君を助けたいから 5
アゲハはやたら自分に対して『お姉さん』と主張してきたが、アーリィは『保護者』として張り切っているようだった。イリスも別行動になってしまったし、彼の代わりに自分が頑張ると言う意味なのだろうか。
「お、大人って……」
「大丈夫、こう見えて私は六百歳以上だから。ちょっと昔に記憶の改ざんとか色々あって曖昧になってるから正確にはわからないけど、とりあえずアゲハいわく『超オトナ』だから」
「ろっ……!」
それはもう大人というより老人じゃないかとそう思ったジュラードだったが、しかしどことなく『保護者』として張り切っている様子のアーリィを見るとそうは言えないのだった。
「さぁジュラード、ついてきて」
「え、ついてきてって……道具屋の場所、知らないんじゃないのか?」
「知らないけど大丈夫だから」
「一体何が大丈夫なんだ?!」
なんだかわからないが自分の服を引っ張ってぐいぐいと先に進もうとするアーリィに、ジュラードはただただ不安になりつつ従う。
「あ、手繋ぐ?」
「いい、そんなことしない! そこまで子どもじゃないし!」
「そう? 遠慮しないでもいいのに……私、ミレイとよく手を繋いで街の中歩くし」
「だから俺はそこまで子どもじゃないから!」
そんなふうに真顔で妙なことを言うアーリィのテンションとマイペースさに振り回されつつ、ジュラードは彼女と並んで改めて道具屋を探しに街中を進んだ。
「ジュラードは知らないだろうけど、マヤなんて私以上にオトナなんだから。もう千年くらい生きてるすごい人なんだからね」
「せん!? それってまさか『審判の日』以前の生まれ!? いや、まさか!」
「まさかだよ。すごいんだから」
「……それってもうなんていうか……おばあちゃんとかじゃなくて、生きる伝説的な……」
意外にも会話が弾んで、ジュラードがそんな会話をしながらアーリィと進んでいると、ふと彼の視界に道具屋らしき店の看板が目に入る。
「あ、あそこが道具屋じゃないか?」
ジュラードがそう言って店の看板を指差すと、アーリィもそちらに視線を向けて「そうみたい」と頷いた。
「あぁ、よかった。正直どうなるかと思ってたけど、どうにか店は見つけられたな。本当によかった」
「そう? 私はそんな心配してなかったけど……何となく見つけられる気がしてたし」
「……そう、か」
どこまでもマイペースなアーリィの様子に、『ユーリは彼女と一緒で疲れないのかなぁ』と真剣に思いながら、ジュラードは道具屋の看板がかかる店に向かって歩き出した。
その頃ジュラードに心配されたユーリは、ローズたちと共に重い荷物を持ちながら、こちらも目的とする店に向けて歩いていた。
「おいローズ、それ重いだろ。俺が持つよ」
「え?」
自分の武器とアゲハの分の武器を持っていたローズに、ユーリがそう声をかけてくる。ローズが不思議そうな顔で彼を見返すと、ユーリは荷物を持ちながらも器用にローズの大剣を指差した。
「それ」
「え、あ、これか? いや、いいよ。別にそんなに重くないし」
ハルファスが力を貸してくれているので、背丈以上ある大剣を背負っていていてもそんなに重いとは感じないローズは、ユーリに遠慮するようにそう返事を返す。だがユーリは「いいから」と言って、自分に渡すように催促した。
「いーんじゃない? 持ってくれるって言うんだし持たせれば」
マヤがそんなことを言うと、ローズは「でも」と迷う表情を見せる。するとユーリがこう続けた。
「ハルファスの力は戦闘ん時にとっとけよ。その力も無制限ってわけじゃねぇんだろ?」
「あ、あぁ……でもお前が大変だろう」
ユーリはジュラードの大剣を背負っているし、いくつか他の荷物も持っている。だがユーリは苦い表情で笑い、「へーきだって」と言った。
「つーかぶっちゃけアレなんだよ、さっきからすれ違う人がお前んとこ見て驚いた顔しててよぉ……」
「え? そうなのか?」
ユーリの言う視線に全く気づいていなかったローズ自身は、きょとんと目を丸くしながらユーリの話を聞く。
「お前が荷物持ってる上に、涼しい顔で馬鹿でけぇ剣背負ってるのが多分原因なんだよ……わかるだろ? お前今、見た目はふつーの女性なんだし」
『女性』なのだと、そう言ったユーリには深い意味は無かったのだろう。だがユーリにそれを指摘されたローズは、不意に心に痛みを感じた。
たぶんそれは、指摘したのが彼だったからだと思う。”アリア”を知らず、かつての自分だけを知る彼だから……。
「だから悪目立ちするし、隣に歩いてる俺がお前にそれ持たせて歩いてるみたいに見られるのも嫌だし、そーいうわけだから俺にそれ預け……って、どうしたローズ?」
気づいたら足を止めてしまっていたローズに、ユーリもまた足を止めて不思議そうな顔で問う。マヤもローズを心配そうな眼差しで見上げ、「ローズ?」と声をかけた。
「おいローズ、どした?」
「……別に」
「? 何ローズ、なんか怒ってる?」
「いや……怒ってない」
急に表情と態度が不機嫌そうなものになったローズに、ユーリが少し驚きながら声をかける。だがローズは明らかに機嫌悪そうな顔をしながらも、素直な感情を彼に伝えようとはしなかった。
「嘘だ、なんか怒ってるだろ、お前」
「しつこいぞ。怒ってないって言ってるだろう」
「えー?」
追求されることに対しても苛立つ様子を見せるローズに、ユーリはわけがわからないと言った顔でマヤを見る。そうしてユーリにヘルプの視線を向けられた彼女は、再び何事も無かったかのように歩き出そうとしたローズにこう声をかけた。
「そうね、ローズは怒ってはいないみたいね」
「え?」
マヤの言葉に驚きの声をあげたのはローズだ。彼女はまた足を止めて、胸元のマヤに視線を向けた。するとマヤは彼女を見上げながら、ひどく優しい眼差しでこう言葉を続ける。
「ねぇローズ、アタシとあなたって今は一心同体みたいなもんじゃない? だからって心が読めるわけじゃないんだけど、でも……何となくは伝わるのよ」
「……」
驚いたように目を丸くするローズに、マヤは優しく微笑む。そして彼女はユーリを見た。
「なんかローズってば、悲しいみたいよ」
「へ? 悲しい?」
マヤの言葉にユーリがまたローズを見る。彼の視線は『何で?』と、そう疑問を問うていた。その視線を受けて、マヤの指摘もあってか、ローズはなんだか急に物凄く恥ずかしいと感じる。
子どもっぽい感情が制御できなくて、それが態度に出てしまった後悔をしつつ、ローズは俯きながら渋々口を開いた。
「……だって、お前は違うから」
「え、何が?」
唐突なローズの言葉に、ユーリはますます首を傾げる。ローズは小さく溜息を吐き、言葉を続けた。