君を助けたいから 18
そして、やがて彼の目にもアゲハの言う『異変』をとらえることが出来た。
「ん……?」
今、この場に風は無い。それなのにジューザスの目に一瞬、大きく葉を散らしながら枝を揺らした巨木の姿が映る。そしてそれは、今度はユーリやアーリィも目撃したようだった。
「ねぇ、今あの木……」
アーリィがジューザスが目撃した木と同じものを指差しながらそう呟く。その言葉にジューザスが頷こうとすると、いつの間にか彼の後ろに避難して怯えているユーリが「み、見間違いじゃね?!」と願望を込めて発言した。
「いや、私も今動いたの見たし、見間違いでは無いんじゃないかな……?」
「止めろそういう冷静な意見! 俺がどんな気持ちで『見間違いだったらいいなー』って発言したと思……」
冷静に自分の意見を否定するジューザスに、ユーリが青ざめた顔色でそう言い返したその時、今度こそユーリの願いは打ち砕かれる。彼らの目の前で緑の葉を生やすある一本の巨木が、地中に深く生えた根を自ら引き抜くように動きだしたのだった。そして辺りに響き渡る、この男の悲鳴。
「っ……ぎゃあああぁぁぁぁ!」
「ちょ、ユーリ、私に引っ付かないでくれるかい? 邪魔……っ」
恐怖のあまり乙女のように悲鳴をあげながらジューザスに抱きついたユーリに、ジューザスは迷惑そうな顔をする。だがユーリは聞いちゃいない様子で、目の前で地面を破壊しながらゆっくりと動き始めた巨木を見ていた。
「ぎゃああぁいやああぁジューザスあれなんとかしろー! 怖い怖い怖いっ!」
「いや、なんとかって言われても……」
ユーリの無茶振りにジューザスが困惑し、そんなユーリの姿を見てアーリィが怒ったようにこんなことを叫ぶ。
「ユーリ、怖いなら私の後ろにいて! 私、オバケ全然怖くないし! 私に抱きつけばいいよ!」
怯えたユーリがジューザスに引っ付いている状況が、彼女には非常にご不満らしい。どうせなら自分を頼って欲しいと、可愛いのか男らしいのかよくわからない嫉妬をしているアーリィに、ユーリはガクガク震えたまま「だ、だって……」と情けなく返事した。
「なんかそれ、俺のプライド的にダメな気が……」
「プライド?! なにそれ、ユーリは私よりジューザスが好きなの?! そういうこと?!」
「ひぃ、違いますアーリィさん、そうじゃなくて……」
「私、オバケ相手にも戦えるよ多分! だってユーリと違ってオバケとか全然怖くないし! ユーリのこと守れるから!」
「アーリィさんまじ男前でかっこいいけど、でもあのね、そうじゃないんだ……その台詞はうれしーけど、それ以上に自分の情けなさに死にたくなるからキツイ……」
「どういう意味?! ……よくわからないけど、ユーリが私よりジューザスがいいって言うなら……」
「え? ちょっとアーリィ、なんで私を睨むんだい?! と、とばっちりだよ!」
嫉妬全開のアーリィは、殺気でギラつく殺る気満々な視線をジューザスに向ける。それにジューザスは怯え、ユーリもユーリで「一体俺はどうすりゃいいの?!」と情けないことを叫んだ。
なんかそんな感じでちょっと色々カオスな状況の中、一人冷静な様子のアゲハがはっとした様子でこう言う。
「あ、あれ……違います、おばけじゃありません! あれ、魔物ですよ!」
彼女は動く巨木を見てそう叫ぶ。叫びながら彼女は以前ヒュンメイで見た、禍々しい色の花を咲かす巨大植物の魔物を思い出していた。
「え、魔物?」
「はい、そうですよ! 私、以前あんなふうにおっきい植物の魔物に遭遇したことあったんです! これ、きっとそれですよ!」
今目の前にいる植物の魔物は、ヒュンメイで遭遇したような禍々しい外見は無く、見た目的にはただ巨大な木が動いているだけといったふうだが、確かに魔物だとアゲハは思う。そしてユーリやジューザスたちにはこんな巨大な植物系の魔物を見るのは初めてで、彼らはアゲハの言葉に目を丸くして驚いていた。
「こ、これ魔物なんだね……なるほど、最近よく聞く新種の魔物かな? あるいは変異した……」
腰に吊ったメルキオールに手をかけながら、ジューザスが納得したように呟く。そしてユーリも幽霊のたぐいではないのだと知ると、途端に情けなくジューザスに引っ付くのを止めた。
「なんだ、魔物なら切っちまえば解決すんじゃねぇか。くそっ、ビビらせやがって」
急に威勢良く復活したユーリは、彼もまた腰の後ろに吊っていた短剣を二本引き抜き、戦闘の準備を行う。が、目の前の敵は見上げるような大きさの動く巨木……普通の武器では対処するには心もとないと感じる圧倒的な存在の敵だった。
「私、以前もこういう大きな植物の怪物と戦った事があったんですけど、まるで歯が立たなくって……あの、だから気をつけてください」
アゲハもまたユーリ同様に腰に吊った軽量な武器の短刀を構えるが、そうする彼女の表情は自信なさげな不安に満ちていた。だがユーリは強気な笑みで「大丈夫だろ」と彼女に言葉を返す。先ほどまで蒼白な顔色で怯えていた人物と同一とは思えない態度の変わりっぷりだった。
「アーリィもいるし、どうにかなるって」
「……そ、そうですね」
アーリィは圧倒的な破壊力をも生み出す事が可能な魔法を操れるのだから、巨大な敵だろうと魔法さえ発動できればどうにかなるとユーリは考える。そしてその作戦で皆認識が一致したようで、アーリィは魔法発動の為に後ろへと下がって、他の者たちは彼女を守るように前に出た。