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神化論 after  作者: ユズリ
君を助けたいから
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君を助けたいから 24


「……本当に、戻れるのかな……自分も、彼女も……」

 

 天井を見つめながら不意に呟かれた独り言に、うさこが「きゅうぅ?」と疑問の鳴き声を発する。ローズはそんなうさこに小さく笑い、「なんでもないんだ」と言った。

 

 いや、もう自分は半分諦めて、この今の自分を受け入れている部分もあるとローズは思う。

 自分は昔ほど必死に、元に戻る手がかりを探そうという気持ちを持たなくなっていたから。

 

(だって……結局何も変わらないんだ……マヤもユーリもアーリィも)

 

 いい意味で何も変わることなく接してくれる以前の仲間の優しさが、皮肉にも自分の中の危機感を奪っていく。

 少しだけ怖かった。このまま今を受け入れようとする自分の心が。

 

「……本当に今の自分はローズなのだろうか……それとも……」

 

 それとも私はアリアなのか。

 

 ”アリア”と同化した記憶と心が、本来の自分の輪郭をあやふやにさせる。

 たとえばマヤに対する気持ちはどこまでがローズのもので、どこまでがアリアのものなのかわからない。きっとそれを区別することに意味は無いのだろうが、でもそれをはっきりさせないと自分は完全にアリアに飲み込まれてしまう気がした。

 自分の存在は”アリア”が前提に存在している。それは否定し無いけど、でも……。

 

「きゅいぃ~?」

 

 迷うローズを気にかけるように、うさこがローズの顔を覗き込む。それに気づき、ローズは力なく笑ってうさこの頭を撫でた。

 

「あぁ、心配かけてすまない」

 

「きゅううぅっ」

 

 心配そうに見つめるうさこにそう声をかけ、ローズは小さく息を吸った。

 

「崩れゆく世界 あなたの名を呼ぶ」

 

 静かに部屋の中に響き渡る歌声。それは確かに”彼女”の歌声だった。

 マヤが愛してくれたものの一つだから、今の自分は歌う事は嫌いじゃない。

 

「手を伸ばしても 届かないもの」

 

 でもそうして歌う度に、歌に宿ったアリアの面影が自分を侵食していく錯覚を感じる。

 

「……ずっと……ただ、幸せを願っていたのだから……彼女が幸せなら、それでいい……」

 

 彼女の幸せを願う気持ちは今も変わらない。

 たとえ”ローズ”が蝕まれても、自分の中でその存在が消えたとしても……自分が最も願う事は、愛した彼女の幸せなのだ。

 

「”俺”が消えても、”私”だとしても、きっと彼女なら愛してくれるから……」

 

 それ以上を自分が望む事は贅沢なことだと、そう思いながらローズは静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 少し重い足取りで酒場を出る。中の幻想のような喧騒に背中を向けて外に出ると、静かな現実が夜の闇と共に目の前に現れた。

 

「結局何も情報無し、か……」

 

 そう呟いて酒場を出たジュラードは、酒場独特の熱気と臭いに少し気分を悪くしたらしく、だるそうな表情で冷えた外の空気を吸った。

 

「っていうかどいつもこいつも酔っ払ってて、まともな話聞けなかったわよね。ったく、使えないんだから」

 

「いや、酔っ払うのは仕方ないと思うんだが……」

 

「仕方ない……ギルドの方に行ってみましょう」

 

 ウネの呟きに「あぁ」と返事して、ジュラードはギルドの方向へと足を向ける。その後をウネが追い、彼らはギルドへと向かった。

 

 

 

 ギルドは幸いなことに閉まっておらず、ジュラードたちは早速戸をくぐって中へと入る。中はこの周辺で活動を行っているらしいハンターや冒険者たちが数人、それぞれに依頼を確認したり雑談をしたりと行動していた。

 

「あら、結構まだ人がいるわね。ラッキーじゃない、片っ端から話聞いてきましょ」

 

 そうウネの服のポケットでマヤは言うが、人見知り激しいジュラードにとっては見知らぬ他人と会話するのはわりと神経すり減らす行為だ。一人でも難易度が高いのに、片っ端から声をかけるなんて崖から飛び降りろと言われているくらい恐ろしい話なのだ。

 先ほどの酒場ですでに勇気を使いすぎて疲れているジュラードは、「ま、待ってくれ、心の準備をしないと」と小さく呟いた。

 

「は? 心の準備?」

 

「それしないと声かけられないから……仕方ないだろっ」

 

 情けない自分の状況だが素直にそう白状し、ジュラードは軽く深呼吸を繰り返す。そんな彼を見て、マヤは呆れた様子で「そういうのは道中で行っときなさいよ」と言った。

 

「う、うるさい。……はぁ、よし、行くぞ!」

 

 全てはリリンのため。

 そう思えば他人に声をかけることも出来る気がするジュラードは、気合を入れなおした表情で室内を進む。彼はまずカウンター傍で談笑している優しげな雰囲気の青年二人組に近づいた。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

 ジュラードが男たちに声をかけると、彼らは怪訝な顔をしながら話を止める。ジュラードは内心で静かに緊張しながら、自分に注目した彼らにこう話しかけた。

 

「この辺でその……ギガドラゴンを見たという話は聞かないだろうか……?」

 

 緊張しながらそうジュラードが問うと、男たちは顔を見合わせて「ギガドラゴン?」と呟く。

 

「う~ん、どうだろうな……最近は見たって話、俺は聞かないけど」

 

「自分もだ。滅多にお目にかかれるもんじゃないし、お目にかかりたい相手でも無いしな。話は聞かないなぁ」

 

 二人の返事にジュラードは「そうか」と、残念そうな様子で呟く。二人の返答は今までに散々聞いた答えと同じものだった。

 

「なんだ、あんたはギガドラゴンを探してるのか?」

 

 男の一人が興味を持ったふうにそう聞いてきたので、ジュラードは戸惑い気味に「あぁ」と頷く。

 

「へぇ~。なに、ドラゴン倒して有名になろうとでも思ってるとか?」

 

「それはやめておいたほうがいい。ギガドラゴンなんて危険な生き物、まともに相手して倒せるもんじゃないからな」

 

「いや、別に俺は有名になろうだなんて……」

 

 男たちの言葉にそう返事を返しかけたジュラードは、しかし途中で言葉を途切れさせて「なんでもない」と小さく呟く。

 詳しく事情を聞かれるのを面倒だと感じた彼は、男たちにそれ以上追及されるのを避けてか、「それじゃあ」と短く言って男たちに背を向けた。

 

「……やっぱりこの辺にギガドラゴンなんていないんじゃないか……?」

 

「ちょっと、まだ話聞いて一組目じゃない。諦めるの早すぎよ」

 

 男たちに背を向けてからぽつりと呟いたジュラードに、すかさずマヤが突っ込みを入れる。それに対してウネも無言で頷き、ジュラードはやや恨めしそうな顔で二人を見ながら「わかってる」と言った。

 

「ちょっと思ったことを口に出しただけだ。……えっと、他にも聞けばいいんだろ?」

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