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神化論 after  作者: ユズリ
救済の方法
226/494

救済の方法 40

「えっとですね、だから私の中でレイリスさんはすごく憧れだったんです……」

 

 その一言の後に、またしょんぼりとした顔で肩を落とすアゲハ。このコロコロと表情の変わる彼女の姿を見て、確かに彼女に『感情を表に出さない』という行為は不可能に近いなと皆は思った。

 しょんぼりするアゲハを前に皆が沈黙する中、どう第一声を発したらいいのか各々迷う中で、ユーリがイリスを見ながらこう口を開く。

 

「おい、お前はこんなごくフツーの女の子の前でなんつーことしてんだよ。つかジューザスの野郎も何考えてお前となんて任務に行かせたんだよ、あいつは馬鹿か」

 

「ち、違うよ。私だってアゲハ連れて危ない事はしないようにっていつも配慮してたよ。だから彼女が言った話の時もそんなことする予定なんてなかったけど、アゲハがちょっとドジって潜入がばれちゃったから、どうせ悪い組織だし顔知られた奴らを始末しても何も問題は無いからそうしようってことで……」

 

「うわサイテー、アゲハのせいにするのかよ」

 

「え、あ、そんなつもりじゃ……っ」

 

 もうどう弁解したらいいのかわからないイリスは、ユーリに責められて困り切った様子でうな垂れる。

 そして嫌な空気が流れる中、この人物が口を開いた。

 

「アゲハさん、何故あなたはそんなに落ち込むのですか?」

 

 アゲハにそう声をかけたのはラプラだ。なにか彼が口を開くと嫌な予感しかしないのはイリスだけじゃないだろう。

 不思議とユーリやエルミラもハラハラする中、ラプラは落ち込むアゲハにこう声をかけた。

 

「あなたが憧れたのは、レイリスの戦う姿なのでしょう? 性別なんてどうでもいいじゃありませんか」

 

 ラプラが言うと別の意味になる『性別なんてどうでもいい』発言に、アゲハは何かハッとした様子となる。

 

「いわばレイリスそのものに惹かれたのでしょう。彼は今も昔も男です。あなたが思い込みで勘違いしていただけで。ですからあなたにとって性別という括りは、それほど重要な意味は無いのですよ」

 

「……そっか。そうなのかもしれないです」

 

 あっさり納得しちゃったアゲハに、思わずエルミラが「それでいいの?!」と叫ぶ。だがすっかり暗い表情を消したアゲハは、「うん、いいんですよ!」と力強い表情で頷いた。

 

「よく考えたら、確かにラプラさんの言うとおりですね。私は目指すもの的にそっちの方が都合がいいから勝手にそう思い込んでただけで、レイリスさんは男の人だったんですよね。でも今もあのときのレイリスさんは確かに私の目標なんです。その気持ちは変わりません!」

 

「いや、それは目標変えたほうがいいんじゃねーかなー……改めた方がいい気持ちってのはあると思うけどなー、俺」

 

 ユーリの正しいアドバイスの声は、即効で立ち直ったアゲハの耳には届かない。と言うか、こんなに人に影響されやすいシノビってどうなんだろうと、イリスやエルミラはそれを本気で心配し始めた。アゲハの将来の為に。

 そしてすっかりまたいつも通り元気になったアゲハは、イリスに向き直ってこう言う。

 

「レイリスさん、私これからもレイリスさんを目標にします! これからも頑張ります!」

 

「……うん」

 

 『あなたの人生の為にその目標は今すぐやめたほうがいい』と、その一言が言えないイリスだった。

 そうして未来ある若者の将来に危険な道筋を立ててしまった後、再び話は風呂についてになる。

 

「えー、でもさぁ、ホントにレイリスお風呂行かないのー?」

 

「だってなんかトラブル起きたら嫌じゃん」

 

「僕が大丈夫だから、レイリスさんも大丈夫だと思うけど。それに今って時間的に遅いから、そんなに人もいないだろうしさ」

 

「う~ん……そうかな……」

 

 エルミラやレイチェルにそう言われ、イリスは少し悩むように考える。まあ確かに自分の特徴は脇腹一箇所にあるだけで、タオルで隠せないこともない程度のものだ。

 

「人数多いほうが楽しいし、レイリスも行こうって!」

 

「……うん、じゃあせっかくだし……」

 

 エルミラに押され、イリスは結局行く事を決める。するとこの男もあっさりとさっきと主張を変えた。

 

「じゃあ私も行きます」

 

 ラプラがにこやかな笑顔でそう言うと、すかさずイリスは「大丈夫なの?」と不安げに聞く。ラプラは「大丈夫ですよ!」と、逆に不安になるほど力強く頷いた。

 

「だってイリスと一緒にお風呂に入れるなんて……ふふふっ、それってつまりあんなことやこんなこと……大丈夫じゃなくても大丈夫って言いますよ」

 

「大丈夫じゃないなら来ないで!」

 

 色々な意味でラプラが来るとまずいと判断したイリスは、そう叫んでラプラを止めようとする。だがラプラは行く気満々な態度を変えなかった。

 

「絶対に行きますよ。何があろうと」

 

「……じゃあやっぱり私が行かないって言ったら?」

 

「それなら私も行きません。まぁその場合でもどっちにしろ、一緒にお風呂に入る事は変わりませんけどね。むしろその方が二人きりで都合がいいですね」

 

「……」

 

 そう笑顔で言うラプラの目が本気で怖くて、思わず身の危険を感じたイリスは本能的に身を守ろうと動く。

 今日こそマジで襲われるかもしれないと怯えた彼は、とある強行手段に出た。

 

「ごめんちょっとしばらく寝てて」

 

「あぐっ……!」

 

 イリスは手刀でラプラの首の後ろあたりに衝撃を与え、彼を昏睡させる。

 そしてその場に崩れ落ちて倒れるラプラ。静まり返る現場。気まずい沈黙。

 

「……」

 

 良い子は絶対に真似しちゃいけないことをやってしまったイリスは、また訪れた気まずい沈黙の中でとりあえず一言言った。

 

「大丈夫、息はしてるから!」

 

「……うん、そうだね……でも皆がツッコミたいのはそこじゃないと思うけどね」

 

 エルミラがこの沈黙の意味を正しく説明し、イリスはまた気まずそうに彼から目を逸らす。

 

「……まぁいいや。こいつはウネに任せて……とりあえず行くか」

 

 ユーリはラプラを見下ろしながらそう言い、ウネは彼の言葉に神妙な面持ちで頷く。そしてウネは迷い無くラプラの足を持って、その姿勢のままどこかへと引きずりながら移動させはじめた。

 

「……」

 

 ウネのワイルドな移動方法に誰もが言葉を発せず、またしばらく沈黙が続く。

 その後ウネ(と、ラプラ)を見守った後、皆は公共浴場へと向かうこととなった。

 

 

 


 前回来た時より少し人数が少なくなり、アーリィとミレイ、それにアゲハという珍しい組み合わせがたどり着いた近所の公共浴場の女湯へと足を踏み入れる。

 料金を支払って彼女たちが脱衣所まで進むと、時間が時間だからか中は人の気配が無く、音は湯が跳ねる音が聞える程度で非常に静かだった。

 

「おねえちゃん、きょうはろーずおねえちゃんたちはどうしていっしょじゃないの?」

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