救済の方法 38
「んだよローズ、何がダメなんだよ」
ユーリはもうすっかり”今のローズ”に違和感無くなったようで、、本気でわかってなさそうな表情で彼女に問う。するとローズはこれ以上無いくらいに真剣かつ力強くこう言った。
「ダメに決まってるだろ! 今度はウネにアゲハもいるんだ! ありえない!」
「えー? 気にしすぎじゃねぇの?」
「お前が気にしなさすぎなんだよ!」
「ははっ、まぁ所詮他人事ですし~」
「ユーリ、お前なぁ……っ!」
ローズが本気で睨みつけると、ユーリは苦笑しながら「わりぃ、冗談だよ」と返す。そして彼は言った。
「んー……じゃあ家の風呂も用意してやるよ。その代わり俺は風呂屋行くけど」
ユーリは「家の風呂使いたい人だけ使えばいいんじゃね?」と、今回はローズに配慮した提案をした。
そしてこれならローズも納得のようで、彼女はひどく安心した様子で息を吐く。
「そうだな……それなら問題無いな……」
「つかオレがお前の立場だったら、喜んで公共の風呂使うけどなー」
ユーリの一言にジュラードは首をかしげ、ローズはジトッと彼を睨みながら「風呂での私の立場を知らないからそういうことが言えるんだ」とユーリに言い返す。
「立場って?」
「それは……い、言えるわけ無いだろ!」
何故か顔を真っ赤にするローズに、ユーリはやはり笑って「ま、大体想像つくけどな」と言う。それを聞き、ローズはまた顔色を変えて今度は青ざめた。
「想像……っ! そんな、嘘だ……だって、そんなこと……う、うわあぁ、じゃあユーリは私がアレコレなことをもう知ってるのか?!」
何故か急にまた取り乱し始めたローズに、ユーリはぽかんと目を丸くする。
「あれこれ? いや、そんな具体的な事はさすがにわからん……」
「うわああぁもう嫌だ! 恥ずかしい……あああぁぁっ!」
「もしも~し、ローズ君、俺の話聞いてる? つかどしたの、急に」
「よりによってユーリにまであんなんことが知られたらもう……うわああぁああぁんっ!」
何がなんだかさっぱりわからないまま、ローズはマヤを胸に挟んだまま涙目で叫びながらどこかに走っていく。
そしてその場に取り残されたユーリは、同じく取り残されたジュラードに「あいつ、どうしたんだ?」と聞いたが、その疑問にはジュラードも答えられず首を傾げた。
「あいつは女湯で一体どんな目にあってたんだ?」
「さぁ……」
ローズが心に傷を負って部屋に引きこもった頃、結局ユーリの作業を手伝う羽目になったジュラードが、その作業を終えてユーリと共に大多数の人が集う居間へ向かう。
するとやはり皆が風呂について疑問に思っていたようで、ユーリの姿を見たアーリィが、うさこを胸に抱えながら彼に駆け寄ってこう聞いてきた。
「ユーリ、体洗うのどうしよう?」
「あぁ、それね。それならさっきローズにも話したけど、家の風呂も準備するけど、風呂屋にも行こうってことになったから」
ユーリがそうアーリィに答えると、アーリィは「どういうこと?」と小首を傾げる。ユーリは「つまりね」と、こう説明を続けた。
「基本風呂屋行くけど、ローズのような『どーしても嫌だ』って人はうちの風呂使ってねってことよ」
「なるほど、理解した」
納得したアーリィは振り返り、アゲハやエルミラに「そう言うことだって」と言う。それを聞き、エルミラたちも各々返事をした。
「皆さんでお風呂屋さんですか! わぁ、なんか楽しそうですね!」
「あー、じゃあせっかくだからオレも風呂行くー。レイチェルも行こうぜー」
「うん、僕もじゃあそうするよ」
エルミラたちは公共浴場へ行くことにしたようだが、しかしユーリの話を聞いてウネはこう返事を返す。
「私はやめておく。そんな場所で、魔族であることを隠しきれる自信が無いから」
「え? 大丈夫じゃないの?」
ウネの返事を聞いてエルミラがそう声をかけ、レイチェルも「僕も大丈夫だと思うよ?」とウネに言った。
「ほら、僕もこんなだけど、大丈夫だよ。お風呂って湯気で視界悪いし、タオルとかで何となく誤魔化せるもん」
「そうですよ。せっかくですし、私もウネさんとお風呂入りたいですよ~」
「でも、私は体に模様もあるし……」
「あぁ、そっか……」
ウネの言い分を聞き、エルミラは「ま、無理に行くこと無いからね」と理解した返事を返す。
「そうだな。どっちにしろ今日は家の風呂も準備するし」
ユーリがそう言うと、部屋にイリスとラプラが入ってくる。ユーリは二人を見ると、一応彼らにも入浴はどうするか聞いた。
「ようお前ら。お前らは風呂どーする?」
「え? お風呂?」
ユーリに問われたイリスはどういう意味かと首を傾げ、ラプラはよく理解する前に「イリスと一緒で」と答える。ユーリは二人にエルミラたちに話したことと同じことを説明した。
そしてイリスたちが話を理解すると、彼らはそれぞれにこう答える。
「皆で公共のお風呂入るの? ……私は遠慮しとこうかな」
「イリスが行かないなら私も行きません」
「なんだよ、お前らも行かねぇの?」
二人の返事にユーリが何か意外といった表情を見せる。特にイリスが断った事は、具体的な理由も無いのでユーリは気になった。
「何お前、みんなの前で裸見せるの嫌とか女々しいこと思ってんの?」
「……そうじゃないけど」
不機嫌そうにそう返事をしたイリスに、ユーリは「じゃあ何でだよ」と問う。
「なんでもいいじゃんか。とにかく私は遠慮する。ひっそりとした温泉とかなら行くけど、公共浴場は嫌なの」
「……怪しい」
イリスが明確な理由を語らない事をユーリがますます不審に思うと、アゲハが何故か怒った様子でユーリにこう声をかけた。




