君を助けたいから 3
「でも本当にいいんですか、ジューザスさん。エレスティンさん、もう直ぐ赤ちゃん生まれるんですよね? 傍にいてあげなくて大丈夫なんですか?」
「うっ……」
アゲハに痛い指摘をされ、ジューザスは一瞬表情を歪める。
正直ジューザスの気持ち的にそこは全く大丈夫では無いが、しかし……
「……エレも理解してくれるだろうからね。傍にいてあげたいけど、彼女にこういう事情だって話せばきっと『協力してあげて』って言うだろうし」
「わぁ……エレスティンさんもジューザスさんも、お互いの事理解して信頼してるって感じで素敵です!」
「ははは……」
ジューザスの言葉に目を輝かせたアゲハに、ジューザスは苦笑を返すしかなく力無く笑った。
「まぁでも怪我しないようにはしないとね。そこで彼女や子どもに心配かけるわけにはいかないし」
「だよな。お前そんなんでも一応パパなんだし」
「そ、そんなんでもって言わないでくれ」
ユーリの意地悪な言葉に悲しそうな顔で言葉を返し、ジューザスは「と、まぁ私からの話はこれくらいかな」と言った。
「グラスドールがあるかもって場所の詳しい話もしといた方がいいかな? それより先に君たちが今後どうするかという話を聞きたい気もするんだけど」
「あぁ、そうね。アタシたちの予定も聞いておきたいわよね」
ジューザスの話を聞き、マヤがそう納得した様子で返事する。ローズも理解した様子で口を開いた。
「予定か……実はとりあえずそっちの情報待ちということで明確には決めていなかったが、この状況だとやはり材料を入手するために動く事になるだろうな」
ローズが考える表情でそう言うと、ジューザスは「やはりそうだろうね」と頷く。
「しかしまだ移動手段などは全然考えていないんだ。これからそういう話をしたい、と言うのがこっちの現状だな」
「そうか。なら丁度いい、私も協力すると決めたのだから、その話に参加させてくれ」
ジューザスがそう言うと、ローズは「あぁ」と頷く。そうして彼らは今後どうするかを詳細に話し合うことにした。
応接室での話し合いで一時間ほど経った頃、今後の予定が大体決まる。
「えっと、それじゃ確認なんだが……」
纏まった話を確認する為に、そうローズが口を開く。彼女は今自分たちが決めた事を改めて皆に説明するように告げた。
「古代竜の捜索と瞳の入手と、グラスドールの捜索に別れることが決まったわけだが」
ローズは紙にメモした内容を確認しながら説明を続ける。
「私とマヤとジュラードとウネは古代竜を探しに行って、ユーリとアーリィとジューザスとアゲハはグラスドールを探しに行く、と」
「きゅいいぃ~」
ローズに名前を呼ばれなかったうさこが自分をアピールするように鳴くと、ローズは「あぁ、勿論うさこは私たちと一緒だ」とうさこに声をかける。それを聞いてうさこは安心したようにまた「きゅうぅ」と鳴いた。
「で、アタシたちの方の移動は便利なウネ……いえ、ウネがどうにかしてくれるからいいとして」
完全にウネを便利な移動手段と見なしているマヤの発言に、しかしウネは特に何も文句は言わずに黙って小さく頷く。
「俺らはどーすんだ?」
ユーリのその疑問の言葉に、マヤはジューザスの方を見た。
「ジューザスがなんとかしてくれるわよね」
「……相変わらず無茶を振ってくるよね」
可愛い笑顔で容赦なく無茶を要求するマヤに、ジューザスは苦い顔をしながらも「どうしてもと言うなら、何とかしよう」と言った。
「さすがジューザスね! 頼もしい返事だわ!」
「……うん、褒めてくれてありがとう」
なんだか腑に落ちない様子のジューザスを無視して、マヤはユーリに向き合った。
「そんなわけであんたらの方は頼りになるジューザスがどうにかしてくれるって。安心しなさい」
「……安心できねぇ感じだけど、まぁわかった」
マヤに無茶を言われたあげくにユーリに『安心できない』と言われたジューザスは悲しそうな顔をしたが、しかし誰もそんな彼を気にかけることなく話は進む。
「離れて捜索となると、連絡取れなくなるのが困るな」
「確かにな」
ローズの心配にジュラードが頷き、マヤが「なら」と口を開く。
「捜索の期間を設けて、その時になったら成果の有る無しに関係なく一旦ここにまた集まるってのはどう?」
「ここか? お前ら一瞬で移動できるんだから、どうせならもっと俺らの捜索地に近いとこを集合場所にしろよ」
マヤの案にユーリがそう意見すると、すかさずジューザスが「ならやっぱり、ユーリたちのお店はどうだい?」と言った。
「わかりやすいし、こっちが探しに行く場所からそう遠いわけでもないし」
「そうね。そっちがそれでいいなら、こっちは全然文句は無いわよ」
「あぁ、だな」
ジューザスの言葉にマヤとローズがそれぞれ頷くと、ユーリも特に文句は無いようで「んじゃ、それでよろしく」と言った。
「で、次はそれぞれに行く場所の確認だが……」
ローズはテーブルの上の地図に視線を落とし、「私たちはこの辺だな」と言って地図の一箇所を指差した。
「ここだな、キエラ荒野。ここからそう遠くは無いが、ここに居なかったら他の場所も探しにいく予定だ」
「私たちはボーダ大陸だね。まずはこの辺りを探そうかと思ってるけど……」
ローズに続けてジューザスも地図を指差す。彼はボーダ大陸の中央付近を示した。
「この辺りの山脈をまずは探すよ。ここは最近マナが一層濃くなっているという話も聞くから、可能性が高いだろうし」
ジューザスは他にも捜索場所の候補を記憶しているらしく、「ここになかったら、こっちにも行ってみようと思ってるよ」と他にも地図上の場所を示した。
そうしてそれぞれの今後の予定が大体把握し終えると、一旦また解散ということになる。
「私は今話した事を会長に説明しないといけないから、その後にでもまた君たちに合流させてもらうよ」
テーブルの上の資料を纏めながらそう言ったジューザスに、マヤが「わかったわ」と返事をする。
「じゃあ私たちは……」
自分たちはそれまでどこでどう待機していようと考えたローズがそう口を開くと、マヤが「フェイリスの家にいればいいんじゃない?」と言った。
「いや、フェイリスがいないんだからそれはまずいだろ……大体私たちは彼女に迷惑をかけすぎだ」
「俺もそう思う」
ローズの苦い言葉にジュラードも同意したが、何か大切なところで常識が抜け落ちているマヤは「大丈夫よ」と笑う。
「だって彼女はアタシの忠実なしも……気の合う素敵な友人だからねー!」
「おい、今しもべって言おうとしたよな、あいつ」
「……多分」
口を滑らしそうになったマヤにユーリとローズが小声で何かを囁きあったが、マヤは聞えないフリでそれを無視した。
「つーわけで彼女の家にまた押しかけ……」
「だ、だめだろう。大体彼女の家は鍵かかってるし行っても入れないだろうし」
ジュラードのもっともなツッコミにマヤは「チッ」と小さく舌打ちし、ジューザスにこう言った。
「仕方ない……アタシらはそこら辺で適当に時間潰してるわ」
「わかった。じゃあ午後の五時頃にここでまた再会と言う事で」
「りょーかい」
マヤが返事し、ジュラードやローズもそれぞれに頷いたのを確認して、ジューザスは立ち上がる。
そうして一旦話はお開きとなった。




