君を助けたいから 38
ユーリの呟きにジューザスも同意したい気持ちを持ったが、しかし一応ここまで来たのでその労力を無駄にしたくないという考えもある。
ジューザスは苦い笑みを浮かべ、「どうにかならないかな」とミュラに言った。
「そこまでお金は出せないから、ちょっとした情報があったらでいいんだ。なんならえっと、この辺りで何か珍しい植物が見つかったとか程度の情報でもいいし……」
「って言われてもねー……こっちも研究にはそれなりに金と労力かけてるわけだし、情報をタダで教えてやるほどボランティア精神に溢れてるわけじゃねぇしー……」
ミュラが麦わら帽子の上から頭を掻きつつそう言うと、突然ユーリが何かを閃いた様子で「わかった」と言った。そしてユーリは真面目な顔でミュラを見て、こんな
「オッサン、あんたがそこまで言うならこっちも、今のあんたにとって金よりも価値のあるとっておきの対価を提供してやるよ」
「ん?」
ユーリのその言葉にミュラは勿論のこと、ジューザスたちも首を傾げる。するとユーリはミュラにこんな事を言った。
「あんたに嫁を紹介してやるぜ」
「ほう」
「え、ユーリ? 何それ、大丈夫なのかい?」
ユーリのまさかの提案に、絶賛嫁募集中のミュラは良さ気な反応を示すも、ジューザスは不安げな表情を浮かべる。そしてユーリの言葉に、アゲハは「わ、私は無理ですよ!」と怯えたように言った。
「大丈夫だアゲハ、お前をこの野生オッサンの生贄にしようだなんて俺は思っちゃいねぇよ」
「……まさかユーリ、私?」
ユーリがアゲハを否定したので、アーリィがちょっと不安げな様子となる。だが勿論彼は「アーリィは絶対どこにもやらん」と、これも否定した。
「え、ってことはユーリ……まさか生贄って……」
アゲハ、アーリィとユーリが否定したので、残るは自分だけじゃ……と、まさか過ぎる展開にジューザスの顔色が悪くなる。だがさすがにジューザスを生贄にするのは、相手がまず拒否するだろうと思うユーリは「お前なわけねぇだろ、馬鹿か」とジューザスに言った。
「だ、だよねぇ……あれ、じゃあ誰を生贄に?」
”自分の嫁候補=生贄”となっている事実が気になりつつも、ミュラも「誰だか知らねぇが、俺好みの人物なんだろうな?」とユーリに聞く。するとユーリはおもむろに荷物を漁り、中から一枚の写真を取り出した。
「大丈夫、かーなりハイスペックな嫁候補だから。今この場にはいねぇけど……こいつをあんたの嫁として後でちゃんと派遣するよ」
「んん?」
ユーリは取り出した写真をミュラに手渡し、ミュラは写真をじっと眺める。そして『一体誰を紹介したんだろう』と、気になったジューザスやアゲハもミュラと一緒になって写真を覗き込みながら眺めた。
写真を覗きこんだ直後、ジューザスとアゲハの表情が変わる。
「あれ、これって……え、ええぇ? ユーリ、君、これは……」
「ゆ、ユーリさん、まさか紹介するって人は……」
写真を見てユーリが誰を生贄に差し出したのか気づいた二人は、ユーリに揃って苦い表情を向けた。
ユーリが差し出した写真に写っていたのは、長い薄青色の髪が特徴的なあの人。
「これ、イリスだ……」
アーリィも好奇心で写真を覗きこみ、そう呟く。そう、ユーリが生贄に差し出したのはイリスだったらしい。つい最近の写真らしいそれには、撮影に気づいていなさそうな様子の彼が上に黒いシャツを羽織っただけの状態でベッドに座り、長い髪を左右に結ってる最中の姿が写っていた。
写真を見たジューザスが「いつの間にこんな写真撮ったの?」とユーリに問うと、ユーリは「フェイリスさんとこに撮影機あったから、ローズたちと暇な時にみんなの写真撮ってたんだよ」と答 えた。
「で、まぁその時に一応こいつの写真も何枚か……あ、勘違いするなよ! 別にこいつの写真を持ち歩く気持ち悪ぃ趣味が俺にあるわけじゃなく、これは商品だから」
「商品?」
「こいつの写真はラプラに高値で売りつける用だよ。いい小遣い稼ぎになるからさぁ~」
「……」
真顔で何か恐ろしいことを言ったユーリに、ジューザスは沈黙する。ちなみにユーリが小遣い稼ぎをしている事実はイリスも知らない。ユーリがイリスが警戒してない時を狙って盗撮していたからだ。ついでに一番高値で売れた写真が着替えの盗撮と寝顔だという恐ろしい事実も、当然知らされてはいなかった。
そしてイリスを嫌がらせの如く勝手に有効活用しまくっているユーリは、今回も存分に有効活用しようとミュラに向き直った。
「どうだ? こいつ知り合いなんだけど、お前に紹介してやるよ。顔とスタイルはなかなかレベル高いだろ? こいつも確かオッサンみたいなガチムチオッサンがタイプだったような気がしたから、多分快くオッサンとこ嫁いでくれると思うんだよな」
「う~ん……そうだなぁ……」
イリスをまじまじ観察し、ミュラは「確かに良い太ももだ」と真顔で呟く。それを聞き、『いける!』と判断したユーリは、さらにこう続けた。
「そいつは料理も上手いし洗濯掃除もきっちりやるしある意味床上手だし、完璧だと思うんだけどなぁ……性格以外は」
「ん?」
「あぁ、いやなんでも無い! とにかくどうだ? そいつでよかったら後で熨斗付けて送りつけてやるから、それで手を打たないか?」
ユーリがイリスを生贄にしようとそう勧めていると、ジューザスが小声で彼に話しかけてくる。
「いや、ユーリ……それはまずいよ、レイリスが了承するわけないじゃないか……大体その……”彼”だし……」
「お前は黙ってろ、ジューザス。それともてめぇを生贄にするか? あ?」
「やめてくれっ」
本気で脅す眼差しを向けてくるユーリに、ジューザスは蒼白な顔色になりながら首を横に振った。
そしてうるさい外野を黙らせたところで、ユーリは非道な悪魔の笑顔でミュラに向き直る。
「な? いいだろオッサン、それで手を打ってくれ」
「まぁ、そうだな……でも本当にこの人、俺のとこに来てくれんのか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! 来てくれる来てくれる!」
「そうか……じゃあまずは友達から始めるという事でだな……」
「おぉ、オトモダチからでも何でも好きなよーにしてかまわねぇから!」
やがてミュラはユーリの強引な押しの結果なのか、「わかった、それで手を打とう」と納得する。それを聞き、『本当にそれでいいのか…』とジューザスは本気で心配になった。
だが本人が(完全に騙している形でも)納得してくれたなら、そのまま先に話を進めたいと思うことも事実で。
「あ……じゃああの、私たちに協力してくれたりするのかな……?」
ジューザスがそう恐る恐る問うと、ミュラは「あぁ」と頷いた。
「その代わり約束忘れんなよ」
「おぉ、忘れない忘れない!」