君を助けたいから 37
「嘘だ……こんなゴリマッチョな体育会系の野生オッサンが植物学者なわけねぇ。しかもなんで鍬持ってんだよ……農夫なのか? いや、植物学者とも思えねぇけど、こんな熊がタンクトップ着て麦わら被ったような農夫も存在しねぇよ……お、俺は認めねぇぞ」
「ユーリ、それは失礼すぎるよ……」
ユーリの好き勝手な言葉にジューザスは苦笑いしながらそう呟く。が、ぶっちゃけ口に出さないだけで、ジューザスも密かに彼と同じ事を思っていた。きっと目を丸くしているアゲハもそれは同様だろう。一人いつも通りの無表情でただあるがままを受け入れているアーリィだけは、男の風貌と肩書きのミスマッチさに疑問は抱いていないようだったが。
「なんだてめぇは、本当に失礼な野郎だな」
ユーリの好き勝手な言葉に、ミュラはますます不機嫌な表情となる。それを見たジューザスは慌てて彼にこう声をかけた。
「すみません、私たちはあなたに用事があって来たんです」
「用事?」
怪訝な顔でジューザスを見返したミュラに、ジューザスは「はい」と頷く。が、それに対してミュラは「めんどくせぇな」と、あからさまに嫌そうな表情を見せた。
「つうか俺が嫁探し中だと知って、名乗りを上げて来てくれたんじゃねぇのかよ」
「何の話だよ! おい、お前にうちのアーリィはやらねぇぞ! アーリィは俺の嫁なの!」
ミュラの言葉にユーリは慌て、アーリィを自分の後ろに隠す。するとミュラは「なんだよ、人妻か」と残念そうに呟いた。そしてミュラの視線はアゲハに向けられる。
「じゃあ……」
「ひゃあ! だだだ、ダメです! 私はその、とくに彼氏とかいないですけど、でもそういうお付き合いは一人前になってからじゃないと認めないってお父さんとおじいちゃんがっ!」
ミュラにターゲットにされそうになり、アゲハはブンブンと激しく首を横に振ってそんな説明をする。というかどんだけ嫁に飢えてるんだろう……と、ミュラの見境無い行動にジューザスは苦笑いした。
「なんだ、彼氏もいねぇならいいじゃねぇか。俺はメシを上手く作ってくれる嫁なら他に文句はねぇぞ。まぁ、あと掃除洗濯を欠かさずやってくれて、旦那が疲れてる時は優しくねぎらってくれるようならなおいいな」
「ご飯のほかにも要求あるんじゃないか……」
思わずそう突っ込みが出てしまったジューザスは、おろおろするアゲハを庇うようにミュラに言う。
「申し訳ないけど、本人が了承していないから彼女を君の元に嫁がせることは出来ないよ」
「お前はその子の保護者かよ」
「そうじゃないけど、まぁ……似たようなもんだと思ってくれていいよ」
「ふぅん……まぁ俺も無理矢理嫁に来いとは言わねぇが……」
ミュラがそう言うと、アゲハはホッと安心したように胸を撫で下ろす。
そして嫁騒動がひと段落する と、ミュラはもう一度「で、何の用だ?」とジューザスたちに言った。
「面倒な用ならお断りだぞ」
「んなこと言うなよ。話だけでも聞いてくれって」
ミュラの面倒そうな態度を見てユーリがそう言うと、ミュラは「ま、話くらいはな」と返事をする。それを聞き、ジューザスは安堵した様子で「ありがとう」と言った。
「だから早く話せよ」
「あぁ、うん。あの、私たちはグラスドールという植物を探しているんだけども、あなたが植物学者だと伺って、あなたならこの植物がどこかに自生していないか知っているのではと思ってきたのだけれど」
ジューザスはそう言いながら、グラスドールの情報がメモ書きされた紙を懐から取り出そうとする。しかしそれを取り出す前に、ミュラは「残念だがそんな植物はもうねぇぞ」と答えた。
「とっくの昔に無くなったって言われる植物じゃねぇか」
「そ、それはそうなんだけど……でもマナが濃い場所に生える植物らしいし、この辺は調査したらマナが濃いみたいだからもしかしたらって思って探しているんだ」
ジューザスのその言葉に、ミュラはあくびをかみ殺しながら「無駄無駄」とやる気無さそうに答える。
「んなもん探すより俺の嫁を探してくれ。そっちのが断然希望ある話だからな」
「……同じレベルで難しいんじゃね?」
ぼそっとそう呟くユーリにミュラは「なんか言ったか?」と睨み、ユーリは「何も」と首を横に振った。
「んで、用はそれだけか? それなら俺は忙しいから……」
ミュラがそう言ってさっさとユーリたちを追い返そうとすると、ユーリは慌てた様子でこう彼に言った。
「待てよ! もうちっと真面目に俺たちの話聞いてくれたっていいじゃねぇか! 最近はなんかアレだろ、妙な植物も増えてきてるみてぇだし、もしかしたらこういう絶滅したっていう植物がまた復活して生えたりしてるかもしれねぇじゃん! お前、学者ならそーいうの研究とかしてねぇのかよ!」
すっかり教えてもらうという態度じゃなくなったユーリに、ミュラは不機嫌そうな表情を向けて「確かに新種の植物とかが、この辺には増えてるけども」と呟いてからこう続ける。
「だがそのグラスドールのことは俺もそんなに情報を持ってねぇし、お前らが知りたいような情報を持ってたとしても俺がお前らにその情報を教える義理もねぇだろ。俺になにか得があるわけでもねぇし」
「なんだよ、植物学者っていうくらいだからもっとお人よしで快く俺らに協力してくれる系かと思ったのに……」
肩書きのイメージからそんな事をボソッと呟いたユーリに、ミュラは「残念だが俺は超現実主義だ」と返した。
「えーっと……何かお返しをすれば、何か情報をくれたりするのだろうか?」
ジューザスがそうミュラに聞くと、「そうかもな」と彼は頷く。それを聞き、ジューザスは「じゃあお金かな?」と言った。
「金か……ちゃんとした依頼なら、それなりの値段で俺もそれなりに真面目に調査して答えるぞ」
「そ 、それなりの値段って?」
「グラスドールなら、そうだな……調査費込みで期間にもよるが、180から200万ジュレってところか?」
ミュラのその返事を聞き、ユーリは思わず「たっか!」と叫ぶ。ジューザスやアゲハも目を丸くして驚いていた。
「おいオッサン、それぼったくりだろ! ありえねぇよその値段!」
「ぼったくりじゃねぇよ、普通だろこれくらい」
「フツーか?! そんなのがフツーなのか?! いや、とにかく高ぇよ!」
「……ちなみに調査ってどれくらい時間がかかるんだろうか?」
ジューザスがそう引きつった笑みでミュラに聞くと、ミュラは「短くて半年くらいか?」と平然と答えた。
「半年……」
「……ジューザス、だめだ。紹介してくれたフローゼさんには悪いが、止めようぜこのオッサンに頼るのは。ぼったくりな上に仕事を真面目にする気がねぇよこいつ」