君を助けたいから 44
「この辺は水綺麗じゃないんですか?」
アゲハが問うと、ミュラは「最近はな」と返事した。
「そうなんですかぁ……」
「まぁでもこの国内で咲いてる場所なら何箇所か知ってる。そこのマナが回復してるかまではわかんねぇけど、お前らはそれを知ってるんだから、その情報と照らし合わせてけばもしかしたら条件が合う場所が見つかるかもしんねぇ」
ミュラがそうアゲハを励ますように言うと、アゲハは笑顔になって「そうですね!」と頷いた。
「それじゃあその、咲いてる場所ってのを教えてもらっていいだろうか」
「あぁ、ツキヨバナが咲いてんのは……」
ジューザスに問われ、ミュラは花の咲く場所を彼らに伝える。そしてその情報を参考にして、ユーリたちはグラスドールがある可能性の高い場所を探ることにしたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
長距離移動の鉄道に乗り、メリア・モリへ向かう前に中間地点に存在する大きな都市に着いたジュラードたちは、そこで鉄道を下りて休憩と情報収集等を行う事にした。
彼らは巨大な建築物が連なる大都市の中を、街中を歩くヒューマンやゲシュ、あるいは小数だが魔族に混じって進みながら、まずは今日体を休める宿を探した。
「えぇっと、宿は……」
きょろきょろと辺りを見渡しながら宿を探すローズに、隣でフェイリスが「案内します、こちらです」と目抜き通りの方向を示しながら声をかける。それを聞き、ローズは驚いた様子で「わかるのか?」と彼女に聞いた。
「はい。この場所の地理は事前に調べておきましたので」
「事前にって……いつの間に……」
ジュラードも驚いた様子でそう呟くと、フェイリスは妖しく微笑んで「列車の中で」と答える。それを聞き、やっぱり出来る秘書はなんか凄いなぁとローズは感心した。
「なんか……フェイリスさんがいると凄く心強いな」
「そうねぇ……あなたを含めてボケボケしてる人の方が多いうちのメンバーの中じゃ、今は一番頼りになるかもねぇ」
ローズの呟きにマヤが真顔で正直な意見を返すと、ローズは「ボケボケ?!」と大袈裟に反応を返す。
ショックを受けたように「私はまだボケてないぞ」と訴えるローズを無視して、マヤはフェイリスに「それじゃ案内お願い、フェイリス」と言った。
「はい、案内いたします」
笑顔で頷き、フェイリスは皆を案内するように先導して歩き出す。ジュラードたちはそんな彼女の後に続き、人ごみの中を進んだ。
フェイリスの案内ですんなり宿を見つけてチェックインしたジュラードたちは、その後は自由行動となる。明日にはもうここを離れてメリア・モリへ向かうので、皆それぞれに体を休めたり街へ出たりと、出発に向けての準備を主に行動することにした。
「よいしょっと……」
ローズ、ウネ、そしてフェイリスが泊まる部屋の中に、フェイリスの発したどこか彼女には似合わない台詞と共に重い金属の塊が置かれる音が響く。
その音を聞き、ローズは思わずフェイリスの方を見た。
「……ずっと気になってたんだが、その荷物は何なんだ?」
フェイリスが今重そうに置いた丈夫そうな袋入りの荷物を指差し、ローズは彼女にそう問う。するとマヤやウネも同じ疑問を抱いていたのか、フェイリスへ顔を向けて注目した。
ローズに問われ、フェイリスは妖しく微笑みながら「これですか?」と袋を指差す。
「あぁ……何かすごく重そうなものが入ってるのはわかるんだが……」
「うん、アタシもそれ気になってた」
「……私も」
この場の全員にそう注目されて、フェイリスは苦笑しながら「たいした物ではないですけど」と答える。
「でも重そうだから私が持つって言っても、ジュラードが持つって言っても断ってたし……何か大切なものなのかと」
「そうですね、私の武器が入っていますので大切と言えば大切でしょうか。でも持っていただくのをお断り致しましたのは、ご迷惑をおかけするわけにはいかなかったからです」
フェイリスがそう答えると、マヤが「それ、武器なの?」と驚いたように問う。フェイリスは「はい」と頷いた。
「ドラゴンと戦うということで、お役に立てるよう少々大きめの武器を持ってきました」
「少々大きめ……ねぇ」
「でもフェイリスは確か普段は拳銃を持っているんだよな?」
「はい。普段は拳銃を武器として使っていますが、ドラゴン相手にはそれでは太刀打ち出来ないと思いまして……これを」
フェイリスはそう言うとにっこり微笑み、「現役時代の武器を持ってきました」と言った。
「現役時代って……それって……」
フェイリスのその一言で袋の中身を正しく理解したローズは、「でも袋に入るんだな、そういう武器って」と少し驚いたように呟いた。
「えぇ、今は運びやすいように分解してありますので」
「そうか……使うときは組み立てないといけないのか」
「えぇ。でも大丈夫です、すぐ組み立てられますので」
そう笑顔で答えるフェイリスを見ると、確かに彼女ならなんだかさっさと組み立てて使えるようにしてしまえそうだなぁと、ローズはそんなことを思った。
「へぇ……でも凄いわね、あなたってそういう武器が扱えるの ね」
マヤがそう感心したように言うと、フェイリスははにかんだ笑みを見せてこう答える。
「一応軍で指導されましたので一通りの武器は扱えます。得意なのは体術と射撃ですけど」
「ちなみにそれは何なの?」
ウネが興味深そうに袋の中身について問い、フェイリスは「携帯型の榴弾砲です」と答えた。
「それは……?」
「簡単に言うと、対象に火薬の弾を撃ち込む武器です。ちょっと大きくて重いのですが、一応持ち運びの出来る大きさに設定されているので一人でも扱える強力な武器なんですよ」
ウネは見えないからなのか、袋に近づいてその表面に触れて中のものの形を確かめようとする。
「何か金属質のもの……なるほど、これを組み立てるのね。何となくわかった」
ウネはそう言って頷き、そしてこう問いを続けた。
「でもさっきの話だと、これは組み立てたところで弾が無いと使えないもののようだけど」
「えぇ、榴弾が無いと使えませんね」
フェイリスは微笑んだままそう答え、ローズが「それはどこにあるんだ?」と聞く。聞いた直後に彼女は顔色を悪くさせた。
「え、まさかそんな危険なものもその袋の中に……?」
火薬入りの弾が無造作に袋に突っ込まれているのを想像し、ローズの顔が恐怖に引きつる。が、フェイリスはそれを見て笑い、「大丈夫です」と答えた。
「弾は持ってきていません。現地調達しようと思っているので」
「あぁ、そうなのか……」
フェイリスの返事を聞いて、ローズはホッとしたように胸を撫で下ろす。そして「ん? 現地?」と疑問の表情を浮かべた。




