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神化論 after  作者: ユズリ
君を助けたいから
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君を助けたいから 43

 ユーリが驚いたように目を丸くすると、ミュラは「確かそんなんだったぜ」と答える。

 

「おお、っつーことはあれじゃん、その元々の植物をマナが回復してる土地に植えればグラスドールになるんじゃね?!」

 

 ユーリが閃いた様子でそう言うと、ミュラは「理論的にはそれでもいいんだろうけど」と返した。

 

「んだよ、なんか問題あるのか?」

 

「いや、お前らが問題ねぇならそれでもいいと思うけど……ぶっちゃけ今から元の植物を植えてグラスドールになるの待つと、何年もかかるぞ。いつグラスドールになるかの保障もねぇし」

 

「ぐっ……そ、そうか……」

 

 まさか脳みそまで筋肉で出来てそうな男に冷静に意見を述べられ、ユーリはやや悔しそうな様子を見せる。しかしこのミュラという男、どうも見た目どおりの野生男では無いと、今の冷静な指摘以外にもそれを示唆する出来事がちらほらとあった。

 例えば一人話を聞いてない一名が、今夢中になって食べてるものとか。

 

「……美味しかった。ごちそうさまでした」

 

 話を聞いていない約一名であるアーリィは、そう言って静かに持っていたフォークをテーブルの上に置く。そして彼女はもう一度「美味しかった」と言った。

 

「おぉ、美味かったか。そりゃよかった」

 

「うん」

 

 フォークを置いたアーリィに、ミュラが嬉しそうな笑顔でそう声をかける。そしてアーリィの何か物足りなさそうな視線に気づいた彼は、「もっと食うか?」と聞いた。

 

「食べる……っ!」

 

「よし、じゃあちょっと待ってろ。今直ぐ俺特性のチェリーパイ持って来てやるからな~」

 

 『その言葉を待っていた』といわんばかりに目が輝いたアーリィに、ミュラは嬉しそうな様子でそそくさと席を立つ。そして彼はお手製のチェリーパイを取りに、台所へと消えた。

 そしてミュラがいなくなった部屋で、ユーリが思わずぽつりと呟く。

 

「あのおっさん、あの見た目でお菓子作りが趣味とか世の中おかしいだろ……間違ってるって」

 

 部屋に案内されて『茶と茶菓子出すか』と言ったミュラが皆に振舞ったのは、お手製だという見た目可愛らしくて甘い香りが美味しそうなチェリーパイだった。

 そしてその見た目どおり甘くて美味しいチェリーパイを作ったのが、ガチで熊とタメ張って勝負できそうな見た目のおっさんだという事実が、ユーリにはどうも納得できないらしい。

 

「なんなのあの中身メルヘンなオッサン。あの見た目で植物学者とか言うし嫁欲しいとか言うしお菓子作っちゃうし……なんか怖い! ふつーああいうのはもっとがさつで昼間から酒飲んでるか、山に篭って熊相手に修行してるかのどっちかだろ」

 

「ユーリ、失礼なこと言っちゃダメだって」

 

 ユーリの正直すぎる言葉に、ジューザスは苦笑しながらそう言葉を返す。しかし確かに見た目と中身がややズレてる人だよな……とはジューザスも思っていたり。

 

「でもあの人のパイ美味しい……」

 

「ですよね! 私もそう思いましたよ! カナリティアさんのお菓子も好きですけど、ミュラさんのも美味しいです! でも美味しいお菓子って食べ過ぎて体重が……いいなぁアーリィさんは食べても太らなくて」

 

「そう? でも太らないけど、痩せもしないよ、私……肉体はこれで完成してるものだから、髪の毛くらいは伸びるけどそれ以外は変化しにくいらしい……マヤがそう言ってた」

 

「それでもいいですよー。つまりその状態をずっとキープ出来るってことじゃないですか、羨ましいなぁ……」

 

「……私は太ってでも胸が欲しいけど……」

 

 アーリィとアゲハもユーリとは別の意味で素直な言葉を言っていると、ミュラがチェリーパイを切り分けて部屋に戻ってくる。ミュラはアーリィの分のついでに、おそらくアゲハのと思われる分も切り分けて持ってきていた。

 

「お待たせしたな! どんどん食ってくれよなー!」

 

「うん、どんどん食べる……っ!」

 

「わぁ、私の分まで! ……うぅ、太っちゃうなぁ……でも美味しいから食べます! いただきます!」

 

 自分の作ったお菓子を『美味しい』と食べてくれるアーリィたちに機嫌をよくしたらしいミュラは、笑顔で彼女らの前にチェリーパイを置く。それをユーリとジューザスが見てると、ミュラは「お前らもおかわりか?」と聞いてきた。

 

「いや、結構だよ、私は。もうお腹いっぱいだから」

 

「……俺も。つか、俺甘ぇのそんな好きじゃねぇし……こーいうの、ローズだったら喜んで食っただろうけど」

 

「なんだよ、つまらねぇやつらだな。俺のチェリーパイは特に美味いって評判なんだぞ」

 

 どこで評判なのかさっぱりわからないが、とくに知りたくも無い情報だなと思いながら、ユーリは投げやりに「そうかよ」と返事をする。そして彼は「さっきの話に戻していいか?」と彼に聞いた。

 

「あぁ、グラスドールだったな」

 

「そーそー。なんか別の植物がそれになるんだってのはわかったぜ」

 

 ユーリはそう言った後、「で、その先どうすりゃいいんだよ」と呟く。ミュラは考えるように沈黙した後、しばらくしてこう口を開いた。

 

「ま、一番手に入れる可能性高い方法は、グラスドールに変化する植物が生えてて、かつマナが濃くなってる場所を探してみることじゃねぇかな」

 

「やっぱりそうか……それが今一番可能性が高い方法だよね」

 

 ミュラの意見にジューザスが同意し、ユーリは「んじゃ、それしかねぇならその方法で探そうぜ」と言う。そしてユーリはミュラにこう言った。

 

「んじゃオッサン、そのグラスドールになるって植物教えてくれ」

 

「……教えるのはかまわんが、調べなきゃわかんねぇぞ」

 

「そうだったな。じゃあオッサン、さっさと調べてくれよ」

 

 ミュラはユーリの頼み方に何か文句を言いたそうな顔をしたが、「ちょっと待ってろ」と言って部屋を出て行く。

 そうして数分後、アーリィたちがチェリーパイのおかわりを食べ終わった後にミュラは古い本を手に持ちながら部屋へと戻ってきた。

 

 

「待たせたな。植物は調べられたぜ」

 

 ミュラはそう言うと持ってきた本をテーブルの上に置き、あるページを開いてみせる。ユーリたちが彼の開いたページを覗き込むと、そこにはイラスト付きで『ツキヨバナ』という植物が載っていた。

 

「これか?」

 

「そ、これだな」

 

 ユーリが問い、ミュラがそう頷く。そして彼は説明を続けた。

 

「ツキヨバナは夜に花を咲かせる花で、綺麗な水辺の近くに自生してる花だ。グラスドールはこの花が変化して生まれる花のようだな」

 

「確かにグラスドールに見た目がよく似た植物だね、これ」

 

 本に描かれたイラストを見ながら、ジューザスがそう呟く。そして彼はミュラに聞くように口を開いた。

 

「この花が咲いている場所を知っているだろうか?」


「うん? そうだなぁ……この近くにはもう咲いてねぇんじゃねぇか? 水が綺麗な場所じゃなきゃ咲かねぇ花だからな」

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