君を助けたいから 26
ジュラードたちに『マナ水』の調達を頼まれたエルミラたちは、フェリードの所属する研究所の許可を得て、施設の設備を使用してのマナ水の作成を始めていた。
エルミラの突然の『ちょっと設備と人手貸して』の無茶要求とラプラという魔族の登場、その他色々な迷惑を当初から研究所の人々は寛大な心で受け入れ……るなんてことはせず、当然彼らは困惑しエルミラたちの要求を一度は断ったのだが、しかしエルミラの必死の頼みとラプラの懇切丁寧な敬語での脅しによって結局研究所は彼らの手伝いをすることとなったのだ。
勿論成果は研究所の手柄とすること、という条件を提示したので研究所側も最終的には納得したという部分もあるが、とにかくフェリードたちはエルミラたちに物凄い迷惑をかけられながらも協力する破目になっていた。
そして今エルミラたちは、フェリードを含めた数人の研究者たちと、具体的な『マナ水』作成について打ち合わせ中である。
「だからさぁ、理論的にはこの方法で魔物を分解して、そこからマナを抽出できるわけよ。問題は装置の作成と、抽出対象となる魔物の捕獲かな……あ、レイリス、お茶終わったから淹れてくれない? 温めで」
「……はいはい」
「ありがとレイリスー! ……で、対象とする魔物は魔法と同じ力が使える系の魔物がいいんだよね。そうなると第一候補はドラゴンか人型系か、不定形種も候補に入れられるな……えっと、あとはー……」
イリスが要求どおりにお茶を用意しに席を立つと、再びエルミラが熱く語りだす。行儀悪くビスケットを食べながら。
「って言うかさっきからエルミラさんがごく普通に口走ってることって、なんか凄い重要なことばっかりな気がするんですけど……」
今回もやっぱりエルミラに巻き込まれた不運な男・フェリードが、目を丸くしながら驚いた様子でそうエルミラに問う。エルミラは「え、そう?」と首を傾げた。
「そうですよ。物質のマナを抽出できるとかどーとかって……」
「だからそれはあくまでオレの理論的には可能って話だよ。上手くいくかはわかんないって。実際マナの抽出技術に関しては、旧時代に確立されていたわけだし」
「そ、そうなんですか……? え、でも僕たちその抽出技術しらないし……」
「だいじょぶ、オレが知ってるから。そこら辺は頭に叩き込んであるから心配しないでいーってば」
エルミラの話に先ほどから驚きっぱなしでぽかんとしているフェリードを含めた研究者たちに、エルミラは「とにかくだいじょぶだって」と無理矢理に疑問を納得させてから自身の話を続ける。
「装置の作成はオレを中心に研究所のみんなに手伝ってもらうとして、それより心配しなきゃいけない問題は実験に使う魔物の捕獲だよね」
エルミラがそう言うと、そのタイミングでイリスが頼まれたお茶を持って戻ってくる。彼は「はい」と言って、エルミラの前に湯気の立つカップを置いた。
「サンキュー! ……って、ぅあっぢぃ! ぺっ! あつっ! 水っ!」
早速イリスが淹れてくれたお茶を一口飲んで、そのあまりの熱さにエルミラは口に含んだ一口を直後に盛大に吐き出す。それを見て、フェリードは直前のエルミラの『だいじょぶ』の言葉が物凄く不安になった。
「……本当にこの人中心で大丈夫なのかな……」
思わず目の前でイリスに怒るエルミラを見ながら、フェリードは呟く。だが心配しても仕方ないことでもあると、散々エルミラに振り回された経験がある彼は、賢くもそうも思った。
「ちょっとレイリス、なにこのお茶! 全然ぬるくないじゃん! むしろ熱々っ! オレの繊細な舌がダメージを! どう責任取るのさ!」
「あぁ、そうだった? 私的には温くしたつもりなんだけどね。あんたが猫舌なだけじゃないの? 」
「ひどいよ! 猫舌かんけーなくこれは間違いなく熱いって! こんな熱さ、お風呂でもありえない!」
「まぁね。私も普通お風呂のお湯は、沸騰するほど沸かさないと思うよ」
「沸騰!? 沸騰したお湯でお茶淹れたの! やっぱり熱いじゃん! レイリスの鬼! 非道!」
涙目で非難するエルミラを無視して、イリスは座っていた席に戻る。そして彼は「で、何の話してたの?」と、話題をさっさと変えようとエルミラに言った。
エルミラは何か納得いかなそうな顔で彼を見返しながら、質問に答えるようにこう口を開く。
「今、実験に使う魔物をどう捕獲しようかってのを考えようとしてたところ」
「そうなんだ。で、どう捕まえるの?」
「だからそれを今から考えるの」
エルミラは「とりあえず小型の魔物なら捕獲用の檻は簡単に用意できそうだけど」と、考える表情で呟く。
「でも小型で抽出できるマナなんてたかがしれてるしさ、マナを抽出後に精製すると量は確実に減るわけだから、小型を捕まえる場合はその分たくさん捕まえないといけなくなるとオレは思うわけ」
「じゃあ大型捕まえれば?」
イリスが投げやりにそう言うと、エルミラは「それだとその分捕まえるのが大変じゃん」と返した。
「檻だって頑丈ででかいの用意しなきゃいけないわけだし」
「そ、それに大型となると捕獲には国の許可が必要になりますよ?」
フェリードがそう発言すると、イリスは「それは小型の場合も一緒じゃん」と言った。
「小型でもたくさん捕獲したら許可必要でしょ? 詳しい数は知らないけどさ」
「そ、それは確かにそうですね……」
「それに大型も小型をたくさん捕獲するのも、どっちも捕獲した後の保管に困るよね。ここ、捕まえた魔物置いとける場所ある?」
イリスがそう疑問を問うと、フェリードは他の研究者たちと顔を見合わせる。そして彼らは考える表情でこう言葉を交わした。
「そんな場所、あるかな?」
「さぁ……」
「あ、倉庫掃除すれば使えるんじゃないか?」
「あぁ、そうですね。それなら……」
するとこの会話を聞き、エルミラが口を挟む。
「え、そこならドラゴンとか捕まえてきてもオッケー?」
「そんなのオッケーなわけないでしょ!」
エルミラの発言にフェリードは即座にそう突っ込み、そんな漫才のような二人のやり取りを見て他の者たちは思わず苦笑を漏らした。
「えー、ドラゴンだめ?」
「って言うかエルミラさん、ドラゴン捕獲しようと考えてるんですか?」
「大丈夫、ドラゴンなら小型でも十分マナ取れると思うから~」
「そーいう問題じゃないですよ!」
エルミラのむちゃくちゃな考えにちょっと泣きそうになってるフェリードが可哀想になり、二人のやり取りにイリスがこう口を挟んだ。
「生きてるドラゴンをこんな街中で捕獲して置いとけるわけないでしょ。そんな許可、絶対下りないよ。いや、許可は取れるけど、取る為の準備や手間が凄いかかると思う。まず街中に置いとくのは絶対ダメだから、捕獲後に置いとく為に別に場所確保しなきゃだし……」