君を助けたいから 23
宿場町に着いたジュラードたちは一先ず宿をとって寝る場所を確保してから、時間を無駄にしないためにここで情報収集を行うことにする。
もう何度もそれをしては有力な情報を得られずにいた彼らだったが、だからといって情報は無いと決め付けて朝まで寝て時間を過ごすよりはそれをした方がまだ時間が無駄にはならないと考えたのだった。
「でもローズは宿でお留守番ね~」
「……なんでだ?」
宿の部屋で荷物を置きながら、ローズがマヤの発言に首を傾げる。マヤは自分の羽で部屋の中をふわふわ飛びながら、「当然でしょ」と言った。
「あなた疲れてるし。顔が病人みたいよ?」
「びょ、病人って……」
マヤに真顔で妙なことを言われたローズは苦い顔をしたが、しかし実際彼女はそう言われるとそんな顔色だった。
「ずっと歩きっぱなし戦闘ありで疲れてるんでしょ? 明日もまだ歩くんだから、情報収集はジュラードやウネに任せて、あなたは今日はもう休みなさいよね」
「え……しかし……」
マヤの言葉に素直に頷けないでいるローズに、同室のウネがこう声をかける。
「明日倒れられたりするほうが迷惑だから、彼女の言うとおりにするべきだと思う。休む事も大事なことよ」
「……そ、そうか……そうだな、わかった……」
ウネの正論にちょっとヘコんでる様子のローズだが、しかし素直に彼女たちの意見を受け入れる事にする。ローズはうさこを胸に抱え、「じゃあ私は宿にいるよ」と言った。
「そうしなさい。ローズの分はアタシが頑張るから」
「え、マヤは情報収集しに行くのか?」
「勿論。あ、それともアタシはあなたの中で休んでたほうがいいかしら?」
「え……いや、そこまでは気を使ってくれなくても大丈夫だけど……」
ローズがそう返事をすると、「じゃあアタシはジュラードたちのお手伝いしてくるわね」と笑顔で言った。
「あなたはうさこと留守番してなさい」
「でも……え、何でお前まで行くんだ?」
「そりゃジュラードとウネ二人で情報収集って、なんか不安になるからよ。せめてアタシがサポートしてあげないと」
「う、ん……」
何か納得いかなそうな様子のローズに、マヤは意地悪く笑ってこう言う。
「それともあなたはアタシと離れ離れが寂しいの?」
「え?! いや、それは……そんな、そういう意味で聞いたわけじゃないし……」
返事に困ったローズは、やがて恨めしそうな目でマヤを見て「意地悪な質問は止めろ」と呟く。そんなローズにマヤは「ごめんごめん」と笑いながら返した。
「でもジュラードは結構人見知りするタイプっぽいし、ウネは魔族だからあまり積極的に人とコミュニケーション取るとちょっと危険だし、誰かがサポートしないとってのは必要でしょ?」
「……ん、それもそうだよな」
やっと納得出来たローズは、少し心配した眼差しをマヤに向けながらも「じゃあ私はうさこと留守番してる」と言 った。
「うん。じゃあうさこ、ローズのこと頼むわよ! しっかり見ててね!」
「きゅいいぃっ!」
「え、私のことをうさこに頼むのか?! それ普通逆じゃなくて?!」
うさこの方が保護者という認識にローズは異議を唱えたが、マヤに「逆じゃないわよ」という一言で却下された。
そうしてローズとうさこを宿に残し、マヤとウネはジュラードと共に外に出て情報収集を行うことにする。
情報の集まるところと言えば酒場や、あるいは大きな町などにはよくあるギルドがそれだが、丁度この町にはそのどちらもあるということを宿の人に聞いて知った彼らは、その二箇所へまず情報を入手しに向かうこととなった。
「さて、まずはどっちに行こうかしらね 」
ローズがいないのでウネの胸に……ということはさすがに自重したマヤは、彼女の上着のポケットに入ってそう言葉を呟く。それに対して、ジュラードが「近い方へ行けばいいんじゃないか?」と返した。
「まぁそれはそうよね。で、どっちが近いかしら?」
「……宿の主人にもらった町の地図によると、酒場が若干近いわね」
地図を見ながらそうウネが返事すると、マヤは「じゃあまずはそっち」と言う。
「あ、でもあまり夜遅いとギルドって閉まってしまうもんじゃないのか?」
「そうでもないわよ? 夜間でしか討伐出来ない魔物とかいるし、ずっと開けっ放しってとこも多いのよ」
「そうなのか……」
ジュラードの疑問にマヤはそう答え、「だからギルドが後回しでも問題ないわよ」と言う。
「じゃあ酒場に行くか……」
「そーね。あ、ジュラードはお酒飲んじゃダメよん」
「飲まない」
そんな会話をしつつ、彼らは酒場を目指して進んだ。
ジュラードたちが出て行き、一人うさこと共に宿に残されたローズは、彼らより一足先に宿の風呂で体を洗う。
風呂から部屋に戻った彼女は、部屋で留守番をしていたうさこに迎えられて、水分を吸った黒髪をタオルで拭きつつうさこに笑顔を向けた。そうして自分に抱きつくうさこを抱え上げる。
「きゅいいぃ~」
「ただいま」
そう言い、ローズはうさこを胸に抱えたままベッドに近づく。そして彼女はそのままうさこと共に白く柔らかいシーツがかかったベッドに寝転がった。
まだ乾ききらない長い黒髪がシーツの上に散らばって、シーツに湿り気が広がる。だがローズは気にすることなく、疲労した体を癒すようにベッドに体重を預けた。