君を助けたいから 40
「あぁ、長く話をしてしまいましたね。えぇと……それでは荷物の検査をあちらでお願いします」
職員の男に促され、ジュラードたちは荷物を持って門近くの別の建物へと向かう。
そうして彼らは入念な荷物検査の後、二時間後にはやっと入国許可証を受け取ってメルドロキアへと入国した。
無事荷物検査も通ってメルドロキアへ短期滞在査証で入国したジュラードたちは、三ヶ月はメルドロキア内に居られると職員から話を聞いた。三ヶ月は目的とするドラゴンを探すには十分かどうか微妙な期間だったが、しかしこの場所でそれ以上時間をかけるつもりも無いのでジュラードたちはそれを了承した。
そうして入国した彼らはゆっくりしている余裕は無いので、早速目的とするメリア・モリ荒野を目指すことにする。彼らは直ぐに鉄道に乗り、メリア・モリへ行くための中間地点に存在する都市を目指した。
「しかし、確かにこの国はゲシュの人が多いな」
長距離鉄道内で、うさこを膝に抱えながらローズがそう呟く。
列車に乗る前に駅にたくさん居た人々の多くがゲシュで、そして彼らがそのことを隠すことなく堂々としている光景は珍しく、思わずローズたちの目を奪ったのだ。
「そうね……私と同じ魔族も見かけたわ。正直驚いた」
この国では顔を隠す必要がないので今は顔隠しのフードを外しているウネが、こちらも驚いた様子でローズの呟きに言葉を返す。自分と同じ魔族が、こちらの世界で堂々としていることが余程予想 外だったようだ。
「メルドロキアは、元は迫害で追われたゲシュの方が作られた自由と平等を掲げる国ですからね。しかし自由と平等は難しいようで……先ほど検問所の方が仰られていたように平等に反するほどヒューマンをかなり優遇していますし、ゲシュの人権の保障をする為には仕方ないという事で、自由どころか法律がかなり厳しくなっているようです。他の分野でも問題はあり……例えば産業では、輸入輸出等ではゲシュとの関わりを極端に嫌うところとは取引がなかなか出来なかったりで、内向きな産業形態にならざるを得なかったりという問題もあるとか……外と広く繋がる仕事が自由に出来ないという意味でも、自由が制限されていると言えるかも知れませんね」
フェイリスのその説明を聞き、ジュラードは「なんだか難しい話だな」と率直な感想を呟く。
「俺もこの国は自由なんだなって思ったけど……確かに入国からして厳しいもんな。あまり自由ってわけじゃないのか」
「自由っていうのは大概なにかルールがあって、それの元で保障されるものだからね。ルールの無い自由はただの無秩序、皆が求める自由とはかけ離れたものになるわ。で、平等はまぁそれぞれの考えに依存する部分が多いと思うけど……どっちも口でいうのは簡単だけど、それを広く長く維持していくのは難しいのよ」
無事入国できたので再び姿を現しているマヤは、ジュラードの呟きに対してそんな意見を口にする。いつもむちゃくちゃな意見を平然と言うマヤとは思えないその何かまともな意見に、ジュラードは一人静かに驚いた。
「……しかし、アレだな。そんな厳しい国で古代竜探ししていいのだろうか……」
ローズが不安げな表情をしながらそう呟くと、フェイリスは「それは大丈夫です」と笑顔で返事を返した。
「新薬開発の材料サンプル入手、とお伝えしてありますから。これは嘘ではありませんし」
「……微妙に嘘じゃないものね、確かに」
色々とギリギリの範囲で怪しまれない入国を果たした一行は、とりあえずこのまま長距離列車に揺られて目的地へ近づくように進むこととなる。
望むものがここに合って欲しい……と、不規則に揺れる車内で、ジュラードは流れる景色を窓の外に見ながら祈りを思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方マナ水をどうにかするとマヤ様に(忠誠を)誓ってしまったエルミラは、フェリードたちの協力のお陰で、やっと魔物を捕獲しに行ける所まで準備が整い始めていた。
「おぉ、これが噂の自走車だね! うん、なかなかメカメカしくてかっこいいじゃん」
研究所の倉庫横に置かれた鉄の塊……もとい、自走車を見て、エルミラがそう声を上げる。
研究所がスポンサーから借りてきた自走車は大型で、まだ試作品だという事が示されるペイントがされていたが、黒い塗装が艶めく姿はエルミラの言うとおりなかなかかっこいい感じのものだった。
エルミラの腰の下ほどまである四つのタイヤをまずは指差しながら、エルミラの隣に立っていたフェリードがこう説明する。
「えっと、なんでもこれは四つのタイヤが全部動力で動かされるのでパワーあるらしいですよ。舗装されてない道も、ある程度なら無理矢理突っ走れるそうです」
「ほうほう、素晴らしいね」
「で、燃料は後ろのタンクに入れてあるんで、自分で補充して進んでくださいだって。後ろのタンク分でパンテラ湖まではいけるけど、帰ってこれないと思うからそっちに燃料送っとくそうです」
「りょーかいりょーかい」
「あと、運転してくれる方は後ほどこっちに来るそうです」
「おっけーおっけー……え、そうなの?」
フェリードの説明に、すっかり自分が運転する気でいたエルミラが目を丸くする。
「オレに任せてくれてだいじょーぶなのに」
「その根拠の無い自信は一体どこから来るんですか……あなたに任せられないから、ヒューメーン社で運転手派遣してくれたんでしょ」
「なんだよー、オレこれ動かしてみたかったのにぃー」
ぶぅ……と子どものように頬を膨らませたエルミラに、フェリードは「とにかくコレ、絶対壊したりしないで下さいね」と声をかけた。




