君を助けたいから 32
「え! そうなんですか!?」
ジューザスの告白に、フローゼは驚いたように目を丸くする。
「治療できるんですか?」
「出来るであろう薬を作ろうとしているんです。なのでまだ確実に出来るとは言い切れないのですが……」
「そうなんですか……」
ジューザスの正直な返答に、フローゼは「それでも、治るかもしれないってことなんですよね」と前向きに捉える。
「すごい……ジューザスさんたちに会ったことは偶然だけど、もしかしたらジューザスさんたちのお陰で母の病気も治るかもしれないってことですよね」
「え、えぇ……そうなってくれるといいんですけど」
本当にそうなればいいと思う。しかし思うだけでは望みは叶わないことは知っている。この世界では、神に祈っても何も変わらないのだから。
だから自分たちは行動しなくてはいけないのだ。
「あの、フローゼさん」
「はい」
ジューザスはおもむろに上着のポケットからグラスドールの描かれた紙を取り出す。それをフローゼに見せながら、彼は「あなたはこういう植物をどこかで見た事はありませんか?」と聞いた。
「これは禍憑きの治療に必要な植物なんですけど……私たちはこの植物を探しているんです。ここの土地は調べた結果、この植物が生えている可能性があるとわかったのですが……」
「えっと……」
ジューザスに問われ、フローゼは紙に描かれた植物をまじまじと見つめる。しかし彼女は小さく首を横に振り、「すみませんが私には……」と答えた。
「そうですか……」
「さっきも言いましたが、ここには来たばかりなんで……」
フローゼは申し訳無さそうにそう言った後に、「あ、でも前にいたところに植物学者さんがいました」と言う。
「そうなんですか?」
「はい。その方ならもしかしたら何か知ってるかも……」
フローゼのその言葉に、ジューザスは「その方を教えていただけますか?」と問う。フローゼは微笑んで「はい」と答えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
古代竜の瞳を手に入れる為に行動しているジュラードたちは、結局最初に目星をつけた場所で目的の竜の古代種を見つけることが出来なかった為に、次の目的地へ 向かうことを決めた。
そしてその次なる目的地のメルドロキア国内にあるメリア・モリという場所へ行くために、彼らはまずメルドロキア入国の手段を準備する目的でウネの力を使いレイマーニャ国のクノーに戻っていた。
ジュラードたちは中央医学研究学会へと戻り、早速会長のロンゾヴェルに戻ってきた事情を説明する。
そして事情を聞いたロンゾヴェルは、正直迷惑極まりないとさえ思えるマヤの入国作戦に理解を示し、驚いたことにフェイリスに彼らについて行くよう命じたのであった。
フェイリスがジュラードたちについてくる理由は勿論メルドロキアへの速やかな入国の為だが、その為に学会で理由付けを行うと共にフェイリスも同行させて、より安全にトラブルなくジュラードたちをメルドロキアへ入れさせようという考えらしい。
「でもいいんですか? フェイリスさんも会長の秘書だから忙しいんじゃ……」
学会での会議室での話し合いの場で、フェイリスの同行が決まったことに対してローズがそう不安げな表情で問う。するとフェイリスは相変わらずぞくっとするような艶美な微笑を浮かべながら、ローズにこう返事を返した。
「私がいない間の私の仕事は、代理の者が行いますので大丈夫ですよ。実はそういうこと、結構ありますので」
「そ、そうなんですか……」
ローズがどこか不安げな表情で曖昧に頷くと、ロンゾヴェルが柔和な笑みを湛えながらこう口を開く。
「それに彼女は普段は私のボディーガードも務めていますので、おそらく皆さんの足手まといにはならないと思いますよ」
「え、そうなんですか?!」
ひどく驚くことを説明され、思わずローズはそう声をあげる。ジュラードも驚いた様子で、まじまじとフェイリスを見つめていた。
女性らしい細身だが色気ある肢体を持つ彼女は、秘書と言われれば即納得できる女性であるが、ボディーガードと言われると少し疑問を感じてしまう。しかしフェイリスはそんなジュラードたちの疑問など知ってか知らずか、艶美な微笑みはそのままに「はい」と答えた。
「数年前はミェルヒェンの軍に所属していましたので体力にも自信がありますが、道中皆様にご迷惑をおかけすることは極力無いように致します」
「え、元軍人さん?!」
もう何がなんだか、である。
フェイリスの意外な経歴にローズやジュラードがほかんとしていると、マヤが「とにかく心強いわね」とフェイリスに言った。
「足手まといにならないどころか、即戦力じゃない。アタシたちはギガドラゴン倒さなきゃならないわけだけど、もしかしてその手伝いもしてくれるのかしら?」
「そうですね……皆様について行く以上は、その場面に遭遇した時は出来る限りお手伝いをさせていただきます」
にっこりと微笑んでそう返事をしたフェイリスだが、ジュラードやローズはやはり彼女が元・軍人だとは思えずにただただ目を丸くする。
そしてジュラードは気づく。
(ローズにマヤにウネに、そして彼女……なんだ、俺の周りの女性はなんでこう……強いんだ?)
気づけばなにやら最強の女性軍団に囲まれた的なことになっている自分に、ジュラードは密かに焦る。うさこを除けば男性である自分がもしかしたら一番か弱いのでは……と、ジュラードは一人静かに不安になった。
「それでは私は早速メルドロキアの方にあなた方の入国のお願いをお伝えしましょう。メルドロキアから返事が来次第、あなた方にそれをお伝えしますよ」
「ありがとうございます」
ロンゾヴェルに礼を言いながら、ローズは深く頭を下げる。ジュラードも彼女を習って頭を下げ、ロンゾヴェルは彼らに「頑張ってください」と優しく声をかけた。