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神化論 after  作者: ユズリ
救済の方法
230/494

救済の方法 44

「あ、ユーリっ」

 

 室内に戻っていたはずのユーリがいつの間にか戻ってきていて、エルミラは勿論ジュラードも彼の存在にひどく驚きの反応を見せる。

 

「なんでここに……か、髪の毛洗いに行ってたはずじゃ……」

 

 みるみる青ざめた顔色になるエルミラがそうユーリに問うと、ユーリは不気味な笑みを彼に向けながらこう答えた。

 

「性格悪ぃけど親切なお兄さんが俺に教えてくれてなぁ? うちの嫁の裸覗こうとしてるけしからん奴がここにいるってな」

 

「な、レイリスのやつ、罠に嵌めたなっ」

 

 ユーリの言葉にエルミラがイリスの方を睨むと、イリスは余裕の笑顔で湯に浸かりながら彼に手を振っていた。

 イリスが彼を罠に嵌めたのかどうかはわからないが、とにかく彼の密告のせいでエルミラがピンチな状況なのは間違いない。

 

「で、エルミラ、覚悟は出来てるよな?」

 

 笑顔が逆に怖いユーリにそんな事を聞かれ、エルミラは蒼白な顔色のまま首を横に振った。

 

「どちらかと言えば覚悟は出来てないです!」

 

「そうか、じゃあ今覚悟しろ。……とおっ!」

 

 ユーリはそう言うと、エルミラの足場となっていた積み上げられた桶を蹴って破壊する。途端にエルミラは足場を失い、「ぎゃああぁ!」と痛々しい悲鳴を上げながら無残に冷たく硬い床の上に落下した。

 

「いたいいたいいたいっ!」

 

 床の上に転がったエルミラは、涙目になってそう落下の痛みを叫ぶ。確かにすごく痛そうだと見ていたジュラードは思ったが、素直にエルミラに同情することは出来なかった。

 

「で、なに? まさかお前も覗きしようとしてたわけ?」

 

 ユーリの視線が自分に向けられ、ジュラードは慌てて首を横に振る。

 

「まさか! 俺はただエルミラに手伝えって言われただけだ!」

 

「つまり手伝いはしたんだ?」

 

「あっ、いや……でも俺はやめた方がいいって言ったんだ! 信じてくれ!」

 

 ジュラードがそう必死に自分の無実を訴えると、ユーリは笑って「冗談だよ」と彼に言う。それを聞き、ジュラードは本当に心から安堵した。

 

「ひどーい、ジュラードだって覗きたいって言ってたじゃんー嘘つきー」

 

「嘘つきはどっちだ! そんなこと言ってたのはお前だけだ!」

 

 未だ床に転がっているエルミラの巻き込まんとするコメントを全力で否定し、ジュラードは呆れた様子で溜息を吐く。

 

「全く……だから止めとけって言ったんだ」

 

「うぅ……なんでオレだけこんな目にぃ……納得いかな~い……」

 

 涙目でそう呟くエルミラだったが、この場の誰も彼に同情はしなかった。

 

 

 

 

 その頃の女湯では。

 

「……なんかお隣、今騒がしくなかったですか?」

 

 何か大きな音や話し声が聞えた隣の男湯を気にして、そうアゲハが呟くように言う。それに対してアーリィは「確かに騒がしかった」と頷いた。

 

「何してるんでしょう? 隣……」

 

 たった今覗きされそうになっていたのに、そんな危機になど気づかないアゲハは首を傾げる。そしてそれはアーリィたちも同じで、アーリィもミレイも、そして水入りの桶の中に入って水遊びしているうさこも揃って首を傾げた。

 

「はっ! みれいわかった!」

 

「どうしたの?」

 

 何か閃いた様子のミレイに、アーリィが声をかける。するとミレイはこんな事を言った。

 

「きっとあほの赤毛がおねえちゃんやうさこのこと、のぞきしようとしてたんだよ! あいつならやりかねない、だもん!」

 

 うさこは対象に含まれていたのかは謎だが、ずばり正解を答えたミレイ。一応ミレイの”マスター”は彼なので、マスターのしようとしてた事が何となく彼女にも伝わったのかもしれない。

 

「え、でもまさか……エルミラさんはそんなことしない人だと思うけど……」

 

「どうだろう。ユーリは『ローズ以外の男はケダモノと思って警戒した方がいい』って言ってたし……そうなのかも」

 

「きゅ、きゅいいぃ~」

 

 何故か常に裸状態であろううさこが誰よりも『覗き』に怯えた反応を見せ、ぶるぶると桶の中で震え始める。そんなうさこを見て、ミレイは励ますようにこう声をかけた。

 

「だいじょうぶだよ、うさこ。もし赤毛がそんなことしたら、そくみれいがおしおきにれーざーぶちこんでしずめてやるんだから」

 

 もしエルミラが覗きを決行していたら、彼はミレイのレーザーを受けて(永遠に)湯船に沈んでいたかもしれない……。

 そんなことなど知らないエルミラは相変わらず隣の風呂で床の上に転がって泣いていたが、ミレイたちもそんなことなど知らずにこの後もゆっくりまったり露天風呂を満喫したのだった。





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