君を助けたいから 41
「もし壊したら、うちのスポンサー下りちゃうなんてことがあるかもしれないんですから」
「はいはい、超大事に扱うよ」
フェリード的に世界で一番信用ならないエルミラの返事を聞いて、彼は不安げな表情で「大丈夫かな、ホントに……」と呟く。すると彼らの元に、自走車を見にイリスとラプラがやって来た。
「あ、すごい、何コレかっこいいねー」
「あ、レイリスにラプラじゃん」
イリスが自走車を見ながら声を上げ、エルミラは何故か胸を張って「ね、かっこいいでしょ?」と自慢をする。そして彼はイリスにこう話しかけた。
「この男気が感じられる色とかデザインとかサイコーにかっこいいよね!」
「そうだね。黒くてつやつやしてて大きい……」
「……ちょっとレイリス、急に卑猥なセクハラ発言するのやめてよね。リアクションに困るから」
「いや、普通の感想のつもりだったんだけど。なんで私の発言をすぐそういう方向に捉えるかなぁ……」
心外だといわんばかりの顔をするイリスに、エルミラは「レイリスだから仕方ないじゃん」と返す。そして彼はラプラにも話しかけた。
「ねぇ、ラプラもかっこいいと思わない?」
「そうですね……少々無骨な印象も感じられますが、イリスが良いと言うのならば私もそれを全面的に支持しますよ」
相変わらずイリス至上主義なラプラの返事に、彼の胡散臭い笑顔を見ながらエルミラは「あぁ、そう」と呆れたように言葉を返す。そして彼はふと、ラプラの顔をまじまじ見てこんな事を言った。
「あれ、ラプラ顔色悪いよ? どっか具合悪いの?」
「おや、そうですか?」
エルミラの言葉にラプラは笑顔を湛えたまま、「気のせいでしょう」と返す。それを聞き、エルミラは「ならいいんだけど」と呟いた。
「明日にはパンテラ湖へ向けて出発するんだから、体調は万全にしとかないといけないとオレ思うよ」
「えぇ、そうですね。大丈夫ですよ、私はね」
エルミラの言葉にそう返事を返し、ラプラはイリスに「イリスは大丈夫ですか?」と声をかける。
「あぁ、うん……私は別に……問題無いよ」
「そうですか。では明日は問題なく出発出来そうですね」
ラプラがそう言い、エルミラは「じゃあ後は運転手とやらを待ちつつ、出発の準備の再確認でもしとくか」と言う。それにイリスとラプラも頷き、彼らは明日の出発へ向けてそれぞれに行動することにした。
午後になり、自走車を貸してくれたヒューメーンから運転をしてくれるという人物が派遣されて研究所にやって来る。
研究所の職員にその人物が訪れた事を知らされ、エルミラたちが会いに行くと、そこには金髪碧眼の細身で長身な男が立っていた。
「あ、あの人かな?」
エルミラがそう言って男に駆け寄ると、男は研究所の女性に話しかけている最中で、エルミラの接近はガン無視して女性とこんな会話をしていた。
「あぁ、リンメイさん、あなたはいつ見てもお美しい……この艶めく黒髪に東方の神秘を感じさせる絹のような肌……僕の心を惑わすいけない人だ」
「マチルダさん、毎回来るたびにそんなこと言いますけど、私人妻なんですからからかわないでください」
「あぁ、そうでしたね。愛する伴侶を持つものを惑わす僕の方が確かに罪深い……失礼致しました」
「いいえ、マチルダさんのその女性を見れば口説く癖は病気だと思ってるので気にしないですよ」
「ははは、これは手厳しい」
爽やかに笑う金髪男に、今のやり取りをガン見していたエルミラは「なにこの人」とドン引きした様子で呟く。彼と共に来ていたイリスも、「なんかまた濃いキャラが増えそうだよね」と呟いた。
「だね……ちょっとラプラと被るんじゃない? キャラ」
「そうだね……喋り方は被ってるかも」
「っていうかまた男って……オレらって女性分足りなく無い? なんかこれ、嫌がらせ?」
「かもね。いっそもうこの際うさこでもいいから、こっちにも女の子一人くらい欲しかったよね」
「ホントだよ、うさこ可愛いしうさこなら大歓迎だよ……はぁ、とりあえず声かけてみるか」
深い溜息を吐きながら、エルミラはマチルダと言う男にさらに近づいて声をかける。
「すみませーん!」
「ん? なんだい?」
マチルダはエルミラを見て、「新しい研究員さんかな?」と聞いた。
「初めまして、僕は……」
「あ、その前にオレ別に新入り研究員じゃないよ」
「あぁ、そうですか」
マチルダは爽やかに笑って「それは失礼」と言い、彼は上着のポケットから自身の名刺を取り出した。
「僕はこういうものです」
「あ、丁寧にどもです」
名刺を受け取り、エルミラはそれを見る。ついでにイリスも名刺を覗き込み、二人は揃って驚いた顔をした。
「え、マチルダ・ヒューメーンってもしかして、ヒューメーンの……」
「はい、現社長の息子が僕ですよ」
エルミラの問いにマチルダはそう笑顔で答え、続けてイリスが「まさかあなたが運転手……?」と聞いた。そしてその問いに、マチルダはやはり笑顔で頷く。
「はい、今回こちらに貸し出しする我が社の乗り物の運転を受け持つ為に来ました」
「えぇ、なんでお偉いさんっぽい人が自ら!?」
自分の言葉に驚くエルミラに、マチルダは「これを動かせる人が社内でも限られていて」と説明する。
「それであなたが……?」
「えぇ。何か不足の事態があった場合でも対処出来るようにと、僕が」
マチルダのその言葉に、エルミラは改めて名刺を見て「あ、技術師さんでもあるんだ」と呟く。マチルダは胸を張り、「そうなんです」と言った。
「僕の主な仕事は我が社の商品の宣伝ですが、現役技師でもあるんです。ヒューメーン家の跡取りたる者、それくらいの資格と技術は持っていないと失格なのでね」
「ほぉ~、すごいね」
「社長の息子ってのも以外と大変なんだね……」
マチルダの話を聞き、エルミラたちはそれぞれにそう感想を述べる。そしてエルミラは「あ、オレたちの紹介するね」とマチルダに言った。
「オレはエルミラ。今回訳あってパンテラ湖まで行かなきゃいけなくて、お宅の機械借りる事になった一人だよ」
「私はイリスです。私も彼……エルミラと同様、パンテラ湖まで行くメンバーの一人です。よろしくお願いします」
そうエルミラとイリスがそれぞれに自己紹介し、「よろしくお願いします」と丁寧に返すマチルダに、エルミラが「実はあと一人いるんだけど」と言う。