表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神化論 after  作者: ユズリ
禍の病
24/494

禍の病 6

「ローズ、あなたは大丈夫ですか? 気分が悪くなったりはしていませんか?」

 

「あ、うん……私は今のところ別に気分悪くはなってないかな……マヤはどうだ?」

 

「アタシも平気よ。って言うかいつも揺れてるし、ここ」

 

「ば、ばか……っ!」

 

 車は土煙を上げながら、景色を次々置き去りにして目的地へと進んで行く。

 

「ここら辺の道は魔物のあまり出ない安全な道ですからもっとゆっくりと走ってもいいのですが、今回は一日でオーラントに向かう為に速度を速めに運転しております」

 

「それにしても、本当にこれは一体どういう仕組みで動いているんだ?」

 

 ローズが興味深そうにそう問うと、マチルダは「通常の列車とさほど原理に変わりはありません」と答える。

 

「エンジンをエネルギーで動かすのがこの乗り物の仕組みです。小型のエンジン開発と燃料の問題の解決でこの乗り物はやっとこうして形になったのです。ちなみに青年の後ろのタンクに予備の液体燃料も積んでいますので、オーラントに向かってもヴァルメールに帰るくらいは余裕です」

 

「機械ってここまで進んでいるんだな……」

 

 旧時代には魔法と共に普通に世界に溢れていたという機械技術は、やはり人々の多くが知る”審判の日”を境に衰退し減少してしまった。その原因の多くは、機械そのものが壊され再生不可能となって廃れたこと以外に、旧時代の機械のほとんどは魔法と同じくマナを物質エネルギーとする特殊な技術によって動かされてことらしい。

 人が再び機械を動かすにはマナに変わる別のエネルギーの確保が課題となり、それが現実問題として解決が大変困難な状況で、その結果に機械技術は”審判の日”から千年以上経っても一般的には低いレベルのままで、旧時代レベルの技術進化にはまだ程遠いのが現状だった。

 だが今自分たちが乗るこの乗り物は、低迷し続けていた機械技術の進化の兆しのようだとローズは感じる。

 

「……そうね。機械に限った事じゃなく、こう形にされたものを見ると世界はやっぱり進んでいってるって実感するわね」

 

 マヤも何か感慨深げにそう呟き、ローズは小さく「これが良い方向に進むといいな」と言った。

 するとローズのその言葉を聞いてか、マチルダは自信に満ちた笑みで前を向きながらこう答える。

 

「それは当然です。僕は機械緒技術は人々の暮らしを豊かに導くために発展すべきだと考えています。だからまだ自由に動ける今のうちに、こうしてあまり交通の便の発達していない場所をいくつもこれで回り、この乗り物の利便性を伝えて回っているのですよ。これがあれば何日もかけて隣の町まで向かうという苦労は無くなります。しかし伝えて普及させなかったら意味が無い」

 

「……案外しっかりした考えの次期社長のようね。正直最初見たときは女好きの変人さんかと思ったんだけど」

 

「これは手厳しいレディですね。僕は女性も機械と同じくらい好きなだけです」

 

 マヤの正直な意見に、マチルダは苦笑する。ローズもマヤと同じような印象を彼に抱いていたので、マチルダとは別の意味で苦笑をもらした。

 ちなみにそんなほのぼのムードの席の後ろでは、ジュラードがついに横になって寝転がって吐き気と孤独に戦っていた。色々可哀想な男である。

 

「……あ、ねぇマチルダさん。あなた今、いろんなところコレで移動して回ってるって言ったわよね?」

 

「はい」

 

 何か気づいた様子でマヤがマチルダに声をかける。ローズがマヤに疑問の眼差しを向けると、マヤはマチルダにこう話を続けた。

 

「あなた、色んなとこ回ってて『禍憑き』って病気について耳にしたことないかしら?」

 

 マヤのこの問いに、ぐったりしていたジュラードが僅かに顔を上げて反応する。ローズも気になる表情でマチルダを見た。

 マチルダは運転を続けながら、少し考えるように沈黙した後口を開く。

 

「あぁ、そのような呪いの噂を聞いた事がありますよ。流行っているわけではないけれども、どうも最近そういう原因不明の禍にかかって体調を崩す人が出てきているとか……」


「!?」

 

 マチルダの返事に、ローズは「本当か?!」と声を上げる。マチルダは「はい」と頷いた。

 

「と言いましても、僕もあくまでそういう噂を耳にした程度です。実際そのような症状の方を目にしたわけではありませんので詳しい事は……」

 

「……その、”禍憑き”になった人が治ったとか、治せるとかそういう話は聞いた事ある?」

 

 マヤが続けて問うと、マチルダはまた考えるように沈黙した後、「いいえ、そういう話は……」と首を横に振った。

 

「ん~……やっぱりジュラードの言うとおり、まだまだ謎な病気ってわけね」

 

「……」

 

 マヤの呟きを聞きながら、ジュラードは何かに耐えるような険しい表情のまま顔を伏せる。

 早く妹を助けたい……再びこみ上げてきた強いその衝動を胸に、彼は自分の助けが間に合う事を何かに祈った。

 

「禍憑きですか……そういえば病気だと言う人もいますね……ん?」

 

 マチルダは前方に何かを見つけたらしく、「ちょっと止めます」と言って突然車を止める。ローズが不思議に思って「どうした?」と聞くと、マチルダは前方の道の真ん中を指差した。

 

「何か障害物のようなものが落ちているようでして……ここは丁度避けて進めるほどの幅の無い細い道なので、危険なので退かしてから進みましょう……全く、一体誰が落としたんだ」

 

 そう文句を言いながらマチルダは車を完全に停車させてから車を降りる。何となくローズも彼と共に車を降りた。そして。

 

「んん? これは……」

 

「これ、障害物って言うか……」

 

「魔物だな」

 

 道のど真ん中に落ちていたと思われた障害物は、なんと魔物だった。しかし半透明に透き通るゼリーのような見た目の水色のその魔物は、つぶらな瞳でローズたちを見つめて怯えるように震えている。

 

「……おい、どうした?」

 

 三人の様子に、ジュラードも車を降りて様子を見に来る。そして彼は道のど真ん中で、三人に囲まれて怯える魔物を見て驚いたように目を丸くした。

 

「ま、魔物か!」

 

「そうだけど、これは特にこれといって害の無い”ゼラチンうさぎ”だよ」

 

 マチルダが落ち着いて答える通り、道の真ん中で震えていたのは見た目がゼリー状のウサギのような奇妙だが愛嬌ある姿の魔物で、大きさも最大でも体長は三十センチメートルほどにしかならない。さらに基本的に非常に臆病な為に、人を襲うことはしない存在だ。

 今四人の前で怯えたようにプルプル震えるその魔物も、二十五センチメートルほどの大きさで、ウサギの耳に似た頭の鉄片の二つのでっぱりを震えるように揺らしながらただひたすら彼らを見上げている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ