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神化論 after  作者: ユズリ
君を助けたいから
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君を助けたいから 36

「……ラプラ」

 

 そう名を呼び、イリスは体ごとラプラに振り返る。

 ラプラの腕を振り解き、代わりに自らの腕を伸ばす。首に腕を絡め、薄く開いた唇を相手のそれに寄せた。

 

「っ……んんっ……は、っ……」

 

 卑猥な音を静かに鳴らし、互いに互いを貪るように、深く唾液と舌を絡める。いつかの口付けの続きは、あの時とは違う明らかな欲情を煽る口付けだった。

 

「……は、ぁ……」

 

 やがて満足そうな熱っぽい息を漏らしながら、イリスから唇を離す。代わりに繋がったのは、互いの視線。

 どこかまだ物足りなさそうな相手の唇に細い指先を這わせ、ラプラはその指先を手に取りながら口に含む。卑猥な行為を暗示するそれに、イリスは満足そうに目を細めた。

 

 閉ざされた端末室は、彼らしかいない。

 イリスは眼差しを繋げたまま、乱れた呼吸と共に口を開く。

 

「ラプラ……あなたをちょうだい?」

 

 薄暗い室内で微笑んだイリスの瞳は魔性を宿し、紅い唇は淫らに歪んでいた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 フローゼからの話を聞き、以前彼女が住んでいたという村へと向かうことにしたユーリたち。

 グラスドールを探す彼らは、マナの濃いこの地域一帯を無闇に探すよりは、彼女が以前住んでいた場所にいるという植物学者の人に話を聞いてみるほうがいいのではないかという判断で、山を一つ越えた先にあるというその村を目指していた。

 

 そして彼らは今その山越えを終えて、ひっそりとした静かな村落の前に立っていた。

 

 

「疲れた……で、ここがフローゼさんの言ってた村か?」

 

 まだらに家の建つ目の前の光景を見つめ、ユーリがそう問うように呟く。

 周囲を木々で囲まれた村はどこか寂しい印象を持つが、しかし周囲の環境的には静かには暮らせそうな場所だった。いや、表面上はそう見えるだけなのだろう。フローゼの話を聞く限り、この場所は今は新たな魔物の被害を受けているらしいのだから。

 

「だろうね。ここに、えっと……ミュラさんがいるんだっけね」

 

 ユーリの言葉に答えるように、彼の隣でジューザスがそう口を開く。そうして彼はフローゼさんに書いてもらったメモを頼りに、ミュラという植物学者の家を探すために足を進めた 。

 

 

 一行がフローゼの書いた地図を頼りに村の中を歩くと、旅人が珍しいのか、時折すれ違う村人らしき人は警戒と興味の入り混じった眼差しでユーリたちの方を見てくる。その視線に少し居心地の悪さを感じつつも、彼らはミュラの家らしき場所の前までやって来た。

 

 

「あ、ここだね。赤い屋根の小屋」

 

 立ち止まったジューザスがそう言って、目の前に建つ赤い屋根の家を見る。村のはずれに存在していたその小屋は、静かな村に馴染むようにしんと静まり返っている。

 

「……ここにミュラって人がいんのか?」

 

 微妙に生活感を感じない静かな小屋を見て、思わずユーリがそう不安げな表情で言う。それに対してジューザスは「多分ね」と答えた。

 

「大丈夫ですよ、居ますって! さ、行ってみましょう!」

 

 元気なアゲハのその声に励まされるように、ジューザスは「そうだね」と頷いて再び一歩を進める。彼に続き、ユーリたちも小屋の入り口へと歩みを進めた。

 

 

「ごめんくださいー」

 

 木のドアを軽く叩きながら、ジューザスはそう家の中へ向けて呼びかける。しかししばらく待っても、中からの応答は無い。

 

「……留守なのかな?」

 

 家の中が無言なことにジューザスが首を傾げ、ユーリはげんなりとした表情を浮かべて「それは勘弁してくれよー」と呟く。

 

「留守だった場合は、俺らはどれくらいの時間家主が帰ってくるまで待たなきゃなんねぇんだよ……ジューザス、答えてくれ」

 

「いやぁ、それは私に聞かれてもわからないんだけど……」

 

「なんでわかんねーんだよ! ジューザスならわかれよな! ジューザスのくせにわかんねーとかありえねぇぞ!」

 

「なにその怒り方!? 理不尽すぎる! 君の中で私ってどういう存在なんだい!?」

 

「どうって……トラブルと疑問と問題と厄介ごとは一手に引き受けて解決してくれる的な……」

 

「それほぼ厄介ごと押し付け係ってことだよね!? 酷い!」

 

 と、そんな感じで男たちが騒いでいると、直後に背後から男の声が聞えた。

 

「なんだよ、うるせぇな。どろぼうならもっと静かに侵入しろよ」

 

 その声にユーリたちは騒ぐのを止めて後ろを振り返る。するとそこにはいつの間にか、手に鍬を持って頭に麦わら帽子を被った筋肉質の大男が立っていた。

 

「……だれ?」

 

 男を見て思わずそうユーリは言ったが、それを言いたいのは相手も同じだろう。案の定男も「お前らこそどこの泥棒だよ」と言葉を返した。

 

「あ、いや……私たちは泥棒ではなくて、旅している者で……」

 

 ジューザスが慌ててそう弁解すると、男はジューザスたちを胡散臭そうな様子でまじまじと観察し始める。

 浅黒く日焼けした肌にやけに筋肉質な肉体は若さを感じるが、無精髭が生えている容姿の風貌は中年男性ふうといった姿の男は、ジューザスたちをひとしきり観察し終えるとこう言った。

 

「男は論外だが……お嬢さん方は合格だ。でも嫁は一人でいいんだよな……んー、顔はどっちも 好みだけども……」

 

 何か一人で納得して値踏みするようにアーリィとアゲハを見始めた男に、ユーリが大慌てでこう声をかける。

 

「おおおぉい待て、お前は何とんでもないことを呟いてるんだ! つかマジで誰だよあんた!」

 

「誰って……俺はそこの家に住んでるんだよ。お前らこそ人ん家の前でうろうろしてたら、どろぼうと勘違いするだろうが」

 

「え、ここの住人?」

 

 男の返事を聞いて、ユーリの表情が驚きに変わる。

 

「つまりあんたがミュラ……さん?」

 

 ユーリがそう問うと、男は不機嫌そうな顔で「そうだが?」と返事を返した。そしてそれを聞き、ユーリの表情がますます驚愕に変わる。彼はわなわなと震えながら、失礼なことをミュラに向けて言いまくった。

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