君を助けたいから 28
フェリードがそう呟き、しばらく沈黙が訪れる。すると、やがてラプラがこう口を開いた。
「こちらの研究で、やはりブレスや妖術など呪術に酷似した技を扱う魔物はマナが多い傾向にあるという情報があります。それとゼラチンうさぎも含まれますが、こちらで精霊種と分類されるそれら魔物もマナを多く持っていると……」
ラプラはそう語った後に、「それらから考えると、候補となるのは」と、自身の考えを皆に告げた。
「竜以外でならばやはり人型か精霊種が一番良いのではないかと。人型でしたら手ごろに捕まえられるセイレーンやラミアー、精霊種でしたらゼラチンうさぎ以外ですとニンフやイグニス・ファトゥスなどいかがでしょう?」
このラプラの話に、エルミラがこんな疑問を返す。
「ねぇ、オレはセイレーンとか見たこと無いんだけど、それって綺麗な女の人な姿なの?」
「そうですねぇ……綺麗かどうかは別として、女性体ではありますね」
ラプラの答えを聞き、エルミラは何か決意した様子で「……精霊種にしよう」と一言呟いた。
「おや、どうしてですか?」
「だ、だってそんな人の姿した魔物を実験に使うのもなんか気分的に嫌だもん。女の人の姿となると尚更さぁ……」
確かにエルミラの言うとおり、魔物とはいえ人に近い姿をした存在を捕まえてどうこうするというのは気分的にいいものではない。
ついでに言うとエルミラはまだ知らないが、イリスも今現在は分類では人型の魔物となる。セイレーンなどを同胞だとはイリスも思っていないが、何となく遠慮したい気持ちがあるのはたしかだった。
「まぁ、精霊種がいいのでしたらそれもいいと思いますよ?」
ラプラがそう返すと、エルミラは安堵したように息を吐く。だが次のラプラの一言に、彼の安堵の表情は掻き消えた。
「しかし精霊種も比較的女性の姿が多いのですけどね」
「ちょっ……!」
また嫌そうな顔をしたエルミラにラプラは小さく笑い、「大丈夫ですよ」と告げた。
「ニンフはともかく、イグニス・ファトゥスはただの火の玉にしか見えない魔物ですからね。女性体ではありませんよ」
「あ、じゃあそれ! そのナントカっての捕まえよう!」
自分が捕まえに行くわけじゃないのに、そう勝手にエルミラは決める。ラプラは苦笑を零し、イリスに「よろしいのですか?」と聞いた。
「それが捕まえられるのなら、私もそれでいいと思うよ」
「そうですか。ではターゲットはそれに決まりですね」
ラプラがそう言って頷くと、今度はフェリードが疑問を口にする。
「でもその魔物って、一体どの辺りにいるものなんでしょう? それにどれくらい捕獲するのかとか、どう捕獲するのかとか……こちらは捕獲に関してはどこまで準備したらいいのでしょう?」
「そうですねぇ、まず生息域については……そもそもこちらの世界にその魔物が存在するのかどうか私にはわかりませんが、イグニス・ファトゥスは主に夜間に活動する魔物で、マナが濃く曰く付きの場所によく出没いたしますね」
「い、いわくつき……ちょっと待って、その魔物ってオバケ的な何かなわけ?」
ラプラの話を聞き、エルミラがちょっといやそうな顔色となってそう聞く。するとラプラは「近い存在かもしれませんね」と爽やかな笑顔で答えた。
「精霊種などと分類されていますが、エレで主にイグニス・ファトゥスが出没する場所は残虐極まりない戦のあった土地や瘴気漂う地などですからね。魔物の見た目も人魂みたいなものですし、まぁソレ系なのかもしれませんね」
「ちょ……それやっぱりどう考えてもオバケじゃん」
そんなものを捕まえに行くのかと、エルミラたちの表情はやや引きつる。実際捕まえに行くイリスも嫌だろうが、それをおそらく大量に捕獲して実験に使う予定の研究所側も気分的に凄く嫌だった。
「なんか僕たち呪われませんか……?」
「大丈夫ですよ、おそらく」
適当なラプラの返事にフェリードは不安そうな顔のままうな垂れる。
ラプラ以外の皆のテンションが下がりに下がったところで、話は次に進んだ。
「捕獲についてですが、普通には行えません。今言いましたが人魂のような虚ろな存在なので実体がありませんので、捕獲は私が結界に閉じ込めて捕まえましょう。で、その後捕まえたイグニス・ファトゥスをどこに閉じ込めておくかですが……」
「って言うか閉じ込めるなんて出来るの?」
実体が無いというものをどう物理的に閉じ込めておくのかと、エルミラが不安の眼差しで問う。するとラプラはこんなことを言った。
「とりあえず普通の、それなりに頑丈な箱か何かを用意してください。その箱一つ一つに私が呪術で結界を施しますので、そうしましたらその中に捕まえたイグニス・ファトゥスを入れておきましょう」
ラプラはフェリードたち研究所側の人間に、「用意していただけますか?」と問う。フェリードは他の研究員たちと顔を見合わせた後、「どんな箱でもいいんですか?」と返した。
「例えば大きさとか、材質とか……荷物搬送用の木箱でもいいとかなら、すぐ用意できますけど」
「えぇ、それでもかまいませんよ。大きさもとりあえず両手で抱えて運べる程度の大きさがあれば十分です」
ラプラが頷き、フェリードも「わかりました」と頷いた。
そしてイリスがふと気づく。
「あれ? やっぱり捕獲、私とラプラだけじゃ無理だよね? 捕まえた魔物、運ぶ人とか乗り物とか必要じゃん」
「あ、気づいた? いいじゃん、乗り物無くてもレイリスが気合で運んできてよ」
イリスの疑問にエルミラがそう笑顔で返事をすると、イリスは「出来るわけ無いでしょ」と彼を睨む。
「私一人で箱何個も運べっての? 無茶言うなっての。せめて何か乗り物……あ、って言うか」
イリスはそう言った後、おもむろにフェリードたち研究者に向き直る。
「あの、ちょっと聞きたいんだけど、エルミラってそっちに付きっ切りでいなきゃいけないほど忙しいかな?」
「そうですねー……装置作るって言っても材料調達にはそれなりに時間かかるし、設計はもうエルミラさんが紙に描いて出来てる状態だし、ぶっちゃけ材料揃うまではエルミラさん暇なんじゃないですか?」
「あ、馬鹿フェリード、なに正直なこと言ってんの!」
フェリードの正直な返事に危険で怖いことは他人任せにしたかったエルミラは焦り、逆にイリスはニヤリと黒くご機嫌な笑みをみせて「そうなんだ」と言う。
「じゃあエルミラもやっぱりこっちの手伝い出来るんだね」
「ちょ、やだよ! オレみたいな繊細な人間を怖いことに巻き込もうとしないでよね!」
イリスの邪悪な笑顔に身の危険を感じたエルミラは、彼らと共に魔物捕獲に行く事を断ろうとするが……
「エルミラ、一緒に捕獲しに行くよね?」
「ぎゃあああぁレイリスそれオレの銃! いつの間に取ったの!? ってかオレにそれ突きつけないで、脅しじゃん!」