君を助けたいから 15
「……そっか」
「うん」
ジューザスの話を聞き、ユーリはしばらくして小さく「元気ならよかった」と呟く。ジューザスの位置からはそう呟いたユーリの表情は窺えなかったが、その言葉には確かな安心が宿っていたと、そうジューザスには思えた。
「そうだ。君は行ってあげないのかい?」
「カナリティアさんのとこ?」
ジューザスの問いにユーリが疑問を返すと、ジューザスは「それもだけど、ユトナのとこだよ」と返事する。直後にユーリの返事が無かったので、ジューザスは自分の言葉を続けた。
「お墓、知らないわけじゃないだろう? 君も一回くらい、彼に顔見せに行ってあげてもいいんじゃないかな」
「……そのうちにな」
穏やかなジューザスの言葉に、ユーリも静かな言葉を返す。ジューザスは寂しげに微笑み、「そのうちに、か」と呟いた。
今は亡きかつての友であり家族でもあった彼の話をすると、そこに痛みを共わないようにするのにはやや無理がある。
だがそれでもその話を静かな気持ちのままに続けられるようになったのは、あの車窓を流れる景色のように時間が経ったからだろうとユーリは思う。
「……いや、今回の事が終わって……したら行くよ」
「そうだね……それがいいんじゃないかな」
カナリティアが彼の死に整理を付けているのなら、自分もそろそろその事実と正面から向き合わなくてはいけないだろう。
何となく考えずに逃げていた死に、自分もまたけじめを付けなくてはいけないとユーリは思った。
「さて、どうしようか。私たち、暇だよね」
「……暇ならやることは一つだろ。寝る」
話題を変えるように言ったジューザスの言葉に、ユーリはベッドに寝転がったままそう返事をする。それを聞いたジューザスが苦笑した直後、部屋のドアがノックされてアーリィたちが再び部屋へと顔を覗かせた。
「あれ、どうしたの? 展望車に行ってたんじゃないのかい?」
開けたドアの隙間から顔を覗かせてこちらを見つめるアーリィにジューザスがそう問うと、アーリィは彼の問いにこう答える。
「ユーリたちも一緒にと思って戻ってきた」
「そうなんですよ。なんかホントに眺めよくて気持ちいいので、ジューザスさんやユーリさんも一緒に行きませんか?」
どうやら彼女たちは一度は展望車に行き、ユーリたちを誘いにこちらに戻ってきたらしい。
「うん、じゃあ私も行ってみようかな」
ジューザスは快く誘いを受け、そして振り返ってベッドに横になるユーリに問いかけた。
「ユーリはどうする? あ、寝るって言ってたね」
「……行く」
むくりと起き上がりながら、ユーリはジューザスにそう返事する。そのユーリにまたジューザスは苦笑し、彼はアーリィたちに「私たちも行くよ」と返事をし直した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
半日歩き回ったところで古代竜どころか通常サイズのヴォ・ルシェにも遭遇せず、その日は日が暮れた為に捜索を中断せざるを得ないこととなったジュラードたち。
彼らは疲労した体を休める為、荒野のど真ん中でその日は野宿をすることを決めた。誰も初日にいきなり目的のドラゴンに遭遇できるとは考えていなかったので、明日また彼らは捜索を続ける気でいた。
「はぁ……でも半日捜索して、まるでドラゴンに出会わなかったってのがやる気無くすわよねー」
気温が下がる夜の空気の中で、焚き火の前で暖を取るローズの胸元でそうマヤが溜息混じりに呟く。
「普段ならむしろ絶対に会いたくないから、幸運なことなのにな……」
「きゅうぅっ」
「そうだな。今回は事情が違うからな」
マヤの言葉を聞いて続けたジュラードの言葉にローズは苦笑 し、「でも明日もあるし、明日からまた頑張ろう」と前向きな事を皆に告げるように呟いた。
「まぁその通りなんだけどね。ドラゴン見つけて目玉くりぬくまでは帰れないからねー」
「……具体的なことを言うとやっぱりえぐいな」
マヤの物騒な発言にやや引きつつ、しかしその通りなんだとジュラードは揺らめく薪の炎を見つめながら思った。
「ユーリたちは大丈夫だろうか……」
揺らめく炎を瞳に映したまま、ジュラードがそう独り言のように呟く。
「そうねぇ……まだあっちは目的地にすら着いてないでしょうけど、どうかしらね」
ジュラードの言葉を聞いてマヤがそう返事をすると、ローズが笑いながら「あいつらなら大丈夫さ」と言った。
「皆強いし、しっかりしてるし」
「……ユーリってしっかりしてたかしら?」
マヤの疑問の声に苦笑しつつ、ローズは「だから大丈夫だろう」とジュラードに言った。
きっとローズは心配していないんじゃなくて、彼らを心から信頼しているからこそそういう言葉を言えるのだろうと、ジュラードは彼女の言葉を聞いて思う。
「……そうだな」
無条件に信頼できる関係の彼らを羨ましく思いながら、ジュラードは彼女の言葉に頷いた。
「さて、明日も大変だし今日はもうそろそろ体を休めないと。うさこも眠いよな」
「きゅいいぃ~……」
ローズがそう言い、眠そうな様子のうさこを毛布に包んであげる。