君を助けたいから 34
「そうよ、そうじゃない! ごめんねローズ、さっきと言うこと違うけど、やっぱりアタシだけでもまずは元に戻るわ! だってあなたを元に戻す為には、まずアタシの力を戻す事が先決だから!」
「あ、うん……」
「それで力が戻ったら、アタシがローズのことどーにかしてあげる! 約束するわよ!」
急にそう元気に宣言したマヤに、ローズは少し驚いた顔をする。そしてマヤはそんな彼女を見つめ、「だから元気出してね」と言った。
「確かに泣き虫なあなたは嫌いじゃないけど、やっぱり笑っていて欲しいからさ」
『ずっとそれを願っていたのは自分の方なのに』と、それを頭の片隅に思いながら、ローズは小さく笑う。
「うん……わかった」
「よしよし、ちゃんと笑えたわね」
涙を拭きながら笑顔を返したローズに、マヤは満足そうに同じ笑顔を返しながらそう言う。それを聞き、思わずローズは「なんか子ども扱いしてないか?」と苦笑交じりに呟いた。
「あら、だってアタシの方がすっごいお姉さんなんだから。アタシをいくつだと思ってんのよ」
「え……それは答えていい質問なのか……?」
「……うん、ちゃんと遠慮するところがユーリのアホと違うローズのいいところよね」
ローズの真面目に困惑する様子に、思わずマヤも苦笑する。そんなマヤを見ながら、ローズは「ありがとう」と小さく呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
マナ抽出の為に魔物を捕獲などの準備を行うことになったエルミラたちは、フェリードたち研究所側の協力を受けてその準備を着々と進めていた。
エルミラは魔物を捕まえに行くまでの間は、フェリードたち研究者と共にマナ抽出の機械の詳細な設計や作成の話を進め、イリスとラプラは目的とする魔物のイグニス・ファトゥスがリ・ディールのどこに生息しているかを調査していた。
そしてフェリードたちがヒューメーン社に大型自走車を借りる約束を取り付けたところで、イリスたちもイグニス・ファトゥスの生息域を見つけることが出来た。
「あった、イグニス・ファトゥス。リ・ディールにもいる魔物みたいだよ」
公共図書館内に設置されている貴重で高価な情報端末を操作し、イリスは電子画面上に映った情報を見てそう声をあげる。その後ろでラプラが「えぇ、よかったです」と言って微笑んだ。
魔物の情報を調べる為に様々な情報を保存している巨大な電子機械を有する図書館に足を運んだイリスとラプラは、フェリードたちの研究所の名を借りて情報端末の使用許可を得て、その端末を使い魔物の生息域を調べていた。
イリスは電子画面に浮かぶ発光する文字を眺め、「この近くだと、ティレニア帝国のパンテラ湖周辺の樹海に出るみたい」と呟く。そして呟きつつ、彼はものすごく嫌な顔をした。
「……あそこって有名なホラースポットだったような……やっぱりそういうところに出るんだ……」
「おや、イリスはそういうものは苦手ですか?」
ラプラに聞かれ、イリスは「別にそんなに苦手ってわけでもないけど」と、プライドの問題でそう答える。
「でも得意ってわけでもない……普通程度に不気味なものは嫌だよ、あくまで普通程度にね」
「ふふっ、怖くて不安でしたらぜひ私を頼ってください。この胸はあなたの為にいつでも開けておきますので、怖い時はぜひこの胸に飛び込んできてください……ふふふっ」
「……」
ラプラの言葉を聞き、よくよく考えれば幽霊やオバケよりも彼の方がよっぽど自分には危険で怖い存在だとイリスは気づく。それに気づくと急にホラースポットだとかは、心底どうでもよくなった。
「……ありがとラプラ、あなたのおかげでおばけとかすっごいどうでもよくなって怖くなくなった。だから多分怖くてあなたの胸を頼ることは無いよ」
「そんな、なぜっ?!」
自分の言葉にがっかりするラプラは無視して、イリスは電子画面に映る情報を読み進めていく。
「う~ん……武器による攻撃は効かない、のか。そもそも倒しに行くわけじゃないからそれはいいんだけど……」
記録されたイグニス・ファトゥスの情報を確認しながら、イリスはラプラにこう問いかけた。
「炎で攻撃してくる他に幻覚を見せるってあるよ……? それってつまり、私と一緒のあれ?」
「そうですね、同じ種類のものでしょう。他にも幻術能力を持つ魔物は共通して術に対して抵抗力が強いのですが、その部分もこの魔物はあなたと同じです。物理的な攻撃が効かないうえに術も効きにくいので、倒すとなると少々厄介な相手なのですよ」
「ふぅん……なるほどね」
ラプラの話に理解し、イリスは問いを続ける。
「攻撃方法は火と幻覚……それに対する対処法はなんだろう?」