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神化論 after  作者: ユズリ
救済の方法
228/494

救済の方法 42

 ジュラードが全力で拒否すると、イリスも面白がってか「私が三つ編みに結ってあげようか?」と笑いながら彼に声をかける。

 

「せ、先生まで俺をからかって!」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 ジュラードがふて腐れたような顔をすると、イリスは苦笑しながら謝る。そして彼は「それじゃお先に」と言って、浴場へ向かった。

 そして脱衣所にはジュラードとエルミラが残される。

 

「ポ・ニ・イ! ポ・ニ・イ!」

 

「お前、まだそれ言うか……っ」

 

 しつこいエルミラにジュラードがややキレ顔となると、すかさずエルミラは真面目な顔になってこう彼に言った。

 

「でも真面目な話、ジュラードは公共のお風呂でマナーを守れないなんてダメダメだと思うよ?」

 

「うっ……」

 

「全く……君はレイチェルと同い年なんだろ? レイチェルはちゃんと長い襟足にかかる分の髪を束ねて入ってたって言うのに……」

 

「っ……」

 

「こんな簡単なルールを守れない子だなんて……情けないなぁ、ジュラードは」

 

 溜息まで吐かれてエルミラにそんなことを言われたジュラードは、やや涙目になってついにヤケクソ気味に「ポニーにすればいいんだろ! ポニーに!」と叫んだ。

 

 

 

 

 ジュラードが泣く泣くポニーテールにして浴場へ向かうと、室内風呂には人の姿は無かった。

 皆で露店の風呂に行っているのかとジュラードが思い、彼も体を軽く洗って露店風呂に向かうと、案の定そこで皆は体を温めていた。

 

「あ、ジュラードホントにポニーにしてくれた。……ぶはっ!」

 

「エルミラ……お前……」

 

「ごめん、つい笑っちゃった。可愛いじゃん……ぶふうっ!」

 

「……」

 

 自分を見るや否や早速笑ったエルミラを睨みつけ、ジュラードも湯に体を浸ける。野外の冷えた空気で強張った体を癒す温かい熱に、途端に体の緊張が解れるのを感じた。

 

「……ねぇエル兄、何やってんの?」

 

 ジュラードが心地よい熱に浸って癒されていると、傍でレイチェルがエルミラにそう声をかけるのが聞える。

 気持ちよくて目を閉じていたジュラードが思わず目を開け、レイチェルの視線の先を追うと、そこには確かに『何してるの?』と問いたくなるようなエルミラの姿があ った。

 エルミラは何か目を細め、浴槽内を湯に浸かったままゆっくり後退る謎の行動を取る。それをレイチェルが胡散臭そうな目でじっと見ていた。

 

「エル兄?」

 

「……いや、こうやって目を細めてみれば湯気でぼんやりすることもあって、レイリスが見方によっちゃ一緒に湯船に浸かる女性に見えなくも無くてこう、混浴気分を味わえるかなぁ~と……」

 

 エルミラが薄目でじっと見ていたのは、少し離れて湯に浸かっていたイリスらしい。だがエルミラのアホ発言は彼にも聞えていたらしく、「バカらし……」とイリスは溜息を吐きながら呆れた様子で呟いた。

 

「そんなくだらない事して……あなたって童貞ってわけじゃないんでしょ? なのに発想がソレだよね」


 どきついイリスの一言に、しかしエルミラは全く意に介さずに「男なんてみんな発想はそんなもんでしょ?」と言い返す。

 

「健全な年頃の男子はそーでしょ。まぁレイリスはアブノーマルな特殊性癖持ちだからわからないだろうけど?」

 

「誰が特殊だよ、誰が。湯船の底に永遠に沈められたい?」

 

「ゴメンナサイ」

 

 イリスに怖い顔で睨まれ、エルミラはあっさり彼に謝罪する。そんなヘタレなエルミラは、しかしめげずに同じ話題を今度はジュラードに振った。

 

「でもさぁ、やっぱ男って発想はだいたいこんなもんでしょ? ねぇ、ジュラード」

 

「な、なんで俺に聞くんだ!」

 

 動揺するジュラードに、エルミラは「だってジュラードってドンピシャで年頃な男の子じゃん」と言う。

 

「な、ならレイチェルに聞けばいいだろ! 同い年なんだし!」

 

「僕!?」

 

「え、レイチェルはダメ。まだそういうの早い」

 

「同い年なのに?! おかしいだろ、それ!」

 

「いいの、オレルールです」

 

 過保護な兄はそう言ってレイチェルのことは庇い、ジュラードだけをターゲットに「で、どうなんだよ」と迫った。

 しかし強面な見た目に反して意外とシャイな男・ジュラードなので、そんなことを聞かれても答えられるわけがない。

 

「し、知らない!」

 

「……へぇー、ジュラードって意外と純情な男の子なんだね」

 

 大袈裟に反応してしまうと、エルミラが嫌な笑みを見せながらそんなことを言う。ジュラードは不機嫌そうに彼から顔を背けた。

 

「エルミラ、ジュラード苛めたら私が許さないよ? 浴槽を血色に染めたい?」

 

「ゴメンナサイ」

 

 イリスに声をかけられ、エルミラはあっさりとジュラードをからかうのを止める。すると今度は彼はユーリに話を振った。

 

「なぁ、ユーリはオレの話に納得してくれるよねー?」

 

「なんでだよ」

 

 珍しく今まで大人しく湯に浸かっていたユーリが、急にエルミラに同意を求められて怪訝な眼差しを返す。

 

「なんでだよって……ユーリだったら絶対理解してくれると思ったのに」

 

 ユーリの反応に不満げな様子でそう呟いたエルミラに、ユーリは何故か余裕ある表情でこう彼に言葉を返した。

 

「残念だが俺は大人だからな。そんなガキみたいな発想はしないんだよ」

 

「……」

 

 『前回の風呂屋ではまさにエルミラみたいなことを一番強く主張していたくせに……』と、ユーリの発言を聞いたジュラードたちは心の中でそう思った。

 

 やがてしばらくしてユーリは「髪洗ってくるか」と言って立ち上がり、一人露天風呂を後にする。そうして露天風呂にはユーリを除く四人が残された。

 ユーリがいなくなってまたしばらくして、エルミラがさっきのユーリの態度に納得いかなそうな様子でこんなことをぼやく。

 

「でもさっきのユーリのオトナ発言はやっぱ納得いかないなー。絶対ユーリはオレと同じタイプだと思ったのに」

 

「なんだ、同じタイプって」

 

 ジュラードのツッコミに、エルミラは「ごくごくふつーの男の子タイプだよ」と答える。だがジュラードはさっぱり理解できなかった。

 

「ってゆーかエル兄は混浴のお風呂に入りたいの?」

 

 レイチェルに問われ、エルミラは「まぁ」と頷く。

 

「だってさぁ、女の子ってお風呂じゃ色気五割増しだって噂に聞いたから。どんなものか見てみたいじゃん」

 

「……サイテー」

 

「ケダモノめ」

 

 それぞれレイチェル、ジュラードに非難の言葉を浴びせられ、エルミラはやや動揺した様子で「な、なんだよ!」と言った。

 

「オレは聞かれたから素直に答えただけなのに!」

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