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神化論 after  作者: ユズリ
君を助けたいから
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君を助けたいから 13

「目的の山に行くには、まずティレニア行きの長距離列車に乗らないといけないね」

 

 アル・アジフの巨大な駅の構内に立つユーリたちは、ジューザスに先導されながらまず目的地に向かう為の列車搭乗を目指す。

 ジューザスは構内の案内板を見ながら、「あぁ、やっぱりティレニア行きの列車、ここからなら出ているね」と安心したように言った。

 

「でも列車で丸四日か……なげぇな」

 

「時間かかっちゃうのは仕方ないですよ、こっからティレニアって遠いし。直接行ける列車があるだけ幸運ですって」

 

「時間もかかるけど、お金もかかるよ」

 

 ユーリの感想に対して意見を述べたアゲハに続き、アーリィがぼそっと重要な問題点を呟く。確かにウネのようにパッと移動出来ない彼らの方は、移動だけで出費がかなりかかりそうな予感がしていた。

 

「ま、でも移動費とかの金はジューザスが出してくれるからいいとして」

 

「いやユーリ、これ学会の方のお金だからね。私からは余計なお金一切出せないよ? 私だってこれから子どもの養育費とか出費目白押しなんだし」

 

 自分を大きな財布として見ている様子のユーリを警戒しつつ、ジューザスは医学研究学会から提供を受けた資金を取り出して中身を確認する。

 

「うん、大丈夫。お金は足りるよ。後は席があるか、早く確認して列車に乗らないとだね」

 

「ですね。次の列車は二時間後に出発で、それが今日の最終だから、これ逃すと出発が明日になっちゃいますからね!」

 

 長距離移動列車なので、日に何本も数多く出ているわけではない。なので一本列車を逃すと、出発が大幅に遅れてしまう。

 あるかどうかもわからないものを捜しに行くのだから、一分でも時間が惜しいユーリたちは、なるべく早くにティレニアへ移動しようと足早に乗車券売り場へと向かった。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『オオオオォォッ!』

 

 そう雄叫びをあげながらこちらへと牙を向けて迫り来るのは、黒い毛並みを靡かせて疾駆する魔獣だ。

 大型の犬と形容するとやや語弊があるかもしれないが、しかしジュラード的にはそう説明するのが一番想像が容易いと思うその魔獣を前に、彼は剣を構えて迎撃の態勢を取る。

 

「っ……」

 

 焦ることも遅れることも、そのどちらも真剣な戦いの場では命取りとなる。的確と思える刹那のタイミングを見誤ることなく行動することが大事なのだと、ジュラードは緊張に高ぶる自分の心にそれを言い聞かせた。

 そうして向かって来た魔獣との距離が縮まり、互いに間合いへと相手を捕らえる直前のその瞬間にジュラードは行動する。強く握り締めた大剣の刃を、飛び掛ってきた魔獣を薙ぎ払うように振るった。

 

『ギャアァッ』

 

 漆黒に塗れた毛と、濁った赤い色が地に落ちる。同時に重い音を鳴らし、人と同程度はありそうな体の大きさの魔獣が大地に横たわるように落ちて倒れた。

 

「……はぁ……」

 

 緊張に自然と止めていた息を吐き出し、ジュラードは剣を下ろす。そうしてたった今自分が倒した魔物を見下ろし、彼は剣に付いた汚れを振るい落とした。

 

「ジュラード、大丈夫か?」

 

 直ぐに背後からそう声をかけられ、ジュラードは振り返る。声の主はローズで、彼女も戦い終わった様子で血に汚れた剣を手に佇んでいた。

 

「あぁ……」

 

「あら、無事じゃないじゃない。足、怪我してるわよ」

 

 返事をしたジュラードに、ローズと共にいるマヤがそう言葉を返す。確かに彼女の指摘通り、ジュラードの足は魔獣と遭遇当初に噛み付かれた為に傷を負っていた。

 

「これくらい……」

 

「何強がってんのよ。これからまだまだ歩くんだから、それで平気なわけないでしょ」

 

 明らかに平気では無いジュラードの傷に、マヤが呆れた様子でそう厳しく指摘する。そして彼女は「ローズに治してもらいなさいよ」と彼に言った。

 

「そうだぞジュラード、無理するのはよくない。大丈夫、そのくらいの怪我ならすぐ治せるから」

 

 ローズはそう言うと、「だから私に任せてくれ」とジュラードに近づく。ジュラードは何か不満げな表情で彼女を見返し、そしてローズが「ちょっと立ったままだと治療しづらいから、そこの岩にでも座ってくれ」と指示すると、表情はそのままに素直に指示に従った。

 そうしてローズがジュラードに治癒魔法を使って傷を治していると、襲い掛かってきた魔獣の残り全てを始末し終えた様子のウネが、うさこを頭に乗せたまま彼らの元へと近づいてくる。

 

「敵は全て片付けたわ」

 

「ありがと。ウネも怪我は……あなたは無いようね。よかったわ」

 

 武器を仕舞い、そう報告するウネを見ながらマヤは怪我の無い彼女に安堵の眼差しを向ける。ついでに戦闘中はウネと共にいたうさこも、怪我などは無く元気に震えていた。

 

 ヴォ・ルシェという種類の古代竜を探しにキエラ荒野にやって来たジュラードたちは、しかしその他この辺りに生息する魔物とは幾度となく遭遇すれど、目的の竜は古代どころか新暦後に生まれたものすら出会わずに捜索がやや難航していた。

 今も魔獣に遭遇して撃退したのだが、先ほどから遭遇するのは今のような魔獣ばかりで、まだドラゴンの気配すら感じていない。しかしこの辺りにヴォ・ルシェがいると言う話なので、彼らはそれを信じてひたすらに荒野を進んでいた。

 

 

「……よし、これで大丈夫かな?」

 

 治癒の術でジュラードの傷を治し終えたローズは、そう言って立ち上がる。彼女は「どうだジュラード、何か違和感とか痛みとかあるか?」と聞き、ジュラードも立ち上がって治った自分の足の感覚を確かめた。

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