禍の病 4
「……なんかかっこいい!」
「そうそう、鶴ってかっこいい鳥なんだよー」
本物の鶴とはかけ離れた新しい生き物を想像するミレイだが、アゲハはそれに気づかずに理解してくれたことに嬉しそうに微笑む。
「じゃあこれミレイちゃんにあげるね」
「いいの?」
「うん、どうぞ」
アゲハが今折った鶴をミレイに手渡すと、ミレイは嬉しそうな笑顔になる。それを横目で見ていたレイチェルが「ミレイ、貰ったらちゃんとお礼言わないとね」と声をかけると、ミレイはハッとした様子となって慌ててアゲハに「ありがと」と言った。
「おにいちゃん、つる!」
ミレイが早速貰った折り鶴をレイチェルに見せると、レイチェルも笑顔で「よかったね」と言葉を返す。
「おにいちゃんはつる、みたことある?」
「僕も鶴は見たことないんだ……この辺にはいないからね」
「ふふん、オレは見たことあるぜ!」
「赤毛だまれ、おまえにはきいていない」
「うげぇ……ひどーい」
ブレることなくいつでも自分に辛辣なミレイの態度に、エルミラはしょんぼりと肩を落とす。そんなエルミラを気の毒そうな様子で見つめながら、アゲハは彼にこんなことを聞いた。
「でもどうしてミレイちゃん、エルミラさんにはそんなふうに厳しいんでしょう?」
アゲハのその疑問に、エルミラも困った様子で「何でなんだろうね」と答える。ミレイの基礎人格を組み上げたのは『何でだろ』とか言ってるエルミラ本人だったが、彼にもミレイの態度は疑問らしい。
「エル兄の態度が普段から不真面目だから、それを見たミレイも何か思うところがあってこういう態度になったんじゃない?」
「おいおいレイチェル、オレのどこが不真面目だよ。超真面目だって」
「どうだろ……真面目な人は自分で『超真面目』だなんて言わないと思うけどね」
「レイチェルもエルミラさんになかなか厳しいね」
「そうなんだよアゲハー、オレ超アウェイな状況で頑張ってるんだよー? 褒めてよー」
「赤毛うるさい、ちょっとそこのすみっこでひざかかえてだまってろ」
「酷いうえに意味わからない!」
そんな話をしている内に、四人が待っていた列車が駅へと入ってくる。ミレイがそれに気づき、「きた!」と嬉しそうに声を上げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
マヤが心配していたような事態は特に何もなく一晩ゆっくり休んで朝を迎えたジュラードたちは、宿で軽く朝食を食べた後に早速ユーリたちのいるアゼスティ国へ向けて出発した。
「さぁて、ここからどうやってアゼスティに行きましょうかねぇ」
小さくても場を仕切るほどの存在感を放つマヤが、いつもの定位置に収まりながらそう発言する。
宿を出たジュラードたちは、何か移動手段は無いかと町の中を歩いて探していた。とにかく西へ向かわなくてはいけないのだが、歩いていける距離では無いので、彼らは何か乗り物を利用したいと考えたのだ。
「う~ん……この町には列車は通っていないようだしな。遠距離への移動手段は馬車が基本らしいし……」
宿の主人に聞いた話を改めて確認するようにローズが呟き、隣を歩くジュラードが「ならそれで取り合えず列車の走るオーラントまで行くのはどうだ?」と地図を眺めながら言う。
「それもいいけど、そこまで馬車で行くの四、五日平気でかかるのよね~」
「もっと早く行きたいよな……ん?」
視界の先に何か気になるものを見つけたらしいローズが声を上げる。ジュラードとマヤもそれにつられるように、彼女の視線の先を追うように見た。
三人の視線の先では何やら騒がしい人だかりが出来ており、それと共に妙としか形容できない謎の機械の塊が道の真ん中に置かれている。その機械の塊は底辺に付いている車輪も含めると高さが2メートルかそれくらいで、長さも2メートル以上はある大きなものだった。
「何かしら、あれ」
「さぁ……なんだろうな」
「鉄の塊?」
人だかりと謎の物体を前に、三人はそれぞれに首を傾げる。そして何となく気になったので、三人はそちらの方へと近づいてみることにした。
「さぁレディたち、それに男もついでによく見てっておくれよ。これは我がヒューメーン機械技術総合研究社がヴァルメールのエンジニアに特注で作らせた今最先端の乗り物だよ。その名も”自動走行車”さ」
人々に囲まれる大きな機械の塊の横で、長い金髪の優男が何やら説明らしきことを口走っている。どうやら彼がこの機械の塊の所有者らしい。
ジュラードたちは人だかりに混じり、何やら女好きっぽい雰囲気の男の話をそのまま聞くことにした。
「この乗り物は液体燃料を消費して走るのだけども、馬車と違い休みを取る必要は無いのさ。そしてその速度も馬車を圧倒的に超えるんだ。この自走車ならば、ここからオーラントまでなんとほぼ一日で辿り着くことが出来るんだよ。素晴らしいだろう?」
男の得意げなその説明に、人々の間から半信半疑の驚きの声が漏れる。ジュラードたちも驚きを囁きあった。
「ここからオーラントを一日で? す、すごいじゃないか……」
「あんな機械の塊でそんなことが可能なのか? 列車とは違うようだし……」
「ん~……でも昔はああいう小型の機械自動走行車は存在していたのよね。マナを動力エネルギーに変換して走るタイプのものだけど。液体燃料をエネルギーにって言ってたけど、あれもそれと似たようなものかしら? ちょっと興味深いわねぇ」
マヤの呟きに、ジュラードは感心した様子で「そういうものが昔もあったのか」と言う。そしてローズは「なら、アレに乗せて貰えたら楽にオーラントまで移動できるな」と、目を輝かせながら言った。
「いいなぁ……乗せてもらいないかなぁ」
なんかちゃっかり図々しい事を呟くローズに、ジュラードが横目で呆れた視線を向ける。
「無理だろ……」




