……ずっと座りっぱなしで腰痛いし、動かないから逆に疲れるんだけど……」
「あぁ、それはだってオレ、レイリスと違ってまだ若……おぶっ」
エルミラの話を蹴りで強制的に黙らせたイリスは、エンジンを切って自走車にロックをして降りてきたマチルダに今度は声をかけた。
「それ、そこに置いといて大丈夫なのかな?」
「鍵かけましたし、防犯機能はいくつも設けてありますし、大丈夫でしょう」
心配するイリスにマチルダは「そもそもこんなでかい鉄の塊、普通の人はどうこう出来ませんよ」と笑う。
「そう? 分解とかされないかなぁ……」
「いやいや、大丈夫ですよ。そういうことされれば、ブザー鳴りますし」
心配するイリスにマチルダは「それより宿を見つけてとらないと」言い、イリスは「あぁ、そうだね」と頷いた。




