君を助けたいから 2
「でも私がその後また笑えるようになったのは、傍にいてくれた人のお陰だから。リリンちゃんが笑えるようになったのも、ジュラードが傍にいてくれたからだろう」
「……そう、思うか?」
自然と問うたジュラードの言葉に、ローズは笑顔で頷く。
「だってジュラードは彼女のお兄ちゃんじゃないか。肉親が傍にいてくれることほど、勇気付けられることは無いと思うぞ」
「……」
また励まされたと、そう思った時には自然と顔が熱くなっていた。
ジュラードは嬉しくて照れてしまった自分のその表情を隠すように、無言で俯く。
そんなジュラードの様子を再び心配してローズが「ジュラード?」と声をかけたが、結局ジュラードは顔を上げられなかった。
「……どうした? まさか今度こそ具合悪くなったか?」
「ち、ちが……いいんだ、俺のことはほっとけ」
「そんな、ほっとけるわけないだろ。ジュラード、何か他に悩みとかあるなら私に相談してくれ」
「いや、だから……」
ちょっと迷惑なくらいお節介なローズにジュラードが困っていると、応接室のドアがノックされる。そしてローズの意識がそちらに向き、ジュラードは『よかった』と密かに安堵した。
「失礼するよ」
ドアを開けて待っていたジューザスが姿を見せ、ユーリが彼に開口一番「おせーよ」と文句を言う。勿論本気で文句を言ってるわけではないのはユーリの態度からわかるので、ジューザスは小さく苦笑しながら「すまないね」と言った。
「ジューザスさん、こんにちは!」
「あれ、アゲハじゃないか」
ジューザスが部屋に入ってくると、アゲハが立ち上がって元気に彼に挨拶をする。ジューザスは少し驚いた様子で彼女を見ながら、「君もローズ君たちに協力しているんだ?」と聞いた。
「はい、私もお手伝いできる事があればしたいなって思いまして」
「ははは、君らしいね」
人助けをしたいという気持ちに関してはいつもぶれないアゲハの姿を微笑ましいと笑いながら、ジューザスはテーブルの上に資料を置いて空いている席に腰掛ける。アゲハも座り、早速ジューザスはジュラードたちに話を始めた。
「それで、調べていた薬の材料のことなんだけどね」
ジューザスはテーブルに広げた資料を眺めながらそう言い、そして資料の一枚を手にとって視線を落とす。
「フラメジュとグラスドールね」
「そうそう。いや、やっぱり調べるのは大変だったよ」
マヤの言葉に頷きながらジューザスがそう言うと、マヤは彼の言葉のニュアンスから「と言う事は、大変だけど何か手がかりはつかめたのかしら?」と聞いた。そしてそれにジューザスは苦笑する。
「あー……一応ね。でもグラスドールに関しては確定的な情報がまだ入手出来てないから、先にフラメジュに関して説明するよ」
ジューザスはそう言うと地図を広げてみせる。
「結論から言うとね、どうもフラメジュはここら辺にならあるみたいだよ」
ジューザスがそう言いながら指差したのは、ボーダ大陸の南西の方向。
「あるのか?」
「うん。でも貴重な植物だから国で保護されててね。研究目的でどうにか入手出来ないかって、今会長が色々知り合いを通じて掛け合ってくれているんだ」
ジュラードの驚きの声に頷いたジューザスは、「でも、あるにはあるから大丈夫だよ」と彼を安心させるように言った。
ジューザスの言葉に安堵したように、ジュラードは深く息を吐く。
「そうね。あるならどうにかなるわね。最悪実力行使で違法に入手、とか……」
「……マヤ、君はどうしていつもそう犯罪思考なんだい」
穏便に事を進めたい派のジューザスは、マヤの物騒な台詞に困った表情を返す。するとマヤは「あら、冗談よ」と、冗談なのかどうなのか微妙な笑顔で言葉を返した。
「まぁ、冗談だって信じてるけどね。……そういうわけで、フラメジュはもう少し時間がかかるかもしれないけど手に入れられるかも、という報告だよ」
「かも、ね……ホントに大丈夫なのかしら?」
マヤの呟きにジューザスは苦笑しながら「さぁ」と返事する。
「会長さんが頑張ってくれてるから、とりあえず信じよう」
「そうだな」
ジューザスの言葉にローズが頷くと、ジューザスは「で、次だけど」ともう一つの材料について話を始めた。
「グラスドールなんだけど、こっちは確実に『ある』という情報が入ってこなくてね」
ジューザスは少し険しい表情を見せながら、そうジュラードたちに報告をする。
「やっぱり絶滅したかもって植物だもんね……難しいか」
マヤが悩む表情でそう呟くと、ジュラードも思わず不安げな表情となってしまう。だが諦めたくはないし、マヤもジューザスもそのつもりは無いようだった。
「でも探せばもしかしたらっていう場所はいくつかピックアップしたんだ。かつてはそこに自生していたらしくて、どこもマナも平均より濃い地域だから、可能性は無くは無いって」
「う~ん……望み薄な話だけど、まぁ全く当てがないよりはマシなのかしらね」
腕を組みながら考えるようにそう呟くマヤに続けて、ユーリが「そんじゃそこ行って探すのか?」とジューザスに聞く。ジューザスは苦い顔で頷いた。
「今のところはそれしか、グラスドールを手に入れる方法は無くてね」
「めんどくせぇな……けどしょうがねぇか」
ユーリもまた苦い表情を見せたが、「それしかねぇなら、それやるしかねぇもんな」と自分を納得させるように言う。
「つーことは、ドラゴンも探しに行かなきゃいけねぇから……」
「人数も多いし、やっぱ二手に分かれて探すとかした方がいいわね」
ユーリの言葉に続けて、マヤがそう提案する。ローズも「そうだな」と理解したように頷いた。
「そうだね。そうなった場合は私もお手伝いするよ。あまり荒事は得意じゃないけどね」
「え、ジューザスもか?」
ジューザスの発言にローズが驚いた様子で彼を見ると、ジューザスは笑って「だって人手は多い方がいいんだろう?」と言う。
「それはそうだが……ジューザスにも用事があるんじゃなのか?」
「心配してくれてありがとう。でも私の用事はさっさと済ませたからね。ロンゾヴェルさんも君たちに協力してと言ってくれたし」
「そうなのか」
納得したローズに続けて、ジュラードが「ありがとう」と礼を言う。ジューザスは彼を見て笑み、「気にしないでくれ」と返した。